[アマチュア無線との融合]

KDCFがJARL理事会へ行なった提言は無視されたが、KDCFは更に討議を進める。「携帯電話やインターネットの普及により仲間同士の連絡や未知の土地との情報交換はアマチュア無線だけではなくなった」「確かに、メディアの発達によりアマチュア無線への注目度は落ちたが、魅力は減っていない」などさまざまな意見が出た。

科学技術の衰退を心配する深刻な声もあった。「自分で電波を出し、工夫しながら未知の技術を探求する。しかも、年齢や職業、経歴を超えた付き合いが出来るこのような趣味が他にあるだろうか。若い人がそのような趣味に見向きをしなくなれば、大変なことになる。それを防ぐのはアマチュア無線の活性化であり、新しい分野への挑戦である」と。

[KDCFの理念]

新しい挑戦とは何かを巡り討議が続き「インターネットと無線との融合に可能性があるのではないか」との仮説が大勢を占めるようになっていく。そして「そのような新しい分野への挑戦はJARLを土台にし、JARLを磐石なものにしなければ不可能」ということでも一致する。JARL関西地方本部の集りであり、当然と言えば当然であった。

その結果、出来あがったKDCFの理念は(1)会員に新しい利便をもたらすこと(2)技術的興味を引く分野があること(3)JARL活性化に寄与すること、であり活動の条件として「インターネットとアマ無線を使い、初心者から上級者まで楽しめる事業を成立させる」であった。この実現のために、KDCFは総務、営業、事業、法務、技術、監査の組織を設け、とりまとめは座長の水島さんの担当となった。

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KDCFの活動費はメンバーのカンパで賄われた。

[メール転送サービスを始めよう]

現在、JARL会員に喜ばれているサービスの一つが、コールサインを使った電子メール転送サービスである。コールサインさえ知っていれば簡単にメールを送ることが出来る、このサービスはKDCFにより生まれ、KDCFにより実現された。このサービスのきっかけは長谷川本部長の言葉にある。「JARLの会員離れを防ぎ、会員増加のためには会員にとって魅力あるサービスが必要。しかも、一刻も猶予できない。即効性のあるサービスを実施しようではないか」。

具体的にどんなサービスをおこなうか。朝から集まり夕刻まで議論を重ねる。そして決定したのが「コールサインによるメール転送サービス」であった。開始に当たり規約とガイドラインを決めた。そして「インターネットによる会員サービスを始める場合にどうしても必要になるのがドメイン名であり、jarlの文字が入ったドメイン名が欲しかった」と水島さんは語る。

ドメイン名は結果的には現在使用されている「jarl.com」となったが、そこに至る道は平坦では無かった。当初「厚かましくもjarl.or.jpを使えないかとJARL本部に打診したが不可能だった」と言う。その後考えたjarl.jpも当時は難しく、結局一般的なjarl.ne.jpとjarl.gr.jpのドメイン名を取得したが、「転送メールアドレスはできるだけ短く、混乱の少ないものを」という考えがあり、当時個人で確保されていたjarl.com に白羽の矢がたった。

しかし、それも簡単でなかった。Comの本来の意味はcommercialすなわち商用に付けられるべきものであるためKDCF内部でも反対があった。また、このjarl.comというドメインは、JARL職員の知人がすでに取得していることが分った。「その方はJARLに替わって厚意で取得していたため、管理者の変更をお願いした」と言う。

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メール転送サービスをPRするために造られたポスター(1)

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メンバーに漫画を書く人もおり、立派なポスターが出来あがった(2)

[ドメインの登録変更/サーバー委託]

このようにしてドメイン名は決まったが、KDCFが使うことになるため、管理者の名称、登録連絡先、技術連絡先など内容の変更を行なう必要があった。「この業務が大変だった。米国にある登録機関とのやりとりにミスもあり、約4カ月もかかり変更終了は平成11年(1999年)の1月になってしまった」と、水島さんは面倒な作業を語る。

次ぎの問題はサーバーである。「自前のサーバーを持つ方法があるが、機器や回線の調達、維持管理などに膨大なエネルギーが必要」と水島さんは悩む。実はKDCFにはVAP−NETのメンバーも多く加わっており24時間運営のRBBSに費やす労力を多くが知っていた。そこでサーバーの運営を外部に委託することになったが、経費を押さえるために「メール登録数やWebページ数に関係無く費用が一定なところという、われわれにとって“都合の良い”委託先を探した」と言う。

[月2万円弱の経費]

水島さんらは委託をお願いする業者に「われわれがやろうとする内容を伝えて、意欲があるかを確認する」とともに「同様なサービスを提供してくれる業者が他に無いかどうか」も調べることになった。少しでも質の良いサービスを安く実現したかったからである。

「このような業者選定では」と水島さんは当時を振り返って言う。「サービス内容とは別に実際の処理速度や回線容量、そして障害発生時の対応など表に出ないところも評価の対象となる。このような審査の結果、メンバーの会社が委託している業者に決めた。その業者は、アマチュア無線のことも知っていたので、話しが進めやすかった」と。月間の費用は2万円弱、WebやFTPを含めた容量は150MBを限度とし、メールアカウント設定は無制限と取り決められた。

KDCFのメンバーはメンバー間の連絡をとるためのメーリングリストを作り上げ「コールサイン@jarl.com」での転送を開始した。全メンバーが「素晴らしい。早くJARLの全会員に普及させたい」と意欲をたぎらせた。ところがその後の進展にも障害がいくつかあった。知能を働かせ、汗を流してこぎ着けたサービス開始というゴールまでわずかなところでの障害である。