日本語ワープロ最大の特長は校正・編集機能と文書保存機能

日本語ワープロ開発の上で、入力方式とともに重要なのは、入力した文書を、校正・編集したり、また保存したりする装置の開発である。つまり、きれいな文書を作る上で、プリンターで打ち出す前に、文字に誤りが無いか、文書表現は適正かをチェックして修正する機能が必要となる。その結果、問題なければプリンターで打ち出すとともに、作成した文書を何らかの装置に保存しておくことになる。

日本語ワープロが、和文タイプライターや手書き文書と決定的に違うのは、校正・編集機能と文書保存機能を持っていることである。入力スピードや出来上がった文書の美しさ、見やすさもさることながら、校正・編集機能と文書保存機能を持つことで、事務処理の大幅な効率アップが可能となるからだ。

和文タイプライターや手書き文書においては、間違った文字を打ったり、書いたりした場合は、消しゴムや砂ゴムで消して、その上から書き直す必要があり、大変な手間と時間を要する。ましてや、2行、3行の修正となると、ほとんど打ち直し、書き直しとなってしまう。

訴求効果のある文書作成、文書の再利用が可能に

その点、日本語ワープロでは、ディスプレイに表示した文書で、校正・編集ができ、容易に修正可能だった。そして、修正後にプリンターで打ち出せばきれいな文書をスピーディーに作成することができる。また、削除、挿入なども簡単にできるので、自由に文書の体裁を変更することが可能だ。このほか、文字の級数選択、書体選択、装飾なども簡単にできるので表現力に優れた、訴求効果のある文書を作成することが可能となる。さらに、文書の中に、表や図などを挿入することも可能である。

オフィスでは、一度作った文書を一部変更しただけで再度、類似の文書を作成する作業も多い。例えば、商品名・型番だけ変える、取引相手名、日付だけ変えるといった具合に、内容そのものは大差ない文書を作成するケースは多い。一度作成した文書を記憶装置に保存しておき、必要なときに呼び出して、部分的に修正して短時間で目的の文書を作成することができるので、事務の合理化には大きな威力を発揮する。つまり、日本語ワープロでの文書の保存ということは、単なる保存ではなく、再利用するという従来の文書作成方法ではできなかったことが可能となるのである。

表示装置としてCRTディスプレイの採用からスタート

日本語ワープロの表示装置としては、コンピューターと同じくブラウン管を使ったCRTディスプレイが最初のころ使われた。14インチCRTディスプレイの場合は、A4版半分程度を一度に表示することができ、十分、校正や編集作業ができた。むろん文字を小さくすれば1ページ分の表示も可能だが、文字が小さすぎて見づらくなってしまう。文字をある程度見やすい大きさにして、上下、左右にスクロールしながら確認する方が作業はやりやすい。

その後、CRTの大画面化や縦長に設置することによって、丸ごとA4版文書1ページを表示することも可能となっていった。CRTディスプレイの表示には黒地にグリーンの文字というのが一般的だったが、白地に黒文字などもあった。その後、オペレーターの目に優しいなどという理由からアンバー色の文字を使用するディスプレイも登場した。

パーソナルワープロには液晶ディスプレイが採用された

このほかの表示装置としては、液晶表示装置もあったが、初期のころの液晶素子はまだ表示面積が小さく、事務所で使用するような日本語ワープロには不向きだった。この液晶ディスプレイが本格的に使用されはじめるのは、後に、個人用の低価格モデルであるパーソナルワープロが登場してからであった。液晶ディスプレイは、薄型・軽量で、省電力であることから、持ち運びに便利なパーソナルワープロに盛んに利用されることになる。

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東芝のパーソナル日本語ワープロRupo「JW-R10」

当時、電卓の表示装置として全盛を誇っていたが、電卓用としては小面積の表示でよかったが、日本語ワープロ用となると、数倍も大きな面積・表示能力が要求された。これが結果的に、液晶表示装置の需要急増要因となり、わが国の液晶ディスプレイ技術の発展に大きく貢献していくことになる。本連載の「電卓」編でもふれたように、わが国の液晶ディスプレイ技術の発展は、電卓と日本語ワープロの普及・量産による需要拡大が背景にある。それが、今日の液晶テレビ時代をもたらしたといえるのである。

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Rupoの液晶表示部

文書の多彩な校正・編集機能が事務処理を効率化

日本語ワープロの登場によって、文書の校正・編集においてどんなことができるようになったのか。文字の訂正、削除、挿入は当然だが、改行や改ページ、文字や文章の移動、コピーができるので、いちいち入力しなくても作成中の文章をコピーして他の場所に貼り付けることでスピードアップが可能となった。このほか、センタリング、右寄せ、タブ機能、インデントなどで美しいレイアウトの文書や手紙などの作成が可能となった。

さらに、表現力アップのために、下線、網掛け、文字サイズの倍角、半角機能、罫線機能など多彩な機能を持つようになった。また、高度な編集機能も搭載されるようになり、グラフ作成機能や切り貼り、差込み機能、レイアウト表示機能、可変ピッチ、均等割り付け、演算機能などワープロ1台あれば、かなりの範囲の事務処理が可能となっていった。

文書保存は半導体メモリー、HDD、FDなどに

作成した文書を保存する装置として、ワープロ本体に内蔵している半導体メモリーとハードディスクドライブ(HDD)、フロッピーディスクドライブ(FDD)などがある。半導体メモリーは記憶容量が小さいため一時的に記憶しておき、校正・編集などの際に活用する。そして、完成した文書はHDDやFDに保存しておくというのが標準的な構造となった。

HDDは数100ページから数1,000ページの大量の文書を保存できるが、高価なためHDD搭載は高級機に限られた。普及機には比較的安価なFDDが搭載され、5インチ、3.5インチサイズのFDに保存するのが一般的だった。それでもFD1枚に数10〜数100ページの文書を保存することができた。

作成した文書のワープロ同士の互換性が課題に

そして、FDの場合は保存した文書を互換性のある他の日本語ワープロに挿入して、文書を再利用できるメリットがあった。漢字のコードは1978年にJISの第一水準と第二水準、合わせて約68,000字が制定され、コンピューターで漢字を扱う上で漢字コードの統一が進んでいた。しかし、異なるメーカー同士の日本語ワープロでは、システムやソフトウエアの違いなどから、FDが同じサイズでも文書の互換性が無く、その後、これが大きな課題となっていった。

参考資料:「新・匠の時代」(内橋克人著:文芸春秋)、東芝科学館、「日本語ワープロの誕生」(森健一、八木橋利明:丸善)、社団法人情報処理学会HP、富士通HPほか