エレクトロニクス立国の源流を探る
No.125 電蓄からデジタルオーディオまで 第27回
CDプレーヤー普及の鍵は低価格化
様々な技術的課題を克服することでCDの実用化が可能となり1982年10月にソニーから初のCDプレーヤー「CDP-101」(168,000円)が発売され、それに続いて各オーディオメーカーも一斉にCDプレーヤーを発売した。各社のCDプレーヤーもソニーの「CDP-101」の価格を参考にしていたようで18万円前後の価格設定となっており、当時の物価からみてかなり高価だった。この高価格がネックとなり、メーカー各社が"デジタルオーディオだから音が良い"と、いくらPRに力を入れてもなかなか普及しなかった。また、CDソフトの方もCBSソニー、EPICソニー、日本コロムビアから発売されたが、価格は1枚3,800円~3,500円とアナログレコードより高価だった。
根強かったアナログオーディオ信奉者からのCD批判
CDが普及するためには、CDプレーヤーとCDソフトの低価格化が必要だった。同時に、根強いアナログオーディオ信奉者から"CDはノイズが少なくS/Nは良いが、温かみのある音ではない"、"デジタル的な音で自然な雰囲気でない"、"CDは皆画一的な音がする"などの声もあった。このあたりは、感性の問題でもあるが、著名なオーディ評論家が、それぞれオーディオ雑誌で感想を述べていた。実際、その指摘が的を射ていたかどうかは分からないが、一般の音楽愛好家やオーディオマニアと呼ばれていた人たちに、少なからず影響を与えていたのは間違いない。
ソニーの5万円を切るポータブルCDプレーヤーが普及を加速
CDを早く普及させるためにメーカー各社はCDプレーヤーの低価格化に取組んだ。そして、1984年にソニーから5万円を切るポータブルCDプレーヤー「D-50」(49,800円)が発売された。これによりCDの普及に弾みがついた。しかし、本格的な大量生産によるコストダウンが可能な状況ではなく、わずか初号機発売から2年弱で、ポータブル機とは言え、約3分の1の価格に設定した「D-50」は、赤字覚悟のCD普及への種蒔きを狙った「戦略的価格設定」との見方もある。ともあれ、低価格化を実現したことで、その後のCD普及への起爆剤となったのは間違いない。
1984年にソニーが発売した5万円を切るポータブルCDプレーヤー「D-50」(49,800円):ソニー歴史資料館
デジタル・アナログ・コンバーター(DAC)の性能向上が課題
初期の頃のCDプレーヤーは、デジタルからアナログへ変換するDACと呼ばれるデジタル・アナログ・コンバーターの性能がまだ低かった。16Bitの精度で出力できるDACが少なかったので、CD本来の性能を引き出すためにはDACの高精度化が必要だった。再生の邪魔になる20kHz以上のサンプリングノイズを取り除くため、急峻なアナログローパスフィルターを採用したり、フィルターの次数を上げたりしてサンプリングノイズを減衰していた。このため高域の音質に悪い影響を与えていた。
オーバーサンプリング技術が登場
これを解消する技術としてオーバーサンプリング技術が登場した。2倍オーバーサンプリングから始まり、やがて4倍オーバーサンプリング、8倍オーバーサンプリングと進化して行った。これらによって88.2kHz近辺のサンプリングノイズを取り除くアナログローパスフィルターの次数を低く出来るようになり、高域の音質を向上することが出来てきた。
画期的だった1Bit・DACの登場
さらに、画期的だったのは1989年に登場した1Bit・DACだった。音の大小をハイ、ローの疎密波で表わし、ハイ、ローの数が多いほど滑らかな波形になる。1Bit・DACの動作速度を速くすることで高い分解能が得られ、アナログ的な滑らかな音に近づけることが出来るようになった。一方では、デジタルフィルターも進化していたので、DACも16Bit以上の精度を持つものが登場していた。これらの高性能DACの開発によって、アナログオーディオ信奉者の間にもCDを聞く人がでてきた。1Bit・DACの性能をより高めるため、信号を正、逆対称にある波形とその補数関係にある波形を合成して高調波歪を打ち消す。また、時間軸の揺れであるジッターを抑えることによってアコースティックな滑らかな音を出せるようになって行った。
DACの進歩により、急峻な遮断特性を持つデジタルフィルターを使わなくて済むようになり、緩やかな遮断特性のデジタルフィルターの採用を可能とした。急峻な遮断特性のデジタルフィルターで出ていたプリリンギングの発生が少なく、自然で滑らかな音の再生が可能となった。
1Bit・DACが主流となる
1Bit・DACの採用が増えるにつれ、量産されるようになりコストも低減したことや、消費電力も少ないこと、マルチビットDACより変換誤差が少ないことなどから、マルチビットDACに代わってCDプレーヤーの普及機には標準的に採用されるようになった。また、高級機には24Bit・DACなどハイビットDACが使われることになる。
参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、「CDのすべて」(電波新聞社)ほか