JA3AER 荒川 泰蔵氏
No.24 2度目の東南アジア
[フィリピン]
新しい職場で再び東南アジアを訪ねる仕事が始まった。約20年前、荒川さんはサービス指導員として2年間東南アジアに駐在したことがあるが、今回は現地のサービス拠点の指導が目的。「20年間の東南アジア諸国の発展振りを聞いていたが、どれほど変ったかを目で確かめられることに出発前に興奮していた」と言う。出張は平成元年の11月中旬。
その時の出張では5都市を訪ねることになっており、まずフィリピン。現地での免許申請は滞在が3日と短いためあきらめて出発。マニラでは大阪国際交流センターで知り合っていたジョージ(DU1GF)さんが郊外の自宅に案内してくれ、シャックを貸してくれた。「しばらく前にマニラを襲った台風の後遺症で時々ある停電に怯えながら交信した」と言う。
幸い停電はなかったが、台風によりビームアンテナが壊れてしまっていたため「急遽設置したバーチカルアンテナを使用したが、コンディションが良く、21MHzでJA局を中心に約40局と交信できた」と喜んでいる。実は荒川さんが滞在してしばらく後にマニラで反乱事件が勃発しており「もう3週間遅ければ間違いなく巻き込まれていたはず」と後に語っている。
[タイ]
バンコクでは時間の余裕がなく、旧知のマユリー(HS1YL)さんと食事し、タイのアマチュア無線の情報を聞くだけだった。それによると「先日、RAST(タイアマチュア無線協会)の25周年記念行事が政府高官の出席を得て無事に行われた」ことや「プミポン国王が144MHzで交信し始めた」「新試験制度によりコード(CW)のテストが加わり難しくなった」ことなどを知らされている。
[マレーシア]
荒川さんはマレーシアでは町の様子の変化ぶりに驚いている。「20年前に(荒川さんが)取得した9M2BLの免許は、クアラルンプール郊外のパタリンジャヤにあるシャープ工場を住所としていたが、その工場は大きく拡張され、周辺にも工場や商店が立ち並びすっかり様相が変ってしまっていた」と言う。
同時に20年間の年月の経過は、かつてのハム仲間の様子も変えてしまっていた。荒川さんが免許取得でお世話になったナラ(9M2LN)さんは他界し、家族はマラッカに転居していた。また「ゲスト運用で交信させていただいたアバター(9M2AV)さんに電話したが不在。結局ひとりのハムにも会うことができなかった」と寂しげである。
[シンガポール]
11月17日、シンガポールのセンチュリーパーク・シェラトンホテルでSEANETコンベンションが開かれた。「第17回のコンベンションには日本から約20名、全体では約150名が参加、主催したSARTS(シンガポールアマチュア無線通信者協会)のジャヤラン会長、ス―ン文部大臣が挨拶した。文部大臣はかつてのラジオ少年であり、無線機を自作した話を披露した」と、荒川さんはレポートしている。
SEANETの発足の目的や活動についてはこの連載の7回で紹介しており、日本人ハムのメンバーも多い。2日目の夜のバンケットでは、各国の無線連盟からSARTSに贈り物が贈呈され、SEANETコンテストの表彰が行われた。その後の抽選会では、144MHz用5エレメントの八木アンテナが荒川さんに当たった。「持って帰るのが難しいので、本が当たった人と交換してもらった」と言う。
SEANETコンベンション1989の参加者達
9V0/JA3AERのQSLカード。SEANETコンベンションの期間だけの許可
[活躍する日本人ハム]
今回のコンベンションでも日本のハムの活躍が目覚しかった。コンベンションの記念局9V0SEA局からJA局との交信カードは小林(JA0AD)さんが扱ったが、同時に小林さん労作のスライドが上映されて参加者の人気を集めた。内容はSEANETのメンバーのシャツクやアンテナを画像で紹介するとともに、合わせてその局の交信の声を流したものである。
特別局9V0SEAを運用
小林さんはSEANETでの交信を受信して録音、さらに編集したもので「そのご努力に頭が下がった」と荒川さんはいう。荒川さんは3日間にわたり、記念局と9V0/JA3AERのコールサインで交信したが、同時に「20年前のシンガポールでの出来事」を思い出していた。
1969年の夏、ジョー(9V1NQ)さんらが荒川さんを訪ね「加入しているマレーシアのMARTS(マレーシアアマチュア無線通信者協会)から独立し、シンガポールの組織をつくりたい。発起人に加わって欲しい」と相談を持ちかけたことがある。その結果、SARTSが出来上がったが「その時に活躍した1NQさんや1NRさん、1OKさんらがコンベンションに参加しておらず会えなかった」と残念がっている。
SEANETコンベンションで、ネットコントローラーのパディさん(左)と
[インドネシア]
インドネシアのジャカルタでは「SEANETの参加者からフランキー(YB0CN)さんの電話番号を教えてもらっていたが、平日の3日間の滞在期間では連絡も果たせなかった」と言う。その代わり仕事で訪問したA代理店の営業責任者、B代理店のサービス責任者がハムであり「図らずも2人のハムとアイボールできた」と満足している。ただし、2人ともDXはやっていないため、シャックを訪ねることはなかった。