わが国でラジオ放送が始められたのは,大正14年(1925年)だった。2年前の大正12年9月に起こった「関東大震災」は,死者・行方不明約14万3000人もの悲惨な被害を出した。被災地に情報を伝達する手段がなかったことも悲劇を生み出した原因であった。

このため、政府はラジオ放送の開始を急ぐことになり,社団法人東京放送局(現在のNHK)が14年の3月に放送を開始した。その後、徐々にラジオ受信機の普及は進んでいったが、私がラジオに興味を持ったのは、その放送を自作した鉱石ラジオで聴いたことからだった。入学した学習院初等科では5年生になると手工(工作)の時間に鉱石ラジオのキットを使いラジオを組み立てることになっていた。

ローディングコイルを使用した鉱石受信機 提供:電波実験社

キットはコイル(スパイダーコイル=クモの巣の様な形状をしているコイル)と鉱石検波器、レシーバー(ヘッドホン)からなり立っていたが、色々とエナメル線をつないだりしていると、鉱石検波器にアンテナとレシーバーを接続するだけでよく聴くことができた。

左は探り針式に近い鉱石検波器、手前の黒いノブを回すことにより検波感度の良い点を探すことができる。中央と右はフォックストン。出典:(社)日本アマチュア無線連盟、発行:「アマチュア無線のあゆみ」より。

放送の送信所から距離が近く、また、放送局が1局しかなく混信の恐れがなったためである。私は自作のラジオで放送を聴けることに感動し、それ以来毎日、時間があればそれを聴いていた。当時は第一放送が毎日送信されており、夜になるとと第二放送が始まるというプログラムであった。

ある夜、レシーバーから英語らしいことばが聴こえてきた。これは一体なんだろうと驚くとともに不思議でしょうがなかった。