[160m]

連載第5回で紹介したように、星山さんは1958年、日本の局としては初めて3.5MHz WACを完成させるなど、「昔からローバンドは好きでした」と話す。ただし、ローバンドでのDXハンティングをわざわざハイバンドと区別した特別扱いはせず、自然な流れで3.5MHzや7MHzでDXハンティングを楽しんでいた。ローバンドの中でも、一番低い1.9MHz(160m)はトップバンドと言われているが、上記の理由で「自分はトップバンダーだ」と名乗ることに疑問を感じていたため、あえて160mの本格運用は行わなかった。

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1977年には、3.5MHzバンドで僅か1時間47分でWACを完成。

しかし、全く運用を行っていなかったのではなく、Spi-Ro Manufacturing社製で、全長40mぐらいの省スペース・ダイポールアンテナ(約50%短縮)を実験的に使うなどして波は出していた。本格運用を始める前の160mDXの一番の思い出は1997年1月のVK0IR(ハード島)と言うが、当時はエンティティを稼ぐという意識はなかった。

[アンテナを検討]

2001年に制定されたDXCCチャレンジアワードへの挑戦を始めるようになると、スコアアップのためには160mを避けて通れない。そのため、星山さんは、6mDXCCが完成したのを機会に、以前のことにこだわるのは止めて、160mDXCCの完成を目標に掲げて挑戦することにした。

2002年8月、25m高のメインタワーからSS126(6m用12エレ八木)を降ろし、CD78L、AFA40、SS76に載せ替えた際、同時に160m用のハーフスローパーアンテナを設置した。スローパーアンテナは、タワーからの引き下ろし角度や、全長を程よく調整しないと上手く動作しないが、その調整の途上で、自宅のホームセキュリティシステムに回り込みが発生したため、調整を中断して、フルサイズの逆Vダイポールアンテナに取り替えた。

[逆Vダイポール]

逆Vダイポールアンテナは、給電部をメインタワー上部のステージに取り付けた後、両エレメントは東西に展開し、まず西側のエレメント端は県道のガードレールに縛り付けた。東側のエレメントは、少しでも高く架設すべく、CD78Lなどを取り付けたメインタワーのアンテナマストに、さらに10m長のグラスファイバー製のポールをくくりつけ、そのポールに沿わせるように、タワーステージの給電部から一旦垂直に10m持ち上げ、ポールのトップから30m分を東側に引き下ろした。

当初は、給電部自体をポールのトップに取り付けたかったが、そうすると重くなってグラスファイバー製のポールでは持たないため、エレメントの片方だけを持ち上げるというのは、苦肉の策であった。このアンテナは程々に飛んだが、風が吹くとポールがしなり、近所の住民から、「折れるのではないか」と、心配して電話がかかってきたりもした。そのため、2ヶ月間くらいの使用で、グラスファイバー・ポールを撤去し、普通の形の逆Vダイポールとした。このアンテナを使って、星山さんは、2002年の秋から、160mの本格運用を始めた。

[160mDXCCを受賞]

2005年4月まで3シーズン運用した結果、160mでの交信エンティティは110に達し、到着したQSLカードも100枚を超えため、星山さんはARRLに160mのQSLカードを提出した。そして、2005年8月29日付けで#1168の160mDXCCを受賞。ちなみに、節子さんも同時に申請し、同じ日付で#1169の160mDXCCを受賞している。

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#1168の160m DXCC。

とりあえずDXCCは完成したものの、給電点が25mの逆Vダイポールアンテナの場合、水平系のアンテナにもかかわらず、地上高が1/6ラムダ程度しか確保できていないため、打ち上げ角が高くなり、実際のところ「飛びがもう一つ」と感じていたため、飛びを改善すべく、打ち上げ角の低い垂直型のアンテナへの変更を画策した。

[タワードライブアンテナ]

2005年のオフシーズン、160mDXCCの受賞と前後して、星山さんは、SDXRAメンバーのJA2XCR丸尾さんから真空バリコンを譲り受け、逆Vダイポールをタワードライブアンテナに取り替えた。このアンテナは、一般的に住宅の敷地が狭い日本ではポピュラーな160m用のアンテナで、無線用のタワーに直接給電して、タワー自体をアンテナにしてしまうというスタイルものである。

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タワードライブアンテナ。線が細くて見にくいが、タワーに沿わせて、すぐ右側に張った細いワイヤーが、タワードライブのマッチング用ライン。

星山さんは、故JA2XW佐藤さんの「タワードライブ調整法」を参考にしながら、JA3FYC西川さんからも「写真付き機密資料」の提供等アドバイスをもらって、設置、調整を行った。その結果、「逆Vダイポールより楽にヨーロッパまで飛んでいき、それまで苦労していたフランスやUKと比較的楽に交信できるようになりました。」と星山さんは話す。

ところが、タワードライブアンテナは垂直系のアンテナであるため、送信面では打ち上げ角が低くて良好な結果が得られたが、受信時に雑音を多く拾ってしまい、星山さんは受信対策の重要性を痛感した。そして、月刊59誌に掲載されたJH3VNC植木さんの「160m用受信アンテナの製作」を参考に、スモールループアンテナ(1辺2m 2重巻き)を製作し、T3-3VXが搭載してあるサブのパンザマストのトップに、受信専用ロータリーループとして設置した。

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サブのパンザマストトップに取り付けたスモールループアンテナ。

[スモールループアンテナ]

このアンテナの給電部に使用したマッチング用の小型バリコンは、わざわざ秋葉原で買ってきてもらった。「こんなバリコンは、昔はいくらでも転がっていたのに、今では容易に手に入らなくなりました。」と星山さんは話す。これら、タワードライブ、スモールループの設置と時を同じくして、マシンも最新のものに入れ替えた。アイコムのIC-7800である。

スモールループアンテナは雑音を拾いにくいが、その代わりにゲインがなく、IC-7800のプリアンプ2(高ゲインタイプ)を動作させて受信せざるを得なかった。それでも、相手局の距離によっては、タワードライブアンテナのほうが良好に受信できる信号もあった。「感覚的に言って10,000kmを超える遠距離から届く信号は、どうもタワードライブでの受信の方が有利なケースが多く、太平洋などの近距離からの弱い信号に対しては、スモールループの方が良く拾う様です」と説明する。