エレクトロニクス立国の源流を探る
第191回 日本が生んだ世界的エンタテイメント“カラオケ”第16回(最終回)
通信カラオケ普及で収録楽曲数も20万曲以上となり選曲用“デンモク”登場
通信カラオケの普及にともない、演奏できる楽曲数も急速に増え、20万曲以上の収録数となってきた。電話帳並みか、それ以上に分厚い楽曲のタイトルを収録した数冊の本と、テンキーのあるリモコンを使って歌手名や曲名から楽曲の番号をカラオケ機に転送して演奏をスタートする。しかし、これでは通信カラオケの場合、次々と新曲が追加されるスピードに対応しきれないし、本に掲載されている曲名を調べ、リモコンに数字を入力し転送する手間暇も煩わしい。この問題を解決するために開発されたのが“デンモク”だ。
“デンモク”は 「電子目次本」を略したもの
“デンモク”は 「電子目次本」を略して「電目」=“デンモク”となるが、この“デンモク”は第一興商が商標登録をしており、他社では“デンモク”と呼べないので、エクシングのJOYSOUNDでは“キョクNAVI”(曲ナビ)と呼んでいる。しかし、カラオケ愛好家の間では一般的に“デンモク”という表現が使用されており、「電子目次本」の代名詞として“デンモク”と呼ばれていると言っても良いだろう。“デンモク”の登場によって自分の歌いたい曲探しが格段に楽になったのは間違いない。
“デンモク”の機能が次々と進化
初期の“デンモク”は、単色の液晶タッチパネルを使用していたが、後に発売されたPMシリーズでは7型のカラーワイドディスプレイを搭載している。さらに、視認性・操作性の向上を図った「らくらくモード」も搭載された。このほか、次々と新機能にも対応して行き、単なる選曲機ではなく“デンモク”を核としたエンタテイメントマシンとなって行った。英語の曲や韓国語の曲、中国語の曲なども“デンモク”で簡単に選曲できるようになった。また、選曲した曲の演奏キーやテンポまで“デンモク”を使ってコントロールできる。
カラオケの普及に貢献した採点機能
カラオケの普及に貢献した機能として採点機能がある。初期の採点機能は、音程や声の大きさなどを採点要素としており、実際に歌唱力がある(歌が上手い)か、どうかの採点とはほど遠いものだった。どちらかと言えば、おまけの“お遊び機能”に過ぎなかった。カラオケ大会の審査に使えるまでの採点が可能となったのは、第一興商の通信カラオケ機DAMに搭載された「精密採点」が登場してからだ。「精密採点」はDAM-G100 (BB cyber DAM) 以降に搭載されている採点機能で、音程の正確さだけでなく、ロングトーン、しゃくり、ビブラート、リズム、安定性、抑揚などの様々な歌唱要素を検知し採点している。しかも、総合点だけでなく、それぞれの項目について点数やグラフによって、判別した結果を可視化して表示してくれるので歌い手の歌唱力向上に役立つ。また、歌唱中に音程が合っているかどうか、画面のバーの表示で歌いながら確認できるのも便利だ。また、まだ良く覚えていない新曲なども音程バーを見ながら歌うことができる点でも人気を呼んでいる。
「精密採点Ai」も登場。テレビ放送の“カラオケ・バトル”に採用される
DAMの採点機能は年々進化しており、「cyber DAM」では精密採点、「Premier DAM」は精密採点Ⅱ、「LIVE DAM」は精密採点DXと進化してきた。さらに「LIVE DAM STADIUM」では「精密採点DX-G」「精密採点DXミリオン」と進化。最新モデル「LIVE DAM Ai」では「精密採点DX-G」「精密採点DXミリオン」に加え「精密採点Ai」を選択することができる。こうした採点機能の高精度化にともないテレビ番組のカラオケ大会にも、作曲家などの審査員に代わってDAMの「精密採点」が利用されることが多い。人気番組“カラオケ・バトル”でも「LIVE DAM Ai」が採点に採用されている。
パソコン、ゲーム機用の家庭用通信カラオケが登場
一方、カラオケボックス用の通信カラオケ以外にも、家庭用通信カラオケ“Windows10用”や任天堂のゲーム機用の通信カラオケ、マイク一体型カラオケなど、業務用とは一味違ったカラオケも登場し、カラオケを手軽に自宅やパーティー会場で楽しめるようになったこともカラオケ市場の裾野を広げている。
また、全国カラオケ事業者協会の調べによると2020年度のユーザー市場規模は、新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言などの影響が大きいものの市場別では次のようになっている。酒場市場規模は、カラオケ導入対象となる酒場施設数は全国で134,287件あり、カラオケ導入台数は1施設約1台として、ラオケ稼動台数は約134,300台、約794億円と推定している。
カラオケボックス市場の規模は全国で8,436店。約1,973億円
カラオケボックス施設数は全国で8,436店、ルーム数では約114,200ルームあり、カラオケ台数はルーム数と同じ114,200台と推定。カラオケボックス市場の1ルーム当たりの月間売上推計値は約18.0万円。2020年度は新型コロナウイルスによる休業率が高いため、営業率の補正を加え約1,973億円と推定している。その他の業務用カラオケの市場としては「旅館・ホテル」「食堂・喫茶店」「結婚式場」「福祉施設」「観光バス・船舶」等がある。全国の旅館・ホテル数のうち、カラオケを導入している施設は3,872施設。1施設当たりのカラオケ台数は約3台として、カラオケ台数は約11,600台、約26億円。また「食堂・結婚式場・観光バス・その他」は約246億円と推定している。
カラオケは、これまでに映像カラオケ、通信カラオケをはじめとする様々な進化を遂げてきた。そしてこれからもAiやバーチャル技術、モニターの高画質化、3D技術などによって進化して行くだろう。また、それがエレクトロニクス立国である日本が果たすべき役割であるかもしれない。一方、音楽産業にとってもカラオケの普及によって様々な変化が起きている。CDなどを購入し“歌を聴く”から、カラオケで“歌を唄う”方へと変化している。それに使う費用も“歌を唄う”への割合の方が多くなってきた。また、新曲が発売される前に、その曲のカラオケソフトがカラオケルームに配信されるケースも出ている。「ヒット曲をカラオケで歌う」から「カラオケからヒット曲を産み出す」そんな時代となりつつある。むろん発売される新曲CDには、歌手の歌とともにカラオケも収録されるのが普通だ。そんなわけで音楽産業にとってカラオケは必要不可欠の存在となってきたのである。世界的な新型コロナウイルス蔓延の影響を受け、カラオケを取り巻く環境も厳しいものがあるが、新型コロナウイルスにも打ち勝って、日本のみならず世界的な音楽文化として、なお一層発展することを期待したい。(終わり)
参考資料:一般社団法人 全国カラオケ事業者協会HP、レジャー白書、JASRAC(一般社団法人 日本音楽著作権協会)、カラオケを発明した男(大下英治著 河出書房新社)、カラオケ秘史(烏賀陽弘道著 新潮社)、カラオケの科学(中村泰士著 はまの出版)、カラオケ王国の誕生(朝倉喬司著 宝島社)、笑う科学イグ・ノーベル賞(志村幸雄著 PHP研究所)、外国語になった日本語の事典、白鵬大学論集(柳川高行氏)、文化庁HP、日本ビクターの60年(日本ビクター編)、「SOUND CREATOR」(パイオニア編)、他