エレクトロニクス立国の源流を探る
No.127 電蓄からデジタルオーディオまで 第29回
デザインや機能面での差別化が進んだミニコンポ
CDプレーヤーが登場したのは1982年だが、翌年開催のオーディオフェアでは、各社のCDプレーヤーが展示され比較試聴が行われた。さらに、その翌年も比較試聴が行われていたが、それ以降は行われていない。これは推測だが、やはりCDプレーヤーは、メーカーや機種によって簡単に分かるほど音に差が無いということだったのだろう。音質というよりはむしろ、CDオートチェンジャーやカートリッジ式CDプレーヤーの発表など機能面での訴求がなされていった。
様々な機能を盛り込んだ日本ビクターのミニコンポ (「日本ビクター60年史」から引用)
一方、CDプレーヤーを標準搭載化したミニコンポは、どこで他社製品との差別化を図るかが重要なテーマとなる。そこでデザインや機能性で特徴を持たせたミニコンポが発売されるようになっていった。前面パネルにアルミ素材を使うことで高級感を出したり、黒い樹脂を前面に採用して高級感を醸し出したりした。また、リモコンで音量調整ができる電動ボリュームを採用したり、グラフィックイコライザーを搭載したりと派手な演出で目を引くようにした。さらに、ダビングに便利なよう、カセットデッキをダブルデッキとし、カセットからカセットへのダビングやCDからのダビングのし易さなどが訴求された。
デジタル録音可能な機器への要望高まる
こうした様々な努力があって、オーディオ市場は低迷から脱し、再び活性化した。また、思い切った低価格化を目指し、外観は一見、各コンポーネントが分離独立している様に見えるが、実際は一体型であり一つの筐体の中に収納されているタイプが発売された。これに対して、むしろ逆方向を目指した高級タイプのハイコンポと呼ばれるものも登場してくる。しかし、いずれにしてもCDプレーヤーは再生のみコンポーネントであり、録音やダビングはカセットデッキを使ったアナログとなってしまう。現在ではパソコンを使って簡単にCDを自作できるが、その当時は、まだパソコンは普及しておらず、録音はカセットデッキを使うしかなかった。
DAT(Digital Audio Tape)"ダット"の開発進む
そんなわけで当然のこととして、自分でデジタル録音できる機器が欲しいという要望が出て来た。こうした要望に応えて、磁気テープを使ってデジタル録音するDAT(Digital Audio Tape)"ダット"の開発が行われた。このころ各社がDATの開発を進めていたが、互換性を図るため規格を統一する必要があり、1983年にDAT懇談会が設立された。日本のメーカーが主体となって話し合われた結果、1985年に2種類の規格が制定された。
R-DATとS-DATの2種類が規格化される
一つは、VTR(ビデオテープレコーダー)のように回転式ヘッドを用いるR-DAT(Rotary Head DAT)であり、もう一つは、固定式ヘッドを用いるS-DAT(Stationary Head DAT)である。当然、固定式ヘッドを使えば、構造が簡単で作りやすく、低価格化も可能となる。しかし、それには高密度に記録できるヘッドが要求される。従来のアナログオーディオテープ用磁気ヘッドの改良程度では対応できず、ヘッドの開発が足かせとなって実現できなかった。一方、R-DATはVTRで開発された技術の応用であり、回転ヘッドを使ったヘリカルスキャン方式を踏襲すればよい。という訳で、商品化されたのは、R-DATのみとなった。
R-DATの規格は、カセット寸法が縦54mm、横73mm、厚さ10.5mmで、アナログのコンパクトカセットの約半分のサイズ。録音時間は15分から46分、54分、60分、74分、90分、120分、180分までの8タイプ。テープ走行は片道のみ録音で裏面への録音無しの2チャンネル。標本化(サンプリング)周波数48kHz、44.1kHz、32kHzの3種類、量子化ビット数16ビット。標本化周波数48kHzは、CDの44kHzよりも高い。つまりCDより広帯域の録音・再生が可能であり、一般のオーディオファンだけでなく、プロ用、業務用としても十分対応できる性能を持っていた。
日本レコード協会、音楽界から反対でCDコピー不可能に
DATの標本化周波数が44.1KHzと、CDの44kHzと比べてわずか0.1kHzずらしているのは、CDのコピーが簡単に出来てしまうのはだめと、日本レコード協会など音楽界から反対があったためだ。DATは、1987年にソニー、パイオニアをはじめ各社から据え置きタイプ、ポータブルタイプが発売された。しかし、オーディオファンにしてみると、せっかくデジタル録音が可能な製品が出てきたのにCDを簡単にコピー出来ないのでは、自分でどこかに出かけて録音するしかない。また、価格も高く、業務用としてならともかく、個人で購入するには余りにも高価過ぎた。
一般ユーザーに普及せぬまま衰退したDAT
このため、一般には、自分で音楽活動を行っている人達や野鳥の観察を行っている人達などに普及した程度で、多くは業務用として録音スタジオなどで普及した。そこで広く一般ユーザーにも普及させることを目ざし、1990年には一度だけCDから直接録音できるSCMSを採用した製品が発売された。2世代目のコピーは、デジタルtoデジタルでは出来ず、アナログでのコピーは可能となる。この他、DATはオーディオ用以外にコンピュータの外部メモリーとしても使われた。しかし、後により手軽なMD(ミニディスク)の登場によって、一般ユーザー用としてのDATは衰退していくことになる。
参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、「CDのすべて」(電波新聞社)ほか