[JQ2UNYを開局]

2006年、63歳になった淺海さんは、外資系の医療機器メーカーを退職し、フルタイム職からリタイアした。時期を同じくして伊豆半島の東伊豆町に別荘を建築し、JQ2UNYを開局した。この別荘の土地は、義父(1969年没)がまだ現役の頃に購入した土地で、太平洋が眼下に広がる絶景を持ち、さらに温泉の権利が付いた土地であった。

photo

東伊豆町の別荘からの眺め。海の向こうには伊豆大島が見える。

ずっと空き地のままだったが、年老いた榮子夫人の母親が「温泉に入りたい」とポロっと言ったことがきっかけで、兄弟4人、4家族共同で建築した。ただし、淺海さん以外にアマチュア無線をやっている親族はいないため、21mのクランクアップタワーは淺海さん1人が負担して建てたという。「あたりまえの話ですが、他の兄弟には何の役にも立たないものですから」と話す。その後は、時々、義母同伴で訪れては、JQ2UNYの運用を行っている。

このJQ2UNYは当初から1kW局を計画し、技適制度で開局した後、すぐに1kWへ変更している。ここでは2010年現在3本のアンテナをクランクアップタワーに上げており、上から7/10MHz2エレ八木(ナガラ社製TA-3040D)、3.5/3.8MHzロータリーダイポール(クリエイト社CD78)、14〜50MHzマルチバンド4エレ八木(ステップIR社4エレメント)という構成である。CD78には連載第6回で紹介したWBC80を取り付けてある。

photo

JQ2UNYのアンテナとタワー。

[国産機とコリンズと並べて運用]

2008年、淺海さんはアイコムの最高級HF機IC-7800を購入した。それまでメインで使っていた国産機のTS-950SDX、IC-775DXIIを引退させる際に、FT-9000とIC-7800を比較検討した。実際にFT-9000やIC-7800でオンエアしている局の電波を何波も受信して比較したところ、IC-7800の方が音が自然で良かったため、IC-7800に決めたという。それ以外の理由としてパネルやツマミのデザインもIC-7800の方が良いと感じたこともあったが、一番の理由は、「FT-9000はアマチュア無線機にしては大きすぎると感じたことです」と話す。

淺海さんは初めてコリンズを購入し、使い出した1978年頃から、国産機とコリンズ(KWS1/75A4を筆頭に、S-LineやKWM-2A、KWM380等)と並べて運用するのが好きで、IC-7800を購入してからは、町田市の自宅シャックのメイン機はIC-7800とKWM-2A(以下、M2)になった。「M2は1959年に発売になった、50年余の歴史をもつ世界初のオール真空管のHFオールバンド・トランシーバーです。正確にはKWM-1というトランシーバーがM2に先だって発売されていますが、バンドが14/21/28MHzと限定されているのに対して、M2は3.5から28MHzまで全バンド運用可能なもので、当時の、いや今に至るまででしょうか、本当のベストセラー機です」

[KWM-2A]

「私の使っているM2は20年も前に購入したものだと記憶しています。コリンズ社が1年間だけ日本国内にてノックダウンで作った全部で500台の内の1台で、ある意味では記念になるリグです。コリンズ社は、日本での生産をもってM2の製造を終えたのです。もっともその後も何回か、小さなロットでM2を作っていたようです。実際、だいぶ後の話になりますけれど、コリンズ社がロックウエル社に買収され、ハムの機械にもロックウエルのロゴマークが付けられるようになりましたが、M2にもロックウエル社のロゴマークの付いたものがあります」

「面白いことに、ハム用以外の用途も想定して設計されていたとのことで、実際にも色々な所で使われていたようです。本当に感心することですけれど、50年前の機械であることを感じさせぬ素敵でキュートな外観、当時としては想像もできない沢山の新しい回路技術、狭い帯域のメカフィルを使っているのにもかかわらず想像以上に豊かな音質、50年経ってもサビひとつ出て来ないシャーシ、当時の機械としては抜群の周波数安定度等々、今になっても、見ていて触っていて操作していて、これぞハム用の機器としては最高傑作、と惚れ込んでしまいます」

「それでも、今の機械と比較して周波数安定度だけは、完全に負けます。それと、最近のDSPによるSSBジェネレータ回路は相当に広帯域の音声を出しますけれど、フィルター方式の場合、余程のフィルターを使用しないと、キャリアサプレッションが悪化するとか、逆サイドの漏洩が無視できなくなるとか、色々な問題が出てきます。実際、M2では帯域幅が公称2.1kHzのフィルターを使用しています。DSP方式で作るSSBと比較すると、これは一目瞭然の寂しさでしょう。それでも、オーバーオールでは良い勝負が出来るし、使う楽しみのようなものを味わえます。デジカメと銀塩式カメラ(ハッセルブラッドは別格としても、せめてライカMシリーズ)の比較や、最新式の日本製オートバイとハーレーダビッドソンのオートバイを比べているような感じでしょうか。全く違う楽しみの世界なのでしょう」と淺海さんは話す。

[IC-7800]

「これに対してIC-7800は、これは今さら、何も言うことのない機械。先述の例で言えば、最高級デジカメだし、ホンダかヤマハかカワサキかは別にして、最新式のオートバイ。世界中のオートバイレーサーは、スピードレースでハーレーなんて乗りません。実際、IC-7800を使っていて、これ以上、何が欲しいのかな、と思ってしまうほどでしょう。開発屋さんは大変だなと心配になるくらい至れり尽くせりです。IC-7800のインターセプトポイントは+40dBmですが、これはすごい数値です。こんなすばらしい数値の機械を造るのは大変だろうと思います。ディスプレイも本当にきれいですね。それでも、スイッチを押す順番とか、操作性に関しては、ここがこうなったらもっと良いのに、と思わないでもない箇所が幾つかありますし、例えばですけれど、外付けディスプレイを使用する場合には、更に多くのパラメータが表示できるようにするとか」と続ける。

「メーカーさんのことだから、欲張りハムの心をくすぐるような新製品が、これからも次々と出てくるのでしょう。しかし、バンドが混み合っているとか、放送局からの抑圧を受けているといった極端な状況でなければ、M2も7800と比べてもあまり大きな差はありません。M2で聞こえないものは、7800でもやはり聞こえないのが普通です。M2はチューンを取らなきゃいけないとか、面倒な分、使う喜びもあります」と話す。淺海さんは現在、DXを追いかけるときやCWを運用するときは主にIC-7800を使い、SSBでラグチューをするときは主にKWM2+30-L1(200W改造済み)の組み合わせで運用することが多いという。

[リタイア]

淺海さんは、2006年にフルタイム職からリタイアしたが、1年間、休んだ後、2007年、外資系であるオランダの総合輸送会社に顧問として入社した。急に淺海さんが得意な領域で人が必要になり頼まれて入社し、はじめは担当者が見つかるまでの間のショートリリーフで3ヶ月契約だったが、それが半年契約になり、1年契約となり、3年経過した今でもその会社に非常勤で勤務している。

そのため、またまだ毎日アマチュア無線を存分に楽しめるという状況にはなっていないが、時間の許す限り、電波は出している。東伊豆町の別荘からも、2ヶ月に一度程度はJQ2UNYで運用している。

photo

JQ2UNYのQSLカード。