キヤノンが4色カラー印刷可能“キヤノワード”「α10」発売

1987年3月にキヤノンは、熱転写方式の4色カラー印刷が可能なワープロ“キヤノワード”「α10」を発売した。カラー印刷に対する要望はあったものの、高価になる点がネックだった。しかし、キヤノンは、カラー化には熱心で翌年の10月にはAI機能を搭載し、56ドット印字フルカラー印刷が可能な“キヤノワードα3スーパー”を発売している。

キヤノンは、1980年に“キヤノワード55”を、1983年にはパーソナルワープロ“キヤノワードミニ5”を発売するなど事務機分野においては、複写機やオフコン、プリンタなどとともにワープロにも力を入れていた。中でも、複写機やプリンタはカラー化に向けた技術開発が進んでおり、ワープロへのカラー化技術の採用は他社より優位にあったと言えるだろう。それは、同社の主力商品であるカメラが、将来は銀塩フィルムからデジタル技術の進歩で半導体撮像素子とLSIに取って代わり、写真もカラープリンタで打ち出す時代が来ることを予見していたと想像できる。

カシオ計算機が超小型ワープロ“ハンディライター”「HW-7」発売

一方、1987年8月にカシオ計算機は、“どこでも手軽に印字できる”を売り言葉に超小型のワープロ“ハンディライター”「HW-7」を発売した。超小型手動追随式プリンタを搭載し、従来のワープロでは印字が困難だったノート・手帳・葉書・封筒など多彩な紙に印字できた。カシオ計算機は、2年前に同社初の日本語ワープロ「HW-100」を発売しており、その翌年には、文字情報処理ができる新電卓「データキャル」を発売するなど、文字情報処理技術の開発に力を入れていた。“電卓戦争”で培った高集積、高密度実装技術を電卓だけでなく日本語ワープロや電子手帳へと発展させようという戦略をとっていた。

“ハンディライター”「HW-7」とほぼ同時に発売されたのが、漢字が使える電子手帳の第1号機「DK-1000」だった。JIS第1水準と第2水準の一部の漢字が使え、約47,000語の辞書を内蔵していた。漢字が使えるようになったことで、従来のカナだけの表示に比べ、見やすさが一段とアップ。また、辞書は簡易漢字辞書としても使えるため、紙の手帳にはない機能をアピールできた。いわゆる電子手帳が世間に広まるきっかけとなったモデルだった。

AI機能搭載モデルが相次いで登場

さらに、1988年に入ると、東芝もビジネスワープロでAI機能を搭載した「JW-1000AI」を発売した。AI技術により、文書作成の効率アップと文書の校正機能を持っていた。同一文書内に「である」体と「です、ます」体が混在している時には、これを指摘してくれるので素早く統一性のある文書に変更することができた。また、AI機能は、自動的に文書にマッチしたレイアウトをサポートしてくれた。そして、AI機能を有効に機能させるべく、ディスプレイは大型の17インチ高解像度ディスプレイを縦にして搭載することで視認性を向上させていた。

シャープから始まり、東芝も発売していたAI機能の採用は、次にキヤノンや日本電気へと拡大する。日本電気は、1988年10月に自動仮名漢字変換にAI機能を持たせたビジネスワープロ“文豪”「3VIIEX」「3MII」を発売した。名詞や動詞に意味情報を付加した8万語のAI辞書を装備し同音異義語の選択を正しく行うことができた。

ワープロの多機能化が進む

また、1988年にはシャープが、ワープロ機能だけでなく「アポイントメント機能」「アドレッシング機能」「アミューズメント機能」「メモ機能」の4つの機能を搭載した新しいコンセプトのワープロ「WV-500」を発表した。640×400の大型液晶を採用したA4サイズノートワープロだが、厚さ39.5mm、重量1.6kgのハンディサイズで、単三アルカリ電池5本で6時間連続使用できた。スケジュール管理からゲームまで楽しめるユニークな商品として注目された。

A4サイズの登場など小型・軽量化、薄型化に拍車

さらに、1989年に入ると、新製品の投入が一段と加速してくる。パーソナルワープロはラップトップ型からノート型、A4サイズと小型・軽量化、薄型化に拍車がかかる。ソニーは、プリンタ着脱式ワープロ“プロデュース1000”「PJ-1000」を発売した。水平印字方式を採用し、48×48ドットで多くの材質のものに印字が可能だった。

日本電気は、パーソナルワープロとして初めてA4フルページの画面表示が可能な12インチ縦型ディスプレイを搭載した“文豪mini7HR”と、40字×22行の大型液晶表示付きのラップトップ型“文豪mini5HD”を発売。文豪mini7HRは,パーソナルワープロとしては業界で初めてA4フルページ(40字×41行)の表示が可能だった。

また、パーソナルワープロとしては初めてデスクトップパブリッシング用のレイアウトソフト「パーソナルDTPシステム」を標準装備していた。さらに、拡大文字を高品質に印字できるアウトラインフォント、48ドットプリンタを標準装備し多彩で高品質な文書を作成できた。“文豪mini5HD”は、ラップトップ型ながら40字×22行表示のハイコントラスト液晶画面と48ドットの高密度印字プリンタを装備していた。また、同社は、A4サイズノート型ワープロ“文豪mini5CARRYWORDEX”もこの年に発売している。プリンタ分離型の小型・軽量のパーソナルワープロで、40字×11行の液晶画面を採用しながら、A4サイズで重さ1.4kg、厚さ30mmと当時、最軽量で最薄、携帯性に優れていた。また、電子手帳機能も装備していた。

富士通は、同社初のラップトップ型ワープロ“OASYS 30LX”を発売。40字×21行表示の高輝度バックライト付大型液晶ディスプレイ(チルト式)を採用するとともに、48×48ドットの高品質熱転写プリンタとシステム手帳機能を搭載していた。さらに、同社初のノート型パーソナルワープロ“OASYS 30AD(アド)”も発売した。A4サイズで2kgの軽量コンパクトボディに、40字×21行表示の大型液晶画面を採用し、内蔵のモデムカードで外出先での通信端末として利用可能だった。さらに、3.5インチFDDを搭載、他のOASYSシリーズとの互換性を持っていた。また、別売の専用48×48ドット熱転写プリンタを使えば高品位な印字も可能だった。

ビジネスワープロより高品位印字だったパーソナルワープロ

このころのワープロは、ビジネスワープロでは、24ドット印字、パーソナルワープロでは48ドット印字が中心と言った具合で、どちらかと言えばパーソナルワープロの方が高価なビジネスワープロより印字品質は高かった。これは、ビジネスワープロは伝票など複数枚の帳票印刷を同時かつ高速で行う必要性があり、それにはドットインパクトプリンタでなければならなかった事情がある。

ドットインパクトプリンタの構造から、むやみにドット数を増やすわけにはいかず、限界があったことも大きい。これに対してパーソナルワープロでは、主に熱転写プリンタが採用され、ドット数を増やすことは比較的容易だった。しかし、熱転写プリンタはリボンの消費が激しくコスト的に高く付くのが難点で、プリント枚数の少ないパーソナル需要に適していた。

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パーソナルワープロは、高品質印字だが熱転写プリンタはリボンの消費が激しく、感熱紙は高価でコスト的に高く付くのが難点だった。

参考資料:シャープHP、カシオ計算機HP,「新・匠の時代」(内橋克人著:文芸春秋)、東芝科学館、「日本語ワープロの誕生」(森健一、八木橋利明:丸善)、社団法人情報処理学会HP、富士通HPほか