1989年にワープロの累計販売台数が1,000万台を突破

東芝が1979年2月に、初の日本語ワープロ「JW-10」を630万円で発売してから約10年たった1989年には、年間271万台の販売台数となり、この間の累計販売台数も1,000万台を突破した。しかし、この年をピークに日本語ワープロの年間販売台数は少しずつ減少し始めた。ビジネスワープロ、パーソナルワープロとも、ほぼ需要が一巡し、買い替えや買い増し需要へと移行するとともに、台頭してきたパソコンとの競合が影響してきたのである。

それでも、電源を入れてすぐ使うことのできる日本語ワープロ専用機のメリットは大きく、使い勝手の良さが評価され需要は根強かった。また、メーカー各社の新製品開発競争も激しさを増していた。そして、1990年には東芝が日本語ワープロの最高級機としてDTP機能(デスクトップパブリッシング)を搭載した「DTP-7000」を発売した。レイアウト作成や印刷機との接続などの機能を装備し高度な編集機能を持っていた。

日本電気が大型ディスプレイと大容量記憶装置搭載の文豪「mini5RD」発売

また、日本電気は1990年2月、白黒液晶表示の40字×22行のバックライト付き大型ディスプレイを採用した文豪「mini5RD」を発売した。ラップトップ型パーソナルワープロながら大型画面により見やすくなっており、内部記憶容量も30ページと大容量で論文、企画書など高度な文書作成のユーザーにマッチするものだった。しかも、128ドットのマルチラインプリンタを採用しており、拡大文字や画像なども美しく印字することが可能だった。

シャープは、業界初のスーパーアウトラインフォントを内蔵したパーソナルワープロ書院「WD-A340」を発売した。64ドット・400dpiの高精細プリンタを採用し、スーパーアウトラインフォントとの連動で小さな文字から拡大文字まで美しくなめらかに印刷できた。また、日立もA4サイズのパーソナルワープロ「with me BP-10」を発売した。充電池を内蔵し屋外でも使用でき、640×400バックライト付白黒LCDや3.5インチFDDを装備していた。プリンタは、厚紙にも対応できる40字/秒熱転写プリンタを採用し、書体も明朝体、ゴシック体、筆記体、毛筆体の4書体を装備していた。

日本電気が業界初の用紙オートローディング機構搭載文豪「mini5RC」発売

1991年には、日本電気が業界で初めて「用紙オートローディング機構」を標準搭載したラップトップ型パーソナルワープロ文豪「mini5RC」を発売した。本体底面に内蔵された用紙トレイからプリンタに用紙を自動的に供給でき、容易に印刷できた。このほか、表紙や題目などの定型をあらかじめ作成し、印刷しておくことにより必要な内容だけを随時変更して印刷することができる「定型フォーム印刷機能」を内蔵、効率的な印刷を行うことができた。また、「アウトラインフォント生成機能」や、128ドットマルチラインプリンタを搭載していた。さらに、複数回使用することが可能なマルチタイムインクリボンカートリッジをサポート、ランニングコストの低減が可能だった。

富士通は、「ポケットサイズワープロ」と称した超小型・超軽量のワープロ「OASYS Pocket」を1991年3月に発売した。サイズは、225mm(W)×114mm(D)×26mm(H)とスーツの内ポケットに入り、重量530g、単3アルカリ電池で約10時間動作など携帯性に優れていた。しかも、編集機能はOASYSシリーズと同等で、システム手帳機能が搭載されており、パーソナルユースにマッチしたもので新たな使用シーンを提案するものだった。さらに、モデム(オプション)を接続すればパソコン通信が行えるので、高度な使い方を志向するユーザーにとって、単に日本語ワープロにとどまらず幅広い応用を可能としていた。

ワープロにパソコンの統合型表計算ソフト「Lotus 1-2-3」搭載

東芝は、1991年5月に統合型表計算ソフト「Lotus 1-2-3」を搭載したパーソナルワープロ「Rupo JW98UP」を発売した。この「Lotus 1-2-3」はパソコンで広く使われていたソフトだった。1990年代に入るとワープロ専用機とパソコンの競合が激しくなり、パソコンの低価格が競争に一層拍車をかけることになった。しかも、パソコンに搭載される日本語ワープロソフトも徐々に進歩してきており、ワープロ専用機ならではの使い勝手プラス、ワープロ専用機でもパソコンの代表的ソフトを利用可能にすることで、逆に攻勢に打って出る戦略であった。

実は、この時期がワープロ専用機対パソコンの「関ヶ原の戦い」と言えなくもない。ワープロ専用機は、専用機としての使い勝手の良さに加え、パソコンのソフトも使えるようになり、一方のパソコンは、ワープロソフトが低価格になり、かつワープロ専用機に劣らない機能と性能を持つようになってきたのである。東芝の「Rupo JW98UP」は、そのはしりであり、「Lotus 1-2-3」のデータとRupo文書間の相互変換機能を持っていた。「Lotus 1-2-3」のデータをRupo文書に変換して編集でき、またRupo文書を「Lotus 1-2-3」のデータに変換できた。これにより、Rupoで入力したデータと「Lotus 1-2-3」の表計算処理を自由に組み合わせることが可能だった。

シャープが初のタッチペン採用“Pen書院”「WV-S200」発売

1992年に入ると、シャープはタッチペンをワープロに初めて採用した“Pen書院”「WV-S200」を発売した。同社は「オンリーワン戦略」で市場での競争力を追求していた。他社には無い独自のオンリーワン商品を提案販売することで、まだ弱かったブランド力をカバーするとともに、価格競争にも対応していこうという狙いである。“Pen書院”「WV-S200」は、ワープロにタッチペンを採用することで他社製品には無い機能を提供、オンリーワン商品としてタッチペンによる新たな入力方式を提案した。「紙とペン」感覚で入力と操作ができ、ワープロの利便性を高めたものである。フルサイズ液晶搭載モデルで、最小のA5システム手帳サイズ、最薄28mm、最軽量320gの携帯性の良さと機動性を実現したモデルだった。

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シャープのタッチペン採用“Pen書院”「WV-S200」

ワープロの小型軽量化競争が一段と加速

このころになると、ワープロの小型軽量化への競争は一段と加速する。日本電気は、1992年2月、A4サイズで重量3.6kgの小型軽量ノート型パーソナルワープロ「文豪mini5Si」を発売した。同社従来機「文豪mini5SX」比で体積約4割、重量約半分の小型軽量モデルだ。しかも、印刷速度65字/秒、400ドット/インチのプリンタを内蔵している。さらに、キー操作が学習できる「キーボード入門ソフト」やワープロ検定3級の実力までをゲーム感覚で習得できる「ワープロ検定練習ソフト」を標準した親切設計の普及モデルだった。

さらに日本電気の新製品攻勢は続き、似顔絵付きの名刺や塗り絵などの印刷物を手軽に作成できる機能を多数搭載したカラー印刷対応の「文豪mini5SH」など5機種を発売した。11種類の「文豪おもしろ印刷」機能や、アイロン印刷、往復葉書印刷など18種類の印刷機能を搭載、楽しくワープロを使えるようにすることでワープロユーザーの幅を広げる狙いがあった。また、葉書の大きさに合わせて最適な文字サイズを選択して宛名を印刷する「自動レイアウト機能」や、肩書きや差出人の電話番号を印刷できる便利な宛名印刷機能も搭載していた。

参考資料:シャープHP、カシオ計算機HP,「新・匠の時代」(内橋克人著:文芸春秋)、東芝科学館、「日本語ワープロの誕生」(森健一、八木橋利明:丸善)、社団法人情報処理学会HP、富士通HPほか