しだいにワープロ専用機の市場は縮小しパソコン優位に

1995年ころも、「一太郎」や「Word」をはじめとするパソコン用日本語ワープロソフトとワープロ専用機の競合状態が続くが、しだいにワープロ専用機の市場は縮小していった。パソコン用日本語ワープロソフトの進化もめざましく、パソコンやプリンターの低価格化と高性能化が進み、文書作成能力においてワープロ専用機との差はなくなりつつあった。また、単に文字を羅列した文書から、グラフやイラストの入ったデザイン性を求められるチラシや案内文など、より複雑な文書を作成するニーズがでてきた。

モノクロ印刷からカラー印刷へのニーズが高まる

さらに、モノクロ印刷からカラー印刷へのニーズも高まってきた。そしてインクジェットプリンターの進歩もカラー化を可能にしていった。1995年に入って、日立がノートワープロでは初めてのカラー液晶を搭載し、パソコン用カラーインクジェットプリンターに接続可能な「with me BF-220」を発売した。同機には、カラーハンディリーダーのサポートによりカラーの写真やイラストの取り込みも可能だった。

また、同年に富士通がフルカラーイメージスキャナを搭載した日本語ワープロ「OASYS LX-3500CT」を発売している。1670万色に対応したフルカラースキャナにより、写真からカラー画像を読取り、カラーコピーも可能だった。さらに、高品質のカラー印刷を高速で印刷できるプリンターを装備していた。このプリンターのカラー印字方式はSMDP(Semi Micro Dry Process)と呼ばれるもので、熱転写方式に比べ横縞が目立たたない高品位の1670万色フルカラー印刷を高速で行うことができた。さらに、指タッチ操作も可能で、パソコン通信やカラーコピー操作が可能だった。また、文書作成以外にも「タッチ家計簿」や「タッチ健康グラフ」など日常生活で便利なソフトを搭載しており、ワープロ利用範囲の拡大を目指したものだった。

メーカー各社の日本語ワープロ同士の文書の互換性確保へ

このころ、メーカー各社の日本語ワープロ同士の文書の互換性が叫ばれており、「OASYS LX-3500CT」には他社ワープロとの間で文書の交換を可能にする文書コンバータがオプションで提供されていた。東芝の「Rupo」や、シャープの「書院」、NECの「文豪ミニ」を始め数社の日本語ワープロとの文書の互換性を確保できた。さらに、パソコン用ワープロソフト「一太郎」との互換性も確保していた。

パソコンとワープロ専用機の競合状態が続いてはいたが、基本的には、ハード部分において両者の差はわずかであり、搭載ソフトや機能、使い勝手の工夫などに差がある程度だった。したがって、パソコンにワープロソフトを搭載するなら、ワープロ専用機にパソコン用OSや、インターネット機能を搭載することも可能であり、実際、そうしたワープロも登場してきた。

パソコンと日本語ワープロ専用機との機能融合へ

富士通は、1994年に日本語ワープロとして初めてマイクロソフトのパソコンOSである「Windows 3.1」及び「MS-DOS 6.2/V」をプレインストールし、世界中で採用されているパソコン規格の事実上の業界標準規格ATアーキテクチャ採用の「OASYS V」シリーズを発売した。パソコンと日本語ワープロの1台2役を目指したモデルである。同機は、富士通のパソコン「FM Vシリーズ」の各種アプリケーションを利用可能なほか、Netwareサーバにワープロ感覚で文書を格納できるユーティリティ「PCサーバ連携」を提供、オープンなクライアント/サーバ環境でのファイル共有やファイルの一元管理が可能だった。

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富士通の「OASYS V」シリーズ

また、東芝も「Windows 3.1」搭載のワープロパソコン「Rupo WPC5000」を1996年に発売している。パーソナルワープロRupoシリーズの持つ豊富な文書処理機能と文書処理専用機としての使いやすさをMicrosoftの「Windows」環境で実現したモデルだ。パソコンとワープロ専用機の競合の中で、遅れて普及してきたパソコンだが徐々にワープロ専用機に対して優位になってきていた。このため、東芝ではワープロ「Rupoシリーズ」に「Lotus 1-2-3」を搭載しワープロ専用機の機能強化を図ってきたが、パソコンの勢いを抑えることはできなかった。そこで逆に「Rupoシリーズ」にパソコンの文書処理機能などを取りこんでしまうことを考えた。

「Rupo WPC5000」は、11.3インチ高精細カラー液晶ディスプレイ(SVGA対応)や、フルカラーインクジェットプリンターを搭載した一体型で、電源スイッチ、フロッピーディスクドライブ、印刷排紙部を前面に設けRupoユーザーが安心して使えるようになっていた。さらに、電源を入れるとRupoメニュー画面が表示されワープロ感覚で編集作業を開始できた。

また、Rupoメニューの「Windowsへ」を選択すれば「Windows 3.1」のアプリケーションを利用することができた。さらにキーボードにはRupoの機能名称が刻印されているので操作もRupo操作感覚で行えた。むろんワードプロセッサの機能としては,専用機のRupoと同様で、「全文まるごと変換」機能、AI変換、学習機能、ユーザ辞書登録などの機能も搭載していた。プリンターは、330字/秒の高速双方向印刷が可能なフルカラーインクジェットプリンターを搭載していた。

日本語ワープロの技術進化が中国語など他の言語のワープロへ

余談だが、日本語ワープロの進化は、日本語以外にも中国語を始め様々な言語のワープロ開発にも大きく貢献している。NECは、1996年に、中国語ワープロ「文華5SV」を中国で発売している。ハードウェアをNECが開発し、ソフトウェアを日電華電子有限公司が分担開発したもので、中国で人気の高い入力方法「知能ピン音入力」を採用している。また、東芝は、同年に英日翻訳支援機能搭載の日本語ワープロ「Rupo JW-V700」を発売している。OCR機能により英文文書を読み取って日本語に翻訳する英日翻訳支援機能を搭載している。さらに186万語のAI辞書「ハイパーAI辞書」を搭載し、細かな単語の品詞分類に基づく精緻化技法の採用とあいまって、かな漢字変換率98%を実現していた。

参考資料:シャープHP、カシオ計算機HP、「新・匠の時代」(内橋克人著:文芸春秋)、東芝科学館、「日本語ワープロの誕生」(森健一、八木橋利明:丸善)、社団法人情報処理学会HP、富士通HP、NEC・HPほか