JA3EY 永井 弘一氏
No.8 アンテナ実験(1)
[タワーを移設]
1988年、芦屋市の高台に転居した永井さんは、瀬戸内海国立公園内の第一種風致地区で許可される一杯一杯の13m自立鉄塔の建築確認申請を行い、芦屋市から許可が下りるとすぐにタワーを建柱した。アンテナには、21MHz用の4エレHB9CVと、28MHz用の3エレHB9CVを1本のブームに配列した7エレを自作して、タワーに載せて運用を再開した。
21MHz用の4エレと28MHz用の3エレを組み合わせた7エレHB9CV。
このアンテナでしばらく運用を続けたが、1995年の阪神大震災後、もう少し大型のアンテナを設置すべく、敷地内の端の方に建てていたタワーを、穴を掘り直して敷地内のもっと内側に移設した。これにより、大型アンテナの設置が可能となった。永井さんは地震で倒壊した神戸の実家の建て直しなど、震災の後始末がひととおり終わると、かねてから暖めていた新しい自作アンテナのプランを実行に移した。
[デルタループを自作]
そのアンテナとは21MHz、28MHzの2バンド用デルタループアンテナで、両バンドとも独立した4エレをもつ、合計8エレメントのアンテナである。エレメントブラケットには、コの字型のアルミの角材を切断して制作した。エレメントのアルミパイプやエレメントを止めるステンレスボルト、ステンレスナットも比較的安価に入手できたため、「安く仕上げることができました」と永井さんは話す。
アンテナのブームは強度を確保するため、主要部分を2重構造とした。また、エレメントの間隔は、キュビカルクワッドの制作例を参考にして、各バンドそれぞれの4本のエレメントを等間隔に配置した。ループのサイズは、ラジエーターを基準にしてリフレクターは5%程大きく、またディレクターは3〜5%程小さくした。「アンテナの調整は、ループが両バンドで独立しているため、クワッドよりも簡単ですよ」、と話す。また、当時永井さんは、MFJ社のMFJ259というSWRアナライザーを入手しており、「この測定器があったから調整もうまくいきました」と話す。
永井さん曰く、「不思議なのは、デルタループはどのバンドを調整しても、他のバンドには全く影響を及ぼさなかったことです」、「さらに、タワーの下でアンテナを調整し、完了後にタワーに上げても同調周波数が変わらないのがすばらしい。八木アンテナではこうは行きません。タワーに上げれば同調周波数が上がってしまいますから」と話す。
[18MHzと24MHzを追加]
このデルタループは受け(受信)、飛び(送信)共に十分に満足できた。そのため、さらに18MHzと24MHzの2バンドの増設を計画した。重量がさらに増加してしまうことは承知の上でトライした。永井さんは18MHz用に3本のエレメント、さらに24MHz用にも3本のエレメントを制作して、同一ブームに配列した。当初両バンド4エレ化も計画したが、あまりにも大きくなってしまうので、「3エレにとどめました」と話す。こうして、デルタループは、8エレから14エレになった。
14エレになり、各エレメントのスペーシングも狭くなったが、依然としてバンド間の干渉もなく、期待どおりの動作を行った。その頃永井さんは、144MHzにはナロースペースの5エレ八木アンテナを2スタックにしたものを使っていたが、飛びがもうひとつだった。そのため、いっそのこと、144MHzのループも追加してしまおうと考え、144MHz用に11個のループを作って、追加配列した。
5バンドに対応したデルタループアンテナ。
[最終的に25エレ]
こうして永井さんのデルタループアンテナは、最終的に18MHz3エレ、21MHz4エレ、24MHz3エレ、28MHz4エレ、144MHz11エレの合計25エレとなった。その頃の144MHz帯は、標高500mに位置する永井さん宅でワッチすると、昼間はトラックを主としたFMモービル局で埋め尽くされていたという。夜になると比較的すいてきたので、永井さんは主にSSBで交信を楽しんだ。
西向きには特に良く飛び、11エレ1本で宮崎県や鹿児島県まで届いた。東向きは特に良いというわけではなかったが、愛知県ぐらいまでは問題なかった。南向きはと言うと、瀬戸内海を挟んだ向かい側の四国の局はほとんどS9+で入ってきた。とはいうものの、HF運用がメインであった永井さんは、144MHzを熱中して運用することは無かった。JA3FM鹿島さんからは、「おまえは144MHzや430MHzに出てきてもちっともCQを出さない。知り合いの局を呼んでいるだけやな」、とよく言われた。
余談ではあるが、永井さんの自宅は六甲山まで至近距離にあるため、近所から移動局が出てくることも多く、一度、至近距離の移動局を50MHzでコールしたところ、移動局から「歪んでますよ」と指摘されたことがあった。その移動局はS9+60dBのフルスケールで入感しており、「こちらの電波が歪んでいるのではなく、そちらの受信機が歪みの原因ですよ」と返したこともあるという。
[ローバンドのアンテナ]その頃のローバンドは、タワーを使って1エレメントのループアンテナを展開した。具体的には、タワートップに滑車をつけて、ループの先端を引っ張り上げ、地面に置いたSGCのオートアンテナチューナーを使って同調させた。オートアンテナチューナーを使っているため、7MHzでも、3.5MHzでも使用できた。「ローカルには良く飛びましたが、DXにはもうひとつでした」と永井さんは話す。
その頃、7MHz用のフルサイズ逆V型ダイポールアンテナも使ってみた。このアンテナに、さらに3.5MHz用のローディングコイルと延長エレメントも付け、通常は7MHzをフルサイズとして運用し、3.5MHzを運用するときはコイルと延長エレメントを接続して使用した。しかし、両バンドともあまり聞こえなかったし、飛びももうひとつであった。特に3.5MHzが悪かった。
そのため、永井さんは3.8MHz用のトップロードワイヤーバーチカルを作った。トップロードのハットはタワーに取り付け、そこから約15m長のワイヤーを引き下ろし、地面に達する50cmぐらい手前で90度に折り曲げて設置した。QST誌に載っていた5MHz用のこのアンテナの記事を読んだところ、ラジアルはミニマム60本使わないと性能が発揮できないと書いてあったため、永井さんは庭にラジアルを60本埋設してみた。すると、ループアンテナや逆V型ダイポールアンテナとは比較にならないくらい飛ぶようになった。
トップロードワイヤーバーチカルの給電部分。