[まずは3アマを取得]

旧第二級アマチュア無線技士(現4アマ相当)であった永井さんは、現役時代はなかなか勉強する時間が取れなかったが、リタイヤ後に改めて上級資格の取得を目指した。最終目標は第一級アマチュア無線技士(1アマ)の取得においたが、そのステップとして、まずは第三級アマチュア無線技士(3アマ)を取得することにした。永井さんは、かつてモールス符号を覚え、実際に受信も行っていたため、電気通信術の再習得は特に苦ではなく、2004年に3アマを取得した。

その年の5月、大阪府池田市で、第46回JARL通常総会が開催された。それに合わせJA9CD(exJA2YD)柳原さんの音頭でOT(Old Timer)局のミーティングをやろうという話になり、全国に案内を行ったところ、60〜70人が集まったという。ミーティングの席上、冒頭の挨拶で永井さんが、「最近3アマを取りまして」という話をしたところ、永井さん同様、新2アマへの移行試験を受けていなかった局がたくさんいることが分かった。

photo

2004年5月23日に開催された池田総会記念OTミーティング。前から2列目、右から4人目が永井さん。

事情を聞くと、5年間の移行期間、永井さんのように仕事が多忙であったり、またアマチュア無線に一時的に興味を無くしていたりして、期を逸してしまったが、できることなら、改めて移行試験を受けたい、という局が多くいた。中には、JARLや総合通信局に対して、移行試験の再試行の可能性を問い合わせた局もいたが、「いずれも快い返事ではなかった」という。

photo

OTミーティングの冒頭で歓迎の挨拶を行う永井さん。

[1アマにチャレンジ]

2005年、1アマの電気通信術試験の欧文モールス通信のスピードが60字/分から25字/分に引き下げられた。同時に、2アマにおいても45字/分から25字/分に引き下げられた。この25字/分というスピードは、従来の3アマの電気通信術試験と同じスピードのため、従来の3アマ免許取得者が、1アマ、2アマの国家試験を受験する場合は、電気通信術の試験が免除されるようになった。

これがたまたま、永井さんが、1アマにチャレンジする時期と重なり、2005年12月期に願書を出した永井さんには電気通信術の試験は課せられず、無線工学と法規の学科2科目だけの試験となった。3アマ取得後約1年、1アマ取得に向けての勉強を行ったが、すでに70歳を超えていた永井さんは、年齢的なものもあって「なかなか集中できなかったため、テレビを見ながら問題集をやりました」と話す。そして迎えた12月の1アマ国家試験であるが、答案用紙提出直前に訂正したところが誤答となってしまい、自己採点の結果、5点足らずに不合格となってしまった。

[1アマを取得]

翌2006年4月、永井さんは再び1アマ国家試験にチャレンジした。このときは送信機の調整方法などが問題に出た。永井さんは、かつて送信機の自作経験があるため、真空管がトランジスタになっただけで原理は同じであり、得意の分野だった。その他、熱電対型の高周波電流計に関する設問も、自分で実際に作ったことがあったため、すんなり回答できたという。むしろ、法規の方が難しかった。かつての記述式と異なり、択一式になって誤解を招きやすい文章になっている設問が多いからだという。

試験は、大阪市内のある学校の校舎を借用して行われたが、この建屋では試験会場は4階なのに、学校ということもあってエレベーターが無かった。さらにトイレは1階にしか無くトイレに行くのも一苦労だった。試験会場には杖をついたご老人が、他に行われていた何かの試験の受験に来ており、「もう少し年配者に配慮があっても良いのではないか」と永井さんは話す。

試験終了後、自己採点も行って結果に自信を持った永井さんは、ローカル各局とのファミリーレストランでのミーティングで、「今度は通ったに間違いない」、「今日は1アマ取得記念でワシのおごりや」と、「その日の食費を全額負担しました」、と笑って話す。後日届いた結果通知は、もちろん合格の2文字。71歳2ヶ月での合格であった。こうして永井さんは念願の1アマライセンスを受領した。

後日談であるが、永井さんの高齢での合格に刺激された、永井さんよりさらに5つ年上のJA3GO小村さんは、次の8月の国家試験で2アマと1アマの両方を受験し、両資格ともに合格している。話は変わるが、永井さんの家族は、永井さんがアマチュア無線を運用することに理解はあるが、無線自体には興味がなく、永井さん以外はライセンスを持っていない。親戚では、和歌山にいる従兄弟の一人がかつて開局して運用していたが、「その従兄弟は若くして亡くなりました」と永井さんは残念がる。

[1kWに増力]

永井さんの1アマ取得の主目的は増力であった。海外との交信を行うためには出力は大きい方がベターと言うのが理由である。1アマのライセンスが到着する前から増力の計画を練り始めた。リグは十分に検討した結果、アイコムのIC-7800、リニアアンプにはアイコム純正のIC-PW1を選んだ。そして、2006年6月、永井さんは近畿総合通信局に変更申請書を提出する。変更許可取得後、2006年7月に変更検査に合格し、1kWのライセンスを得る。

photo

変更検査合格直後の永井さんのシャック。