[茶畑の農家と交渉]

受信用のスモールループアンテナがあったからQSOできた遠距離のエンティティ(例:南アフリカ共和国のZS1JXなど)も例外的には若干数あったものの、星山さんは、スモールループのゲイン不足が気に入らず、2007年秋、自宅敷地に隣接している茶畑の農家3軒と交渉し、お茶のシーズンオフ(11月中旬から3月上旬)にヨーロッパ、および北米方向に対し、念願であったベバレッジアンテナを張ることにした。

ベバレッジアンテナは、ローバンドの受信用としては非常に性能が高く、海外ではポピュラーなアンテナとして使われているが、良好に動作させるためには、使用する波長の1ラムダから3ラムダ程度の全長を必要とする。これは160mバンドの場合、160m〜480mの長さとなり、設置するのに広大な敷地を必要とするため、日本では、一部の局でしか使用されていない。

[ベバレッジアンテナの使用感]

シーズンオフに隣接する茶畑へのアンテナ設置許可が得られた星山さんは、さっそくアンテナエレメントを展開。ヨーロッパ方向に160m長、北米方向には140m長のワイヤーを設置した。また、マッチング回路として、米国のDXエンジニアリング社から、W8JIトムさんの設計と言われるBFS-1を2個購入して使用した。

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茶畑に展開したヨーロッパ向けのビバレージアンテナ。支柱の高さは約3m。

ベバレッジアンテナを設置したことで、プリアンプ無しで静かなDXを聴くことができるようになり、「まだ1シーズンしか使っていませんが、伝搬的に難しいとされるCQゾーン40に属するアイスランド・TF4Mとできたことが最高の収穫です。」と話す。このベバレッジアンテナは2007年11月に設置し、お茶のシーズンが始まる2008年3月にとりあえず撤去した。もちろん2008年の秋には再度設置する予定である。

星山さんのベバレッジアンテナの長さは、160mと140mのため、これらは160mバンドを聞くには最低の全長であるが、80mバンドで使用すると、波長の2ラムダとなる。「この長さだと3.5MHzの受信が非常に良くなりました」と80mハンドでの効用を話す。また、スモールループと違って、ベバレッジには指向性がある。ハイバンドを聞いているのと変わらないため使いやすい反面、指向性があるので、「サイドやバックから入感する珍局を、うっかり逃すことがあるので、注意しないといけません。」と星山さんはアドバイスする。

[5本のアンテナを切り替えて受信]

160mバンドでの受信に威力をみせるベバレッジアンテナであるが、いつもこれがベストではなく、伝搬によっては、送信に使用しているタワードライブでの受信の方が良好なこともある。また連載第21回にも記載のとおり、太平洋などの近場はスモールループがベターのことも多い。その他にも、80m用の短縮ロータリーダイポール(CD78L)で、160m聞くと一番良好に聞こえることもあった。

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受信アンテナを選択するための、4回路の同軸切り替え器。

そのため、星山さんは、受信中に左手の届くところに4回路の同軸切り替え器を設置し、ヨーロッパ向けベバレッジ、北米向けベバレッジ,スモールループ、CD78Lを簡単に切り替えられるようにした。さらに送信用のタワードライブも組み合わせて、合計5本のアンテナを瞬時に切り替え、目的信号の受信に最適なアンテナを使用するようにして、DX局の入感チャンスを最大限に活かすようにしている。

[160mでの思い出のQSO]

タワードライブアンテナを設置する前の逆Vダイポールアンテナ時代、日本の局が次々と交信していくのに、星山さんの電波が飛ばずに交信できなかった例は多くあったが、逆の状況が2回あったことをはっきり覚えている。まず1局目は、カポベルデのD4Bで、2003年1月、ドッグパイルの中で、星山さんと節子さんがあっさり交信できたことがあった。

カポベルデと言えば、星山さんが3.5MHz WACを日本で初めて完成した際、最後に交信したアフリカである。当時のカポベルデはポルトガルの植民地であったため、コールサインはCR4であったが、その後独立して、D4のプリフィックスが割り当てられている。星山さんが160mで交信したD4Bは、80mで45年前に交信したCR4ASとは別の局であるが、受領したD4BのQSLカードには「Yoh san, you have great sign on 160m」の記載があり、星山さんの信号が、アフリカまで良好に届いていたことが分かる。

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D4BのQSLカード。(データ面)

もう1局は、北米はカリブ海に浮かぶプエルトリコのNP4Zで、2004年1月末に交信したもの。この局とも、すさまじいパイルアップの中、星山さんと節子さんがすんなりと交信できてしまった。「この2例は、おそらく高い角度から入感した伝播だったと思います」と星山さんは説明する。

一方、送信にタワードライブアンテナを使用するようになってからは、「アイスランドのTF4M、リヒテンシュタインのHB0/DL2OBO、セネガルの6W/DL6CTあたりがベストDXです。」と話す。星山さんは、160mバンドでの6シーズンの運用を終えた2008年8月現在、162エンティティとQSOできており、当面の目標を200エンティティに置いている。

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HB0/DL2OBOのQSLカード。(データ面)