エレクトロニクス立国の源流を探る
No.126 電蓄からデジタルオーディオまで 第28回
新しい録音機器登場でステレオも新しいスタイルに
新しい録音機器が登場すれば、オーディオ装置もそれを取り込んで新しいスタイルのものになる。1962年にフィリップスがコンパクトカセットテープを開発し、無償でライセンスを開放してから、急速に普及していった。この間の経緯は、すでに本連載でご紹介しているが、開発当初は性能面でオーディオ用としては不十分で、磁気テープメーカーやオーディオ機器メーカーの努力により初めてオーディオ用として使うことの出来るレベルまで性能が向上した。
シスコンからミニコンへ
1960年代から1970年代の初めにかけては、セパレート型ステレオが普及していたが、コンパクトカセットテープの性能アップによって、ラジオと一体化されたラジオカセットレコーダー(ラジカセ)や、コンパクトカセットレコーダーを搭載したシステムコンポーネント(シスコン)が登場することになる。シスコンは、レコードプレーヤー、アンプ、スピーカーなどが独立した製品だが、しだいにコンパクトカセットレコーダーも組み合わせたタイプが主流となって行った。本体幅432mmのものが、いわゆるフルサイズコンポであり、後に、サイズがやや小さいミニコンポ(ミニコン)が登場することになる。
ミニコンポは、パイオニアが1978年に発売したMiniシリーズが人気を呼びミニコンの名称が定着していった。パイオニア以外では、松下電器がA4サイズのコンサイスコンポをテクニクスブランドで発売したほか、東芝もさらに小型のB5サイズ製品をマイクロコンポの名称で発売した。いずれもサイズが小さくても音質が良いことをセールスポイントにしていた。他のオーディオ機器メーカーも小型サイズのシスコンを相次いで発売したが、それらを総称してミニコンと呼ばれるようになる。
CDプレーヤー搭載のシステムが標準になる
さらに、1982年にCDプレーヤーがソニーから発売され、各オーディオ機器メーカーが一斉に追従してからは、CDプレーヤーを搭載したコンポの時代となった。フルサイズコンポばかりでなくミニコンにもCDプレーヤーの搭載が進み、1980年代後半になるとCDプレーヤーの搭載が標準となる。レコードプレーヤー、アンプ、スピーカー、コンパクトカセットレコーダー、CDプレーヤーがそれぞれ別の筐体となっており、予算に応じて追加できることや、それぞれの機器のデザインの統一性、設置場所を取らずに自由にレイアウトできる点などが若者達の間で人気となった。その後、さらにコストダウンを目指し、各機器を一体化した一体型ミニコンが登場する。アイワが各機器を一体化したオールインワンタイプのミニコンを発売した。一体化したことで組み合わせの自由度は無くなるが低価格化が可能で「とにかくステレオが欲しい」という若者達には人気を呼んだ。
アンプの大出力化、スピーカーの小型化、高性能化が進む
一般にスピーカーを小型化すると低音域の再生が難しくなり、迫力に欠ける音になる。ミニコンではスピーカーのサイズに限界があるので、如何にして小型でも十分な低音を再生できるかがスピーカー開発の課題となる。特にCDプレーヤーを搭載するようになってからは、CDの性能を最大限引き出せる音質の良いミニコンとするためには、小型で高性能のスピーカーを開発する必要があった。また、アンプもトランジスターアンプとなり、パワーアップが進んできたので、大出力に耐えられる性能が要求された。
家電系、オーディオ専業各社がミニコン市場に参入
この時期、ミニコン市場に参入していたメーカーは、家電系メーカーでは松下電器、東芝、ソニー、日立製作所、三菱電機、シャープ、など。これにオーディオ専業メーカーとして、アイワ、オンキョー、ケンウッド、山水電気、ティアック、ヤマハ、日本ビクター、パイオニア、A&D、ナカミチ、日本マランツなどが参入し、まさにミニコン花盛りといった状態だった。
一方、ラジカセもコンパクトカセットレコーダーに加えて、CDプレーヤーを搭載したCDラジカセが標準となっていった。そして、本体サイズも段々と大きくなり、スピーカーの口径も大きく大出力で再生できるものが登場し、一体型のミニコンと価格的にも大差ないものも登場している。中には、ウーハーとツィーターを搭載した2WAYスピーカーシステムを搭載し、本格的な音質を追求したものもあった。
ラジカセもCDの登場によりCDラジカセが標準になった
CDの功罪
CDプレーヤーを搭載したミニコンの登場によって、オーディオファンは以前にも増して手軽に音質の良いステレオを手に入れることが出来るようになっていった。その反面、どのミニコンポでCDを再生しても似た様な音になり、メーカーや機器の違いによって特徴があまり無いということになる。便利で手軽なCDプレーヤー搭載ミニコンは、それまでのLPレコードを如何に良い音で再生するかに努力したアナログ時代とは違って、オーディオ愛好家の苦労を無くしてくれた。しかし、それは同時に自分で工夫して音質を向上させるという本来の楽しみ方を奪ってしまうことにもなった。
このことが、後にオーディオ市場の低迷に繋がってしまう。誰でも手軽に良い音を手にする事が出来るのがCDの「功」なら、ある意味でオーディオ愛好家の良い音を追求する楽しみを奪ったのは「罪」と言えるかもしれない。むろんCDの性能を最大限引き出す要因は他に無くは無かったのだが、これはハイエンドユーザーに限られており、一般のオーディオ愛好家はメーカーの御仕着せのセットで十分満足と言うレベルだった。
参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、「CDのすべて」(電波新聞社)ほか