エレクトロニクス立国の源流を探る
No.59 日本のエレクトロニクスを支えた技術「パーソナルコンピュータ」第3回
様々なメーカーがトレーニングキットを発売
NECの「TK-80」以外にも次々とトレーニングキットが発売された。東芝は「EX-80」、日立は「H68/TR」、シャープは「MZ-40K」を発売した。これらワンボードマイコンはコンピュータに興味を持つ個人や、エレクトロニクス系の大学や工業高校などで使用された。しかし、入力装置は、いたってシンプルで、ON、OFFスイッチが10個前後並んでいるものや、テンキ―とアッセンブリ言語を入力する30個程度のキーを装備したものなど、現在のパソコンとは程遠く、イメージとしては工場で使われているNC装置の制御盤の様なものだった。
出力装置も同様で、数個のLED列で極簡単なものを表示するといった具合で、機種によってはオプションの拡張ボードを使ってテレビ画面に表示できるようにしたものもあった。それでも、グラスにボトルから液体を注ぎ、ボトルから出た液体がグラスにたまって増えていく様子を表すなど、単純なものだったが、それでも当時はホビー層には新鮮な驚きだった。
ワンボードマイコンに続いて8ビットパソコン(マイコン)が登場
こうした技術者やマニア向けのワンボードマイコンに続いて登場したのが8ビットマイコン、8ビットパソコンなどと呼ばれる製品。8ビットCPUを搭載し、ホビーユースに加え、実用面も意識したものだった。しかし、多くはプログラミングの勉強や、ゲームソフトを楽しむといったことに使われていた。
マメリカでは、1977年にアップル社が「Apple II」を発売していた。日本では、1978年に日立の“ベーシックマスター”「MB-6880」が発表されている。また、同年12月にはシャープが「MZ-80K」を発売、翌1979年にはNECが「PC8001」を発売した。そして、このシャープの“MZシリーズ”とNECの“PCシリーズ”が、その後のパソコン市場で人気を二分していくことになる。
シャープ「MZ-80K」
1980年代に入りパソコンの高機能化に拍車
そして、1980年代に入ると、パソコンの高機能化に拍車がかかる。シャープの“MZシリーズ”は、ディスプレイ一体型だが、初期のセミキットから、1980年発売の「MZ-80K2」では完成品版となり、32KB RAMを搭載し、価格は198,000円だった。さらに、1981年発売の「MZ-80K2E」では、CPUはICソケット式から、基板に直接半田付けするなどコストダウンを図り148,000円と購入しやすくしている。本体とディスプレイ、キーボード、データレコーダが一体となったオールインワンタイプで初心者でも扱いやすいのが特徴だった。シャープでは、他社のパソコンと異なり、BASIC言語やOSをROMに入れない設計で“クリーンコンピュータ”を売りとしていた。
ビジネスユース、OA化を意識したパソコンが登場
さらに、同1981年にビジネスユースを意識した「MZ-80B」を発売している。64KBオールRAM構成で価格は278,000円だった。MZ-80Kを開発したのはNEC同様に部品事業部だったが、部品の販売拡大やホビー向けから、このころ徐々に先の見え始めたビジネスユース、OA(オフィスオートーメーション)化を狙って、パソコン事業を情報システム事業部に移管した。そして、“MZシリーズ”の型番も下二桁に00をつけた「MZ-1200」、「MZ-2000」などへ移行していった。
富士通が「FM-8」でパソコン市場に本格参入
シャープの“MZシリーズ”、NECの“PCシリーズ”の間に割って入ってきたのが富士通だった。富士通は、1981年5月、「FM-8」を発売しパソコン市場に本格参入してきた。正式名は「FUJITSU MICRO 8」と言い、この頭文字をとって「FM-8」と呼ばれた。CPUは、モトローラ社製「MC6809」をメインとし、グラフィックを独立制御するディスプレイサブシステムとしてのCPUと、2CPUアーキテクチャを採用していた。これにより高速処理が可能となり、64K・DRAMの搭載とあいまって640×200ドット8色の表示機能を実現していた。さらに、アナログ入力やRS-232Cポートなども搭載しながら価格は218,000円というリーズナブルさが人気を呼んだ。
富士通は、大型コンピュータ市場で大きなシェアを持っており、この「FM-8」をパーソナルユースのスタンドアロンとしてだけでなく、大型コンピュータのオンライン端末やオフラインのデータ入力端末としての需要も期待していた。そのためのオプションには漢字ROMや、FDD、バブルカセットなどの補助記憶装置、GP-IBボード、I/O制御ボードなど計測機器との接続用拡張ボードなどを用意していた。
NECも「PC8801」と「PC6001」の同時発表で対抗
「FM-8」で富士通の追撃を受けたNECは、1981年9月に「PC8801」と「PC6001」を同時に発表し、これに対抗する。「PC-8801」は、「PC-8001」の上位機種でビジネス用途もターゲットとしている。CPUは「Z80A」相当(4MHz)、メモリは、メインメモリ (RAM) 64KBの他、合計184KBのメモリを搭載していた。また、表示は640ドット×200ラインの8色、モノクロなら640ドット×400ラインが可能だった。
FDDはオプションで、8インチ2D 、5.25インチ1D,2Dの外付けFDDが使用できた。また、インターフェース仕様が公開されており工作機械や制御機器のメーカーなどが利用していた。こうした特徴が生かされ、ホビーやビジネス以外にもロボットをはじめ様々な機器の制御用に利用されるようになりパソコン活用の幅を広げた製品と言える。
また、NECの「PC6001」は、キーボードと本体が一体化したデザインで、価格も89,800円と手ごろなホビーパソコンだった。とは言っても、8色のカラー表示、ひらがな表示、三重和音も可能なPSG音源、ジョイスティックインターフェース標準搭載など機能は優れていた。
参考資料:東芝HP、シャープHP、東芝科学館、JEITA、社団法人情報処理学会、富士通HP、NEC・HP、コンピュータ博物館ほか