MD開発のベースとなった光磁気ディスクMO

MD開発のベースとなったMOは、光磁気ディスク(Magneto-Optical disk)と呼ばれ、赤色レーザー光と磁場を用いて磁気記録を行い、読み取りもレーザー光を用いる。1988年に発売され、2000年代初めの頃までパソコンのデータの記録用などに使用された。1980年代後半から1990年代は、様々なCDファミリーが次々と登場してきた時代で、一度だけ書き込めるCD-Rが1988年に開発され、1989年から発売された。また、何度でも書き換え可能なCD-RWは1996年に開発され、1997年から販売が開始された。こうして、MOはCD-RやCD-RWとともにパソコンの主要な記録用ディスクとして利用された。

パーソナルオーディオ用には不向きだったCD-RW

何度でも書き換え可能なCD-RWは夢のディスクとして登場したものの、欠点もあってオーディオ用としては不向きだった。CD-RWは、レーザー光で結晶構造を変えて記録する光ディスクを採用しているが、結晶構造を変えてレーザー光の反射率を変化させるので反射光が弱く、光ピックアップの性能が十分でないと正確に読み取れないのが欠点。これでは、パソコンのデータ記録、再生用として使うことができても、パーソナルオーディオ用としては使えない。ましてや電池で駆動するポータブルオーディオ用としては、書き込みや読み出しがパワー不足で全く不向きだった。

実は、ソニーはMDを開発する以前から、CDを使った録音可能な製品を作ろうと研究していた。しかし、光ディスクでは難しく光磁気ディスクであるMOの技術を応用すれば、繰り返して録音、再生のできる製品を作れると考え開発をスタートさせた。

光磁気ディスクMOと他のディスクとの違いは

その光磁気ディスクMOとは、どんなディスクなのだろうか。光ディスクや磁気ディスクとの違いは何処に有るのだろうか。光ディスクでは、レーザー光を使ってディスクにピットを作って書き込み、同じくレーザー光を使ってピットの有無を光ピックアップで読み取る。CDを使ったものでは、一度だけ書き込むことができるのがCD-Rであり、何度でも書き込み、読み取りをできるようにしたのがCD-RWと言うことになる。

一方、磁気ディスクとしては、FD(フロッピーディスク)、HD(ハードディスク)などがある。磁気ヘッドを使ってディスク表面に塗布または蒸着させて磁性体を磁化させて書き込み、同じく磁気ヘッドによってこれを読み取る。当然のことながら何度でも読み書きが可能である。

光ディスクと磁気ディスクの特徴をうまく生かしたのが光磁気ディスク

この両者の特徴をうまく利用したのが、光磁気ディスクだ。光磁気ディスクには磁性を持った記録層があり、磁気ヘッドで磁界を加えて媒体を磁化する。ただし、記録層が常温ではほとんど磁化されないためレーザー光で熱して磁化するようにしている。また、記録方式には光の強度を変化させて磁界を一定とする光変調方式と、反対に、光の強度を一定として磁界を変化させる磁界変調方式がある。

磁性層にレーザー光を照射し加熱、後に磁気ヘッドで磁化

例えば、磁界変調方式では、磁性層にレーザー光を照射して磁性が失われる温度であるキュリー温度と呼ばれる150度以上に加熱する。そして、加熱された部分が、磁性を記録保持できる温度まで冷え始めたら磁気ヘッドにより磁界を加える。磁性体が冷えれば磁性が完全に保持され書き込みが終了することになる。これが、大雑把な光磁気ディスクの仕組みである。

データの保存性に優れ、取り扱いも容易なMO

MOはランダムアクセスが可能であり、パソコンでは3.5インチタイプの128MB~2.3GBの容量が使用されたが、5.25インチタイプのより大容量なMOは、パソコンやワークステーションなどで利用された。また、MOは保護カートリッジに収められており、ゴミや傷などがつかないようになっていた。操作もフロッピーディスクと同じ感覚ででき、耐久性も高く、操作性に優れていたのでビジネス界では大いに活躍した。特にデータの保存性を重視する広告デザイン、官公庁などデータに間違いが起こらないようにしなければならない分野では、便利な記録装置として重要視された。

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MOディスクパッケージ

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MOディスク

それでもMOは日本以外ではあまり普及しなかった

しかし、MOの普及は日本国内が中心で、世界的にはあまり普及しなかった。それは、より安価なZipドライブが世界中で普及して行ったからである。さらに追い討ちをかけるかのようにCD-Rが出回り価格面で不利な状況になった。やがてパソコンにCD-RWやDVDドライブが搭載されるようになりMOの出番が少なくなる。おまけに、LSIを使ったSDカードなどのICメモリーカードが登場した。はじめは非常に高価だったICメモリーカードも量産化が可能になって行き、どんどん価格も安くなって行った。初期の頃のSDカードは、容量が数10MBから数100MBで1枚数千円もした。しかし、量産化に伴い低コスト化が可能となったため、1GBのSDカードでさえ数千円から、やがては数百円という時代となった。このためMOは競争力を失い、2010年までには姿を消してしまった。だが、MOの技術はMDに受け継がれ、オーディオの世界で活躍することになる。

参考資料:JAS journal(日本オーディオ協会編)、日本ビクターの60年史、SOUND CREATOR PIONEER、ソニーHP、ソニー歴史資料館、パナソニックHP、JEITA・HP、「CDのすべて」(電波新聞社)ほか