1.はじめに

加速度を測るGALメータを製作しました。「ガル」であって、決して「ギャル」ではありません。地震を対象とする防災のためには、まず揺れの強さを知る事です。「100GALで棚から落ちそう」などと体感する事が、耐震や防災の意識向上に繋がります。これこそ直接的ではありませんが、間接的な「防災グッズ」です。

東日本大震災の余震で、会社にいるときにも震度4か5と感じる揺れが何回かありました。しかし、発表では震度3になっていたり、地震計の置いてある場所との相違を感じていました。それなら測ってしまえ、と思ったのがきっかけです。しかし、本来は揺れを感覚的に表現していた震度ですが、最近はとても難しい式で算出している事を知りました。そこで、比較的簡単に表示できる加速度、つまりGALを測る写真1のようなメータを作ってみました。

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写真1. このようなGALを測る加速度計です。

なお、簡易的にはGALから震度に変換できますので、簡易震度計として震度も表示してみました。しかし、とても震度1の微弱な揺れを表示する事は困難です。それだけの感度がありませんし、A/Dコンバータの分解能もありません。何とか震度2は表示するようにはしましたが、微弱な場合は誤差が避けられません。従って、検知できるのは震度2からとなります。

2.使用方法

なるべく水平で安定した位置に置いて、電源をONします。1秒後にその位置を基準として測定を始めます。動かしたり振れたりするとGALや震度表示をします。左側はリアルタイム表示で、MAXは最大値をメモリーして表示します。リセット釦を押下する事でMAX値をリセットします。

多少傾きがあっても測定しますが、傾いた方向の最大レンジが狭くなります。水平であるなら、約0.4Gである400GALまでは測れるようにしています。円で示すベクトルの方向は200GALまで示すようにしています。一般家庭用としては、この位が良いと思います。ちなみに、もう一台作って会社に置いてある試作2号機は、ベクトル表示もGAL表示も490GAL仕様としています。

3.GALについて

建造物には一般的にGALで耐震の設計をします。「震度6に耐える」というような表現はせず、「490GALに耐える」と表します。つまり震度よりもGALを測った方が、建築的には便利です。

さて、私たちは下に向かって1Gの重力を受けており、実はこれが980GALになります。980GALの加速度を常に受けてる事になります。詳しい事は省きますが(というより解りませんが)、このGALを用いる事で地震の揺れの強さを表す事ができます。正しい震度を計算するには、揺れた時間も考慮する必要があるようですが、ここではザックリとGALから震度に変換しています。

東日本大震災では、震度7を記録した宮城県栗原市で2933GALを計測したと報道されました。つまり約3Gという強烈な揺れであったという事になります。車にぶつかるとか、投げ飛ばされるような感覚でしょうか。福島原発では440GAL前後が耐震設計(号機によって異なる)ですが、実際には507〜550GALを記録していたようです。これがGALです。私の感想ですが、原発で440GALが設計値というのは、あまりに低い想定ではないでしょうか。

4.試作機

作成期間は長くありませんでしたが、試行錯誤の中で2台の試作機を作りました。まずは写真2が最初の実験段階で、グラフィックLCD用のテストボードを用いてブレッドボード上のセンサー出力を表示させています。

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写真2. テストボードとブレッドボードを用いて実験しました。

写真3がニッケル水素電池を電源にした試作1号機です。No.83のダイオードカーブトレーサ2と同様にヤドカリ式で作っています。回路は図1のようになります。OPアンプは使用せず、センサーの出力を直接CPUのA/Dコンバータに入れています。センサーの出力は、5Vを電源とすると2.5VがゼロGになります。1Gにつき1V変化しますが、せいぜい0.5V幅の変化が測れれば十分です。2〜3VをA/Dコンバータに入力しますと、0〜5Vを10ビットで1024分割しますので、200ステップ程度しか使えない事になります。この場合、これで±0.5G=490GALですので、1ステップが5GAL程度となります。X軸とY軸で±1ステップ変化すると、ルートをとって7GALとなります。そのため常に5〜7GAL表示をしていました。つまりデジタル的な誤差が、震度3程度の揺れになってしまう事になります。これは試作1号機の欠点でした。

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写真3. ニッケル水素4本を使ったモバイル型の試作機で、持ち運んで測定できます。

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図1. 試作1号機の回路図です。(クリックすると拡大します。)

また、当然ですが、電池を使ったための良し悪しがあります。持ち運び自由なので電車の中の揺れを試す事が可能なのですが、長時間の連続測定には向きません。使い道から考えて、ONのまま長時間置くのが普通です。最初の実験では電車や自動車の中で使ってみたかった事もあり、このように作りました。このあたりは、作り方も考え方も様々です。

試作1号機の実験結果を元に、ACアダプタを使った写真4のような試作2号機を作成しました。

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写真4. 試作2号機になります。合計3台作ったのでした。

5.回路

試作1号機、2号機を経て、2号機と同じ回路で同じように作り直したのが本機になります。AC9V入力にして他にOPアンプでセンサーの出力を増幅し、感度アップも図りました。

加速度センサーには写真5のような、秋月電子のKXM52-1052モジュールを使っています。XYZの3軸のセンサーで、その各軸の出力はアナログ電圧です。ゼロGの時に電源電圧の1/2を出力します。5Vを電源に使った場合には、2.5VがゼロGで1G毎に1Vが方向によってプラスかマイナスされます。2〜3Vのセンサー出力を0〜5Vに増幅する事を考えました。つまり、2Vの減算をしながら5倍に増幅します。また、センサーの出力インピーダンスは32kΩと高いため、先にバッファアンプを入れて、次段にこのようなOPアンプを入れたのが図2の回路図になります。

