エレクトロニクス立国の源流を探る
No.54 日本のエレクトロニクスを支えた技術「日本語ワープロ」第12回
パソコン用ワープロソフトとの競争が激しさを増した1990年代
1990年代に入って、パソコン用ワープロソフトとの競争が激しさを増してきたが、それでも日本語ワープロはターンキー操作ですぐ使える便利さから根強い需要があった。需要一巡により買い替え需要が中心となっていったが、パソコンの操作が苦手な年配層にとっては手軽で簡単操作が可能な日本語入力専用機として便利なマシンとなっていた。
市場規模こそパソコンに食われて少しずつ縮小傾向にあったものの、日本語ワープロ市場での生き残りをかけてメーカー間のシェア争いは激烈だった。日本語ワープロ市場から撤退していくメーカーもある中で、東芝や富士通、NEC、日立、シャープなどのメーカー各社を中心に新製品開発競争は続いていた。と言うのも、パソコンは、OSが未熟なこともあって、フリーズやエラーが頻繁に起き、有る程度のパソコンに関する知識や経験が無いと使いづらいしろものだったからだ。
性能、機能、操作性において進化する余地があった日本語ワープロ
使い勝手の良さで先行する日本語ワープロだが、まだ印刷のカラー化、HDD搭載による記憶容量のアップなど性能、機能、操作性において進化する余地があった。1993年には、東芝が「Rupo JW04N」を発売した。幅297×奥行き210×厚さ39.5mm、重量1.8kgのA4サイズの小形・軽量ノートブック型ワープロで外出先での使用が可能だった。さらに、電源は、AC以外にもニッケル水素電池や乾電池が使用可能で、カード型モデムによる通信機能も装備していた。
また、日立は、A4サイズのパーソナルワープロ「with me BF-60」を発売した。文字を自在に変形する効果文字機能を搭載したことにより、特徴のある文書を作成できた。さらに、国語辞書機能をROM化し使いやすさをアップした。また、ビジネスワープロ分野では、光学マウス付の「BW-TH960M」を発売した。DTP機能と背景フォーム機能を搭載し、使い勝手を向上するとともに、背景フォーム機能により定型用紙への書き込み作業の効率化を図ったモデルだった。
パーソナルワープロで初めてHDDを搭載した「OASYS 30-AP101」
翌1994年には、富士通がパーソナルワープロでは初めてHDDを搭載した「OASYS 30-AP101」を発売した。120MBのHDDを搭載したことでA4判約6000ページ分の文書を保存できた。さらに、HDDの大容量を生かしてスーパアウトライン書体を内蔵しており、FDDを差し替えることなく様々な書体を使うことができた。このほか、400dpi、190文字/秒の印字が可能な高速マルチラインプリンタ搭載、13種163パターンのグラフ作成機能、モデムを追加することでFAX送受信やパソコン通信も可能だった。
ビデオ入力機能でビデオカメラからカラー映像の取り込み可能
また、日本電気は業界で初めて「ビデオ入力機能」(ビデオキャプチャー)を搭載したパーソナルワープロ「文豪mini5ZV」を発売した。ビデオキャプチャーにより、ビデオカメラなどをワープロに接続するだけで手軽にカラー映像の取り込みができ、撮影した映像をフルカラーで印刷できた。さらに、「用紙カセット」を内蔵し自動給紙による印刷が可能なほか、低コストで印刷できる専用感熱紙の利用も可能だった。このほかバーコードリーダを搭載し書式設定や定型のイラスト、飾り文字などの選択が素早く行え、作成したはがきや名刺データをバーコードで呼び出すこともできた。
日本電気のパーソナルワープロ「文豪mini5ZV」
1994年10月には、富士通がワープロとして初めて画面を指で触って簡単に操作できるタッチオペレーション機能を搭載したパーソナルワープロ「OSAYS LX3000」発表した。タッチオペレーション機能は、様々なワープロ操作を画面への指タッチで行えるほか、ペン入力による手書き入力も可能で、キーボード操作に苦手な人でも簡単に操作できるワープロを目指したものだった。また、フルカラー印刷も可能で、115種類のカラーサンプルから選んで好みの文書や手紙などをカラー印刷することができた。さらに、イメージスキャナを使えばイラストや写真の読み取り、帳票の読み取りや印刷、コピー、FAXなど幅広い用途に使うことができる優れ物だった。
PCカード用スロットを装備、機能追加や拡張が簡単なRupo JW06H
東芝は、PCMCIA TypeIIIのPCカード用スロットを装備し、機能追加や拡張が簡単にできるパーソナルワープロ「Rupo JW06H」を発売した。PCカードは、スキャナで読み取った活字情報を認識してワープロ文書に取り込む「文字読取り(OCR)カード」、パソコンプリンタへの印字が可能な「外部プリンタカード」、ワープロ・パソコン通信が可能な「カードモデム2400」のほか「毛筆/細丸ゴシック体カード」などがあった。さらに、A4サイズまでの写真やイラストなどの読み取りが可能な400dpi,64階調のプリンタ一体型読取りスキャナを搭載していた。優れたOCR技術を持つ東芝ならではの付加機能と言える。
Windows95版パソコン用日本語ワープロソフトが台頭
一方、パソコン用日本語ワープロソフトは、1983年に「PC-9801」用に管理工学研究所の「松」や、ジャストシステムのPC‐100用日本語ワープロソフト「JS-WORD」が発売されていた。さらに1990年代に入るとMicrosoft Windowsが普及し始め、パソコン用日本語ワープロソフトもWindows版が市場を賑わすことになる。そして、1995年には「Windows95」が登場しWindows95版のパソコン用日本語ワープロソフトが主流となる。市場では、一太郎(ジャストシステム)、Microsoft Word(マイクロソフト)、OASYS(富士通)など様々なパソコン用日本語ワープロソフトが人気を呼び市場を賑わしていた。
Microsoftの日本語ワープロソフト「Word」のシェア高まる
「一太郎」は、ジャストシステムの創業者である浮川和宣氏と夫人の浮川初子氏により開発されたPC‐100用の日本語ワープロソフト「JS-WORD」がルーツである。1984年にはIBM JXシリーズ向けに「jX-WORD」を、1985年にはPC-9801シリーズ向けに「jX-WORD太郎」を、そして「jX-WORD太郎」の後継製品として「一太郎」を発売している。その後、次々とバージョンアップをしていき、一太郎Ver.1の発売当時、日本語ワープロソフトウェア市場で大きなシェアを占めていた管理工学研究所の「松」を凌駕していく。
「松」のほぼ半値の低価格ながら機能面では「松」と互角以上と言うことが人気を呼んだ。そして、日本語ワープロソフトの定番としての地位を築いていくことになる。圧倒的なシェアを占めていった「一太郎」の「スペースキーで仮名漢字変換、Enterキーで変換候補の確定」という操作法が標準化していくこととなった。しかし、Windowsへの対応が遅れWindows95版の「一太郎7」の発売は1996年9月になってしまった。さらに、Microsoftが日本語ワープロソフト「Word」と「Excel」の抱き合わせ販売などを行ったことで徐々にWordにシェアを奪われていった。
参考資料:シャープHP、カシオ計算機HP,「新・匠の時代」(内橋克人著:文芸春秋)、東芝科学館、「日本語ワープロの誕生」(森健一、八木橋利明:丸善)、社団法人情報処理学会HP、富士通HP、NEC・HPほか