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写真5. 使用した加速度センサーです。

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図2. 改修をした本機の全回路図です。(クリックすると拡大します。)

センサーのデータシートでは出力1500Hzとなっています。地震を測るのには高すぎます。ちなみに出力のコンデンサがないときは、エンピツで叩いただけで簡単に震度7になってしまいました。そこでコンデンサを付けて、体感と比べてみる事にしました。その結果2.2μFを付ける事にしました。これでセンサー出力は2Hzとなりますが、周波数が低すぎて計算上の値はあてにならないようです。この値で良いのかは解りません。

このOPアンプの出力をAVRに入れて、A/D変換を行いGAL値をリアルタイムで表示します。また、最大値を表示します。また、揺れた方向を円の中で表示させます。これらの表示はずっと残りますので、リセットボタンでリセットするようにしました。この円は200GALを表しますので、ここまで振れると震度6弱です。最初は490GALの円としていましたが、家庭用とすると200GALくらいの方が良いと思います。木造建築の我が家など、間違いなく490GALでは倒壊するでしょう。それ以前に床に固定しないと飛んでしまいますし、停電もするでしょう。どの程度が良いのかを考えて200GALとしました。試作2号機は会社に置いたままですが、490GAL仕様にしています。

CPUにはAVRのATmega168Pを使いました。グラフィックLCDとA/Dコンバータの入力を確保できるピン数が必要ですから、28ピン以上のCPUになります。LCDにはTG12864B-02WWBVを用いました。ブルーの中を白抜きでグラフィックを表示します。長時間連続で電源を入れますから、バックライトは表示は見える程度とし、極力消費電流が少なくなるように設定しました。

6.作成

試作機の欠点をカバーし、作り直したのが本機になります。ケースはタカチのSS-125Bを使用しました。LCDがギリギリ入る大きさです。基板との位置合わせは正確に行う必要があります。基板を固定する穴が6個ありますが、他のネジとの兼ね合いで3本だけ使って固定します。写真6は上の中央と下の左右を使用し、残りをカットしています。白っぽく見えるのがカットした跡です。写真7のようにケース内の位置合わせを慎重に行います。

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写真6. ケースの下側はネジ穴を3ヶ所カットします。他のネジと接触するのです。

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写真7. 基板の位置合わせを行います。

図3がジャノメ基板の実装図になります。それほど部品数も多くはありませんので、割と簡単に作成可能です。写真8が基板を作成しているところになります。写真9が完成したところです。

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図3. 基板の実装図になります。(クリックすると拡大します。)

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写真8. 基板の作成開始したところです。

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写真9. 基板完成。左側のコネクタはAVRのISP用で、ソフトを投入修正します。

写真10がケースに収めてみているところです。ソフトの修正をしているのが写真11になります。

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写真10. ケースに収めたところです。

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写真11. ISPを使ってソフト修正をします。

調整はありません。体感と合うようにソフトを調整するだけです。30度に傾けた時に0.5Gつまり490GALになります。200GALは0.204Gになりますので、11.8度になります。分度器を使うと表示が正しいのか確認ができます。

7.ソフト

最近は常にBASCOM AVRを用いてソフト開発をしています。センサー出力はOPアンプを経由してAVRのA/D変換に入り、X軸のGALとY軸のGALを算出します。同時に円の中に加速度の方向をプロットします。

表示するGAL値は√(X2+Y2)でベクトルの絶対値を求めています。また表1から震度を簡易的に求めます。リアルタイムに表示を行う他、最大値は消さずにメモリに入れて、リセットするまで保持されます。

ソースコードのダウンロード

※GAL meter.bmpはBASCOMでグラフィックLCD用のファイルに変換してご使用ください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

標準震度の目安 本機の設定
リアルタイム MAX 備考
震度 GAL GAL GAL
0 0〜0.8 0 0  
1 0.8〜2.5 0 0  
2 2.5〜8 4〜7 4〜7  
3 8〜25 8〜24 8〜24  
4 25〜80 25〜79 25〜79  
5 80〜250 80〜249 80〜164 J:弱
165〜249 K:強
6 250〜400 250〜399 250〜324 J:弱
325〜399 K:強
7 400以上 400以上 400以上 400以上

表1. WEBで探した震度の目安を元に、本機の設定値を決めています。

8.測定結果

東日本大震災の余震が続く中で作成しました。そのため、試作機の完成時から持ち歩いて測定していました。電車の中で測定した結果を表2に示します。加速時にはスムースに後方にGを受けるのですが、前後にガクンと来る新幹線や、在来線のポイント通過時のGALの大きさには驚きました。余震を測った結果を表3に示します。大きかった余震では震度5があり、105GALと表示しました。発表される震度は体感的に異なる事があります。しかし、このメータで測定した結果と体感は一致します。つまり揺れが大きい場合にはGAL値も高く表示しました。同じ震度でも大きい側か小さい側かも体感できました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

日付 場所 状況 測定結果

 

(GAL)

備考
4月10日 那須塩原⇒宇都宮 新幹線加速時 60 車両こまち
4月10日 那須塩原⇒宇都宮 新幹線ガクン時 159 車両こまち
4月10日 小山⇒間々田 在来線加速時 45  
4月10日 小山⇒間々田 在来線最大値 195  
4月10日 小山⇒宇都宮 新幹線最大値 96 車両MAX
4月10日 小山⇒宇都宮 新幹線最大値 103 車両MAX

表2. JR線の中で測った結果です。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余震発生日時 測定場所 測定結果 公式

 

震度

備考 使用機器
GAL 震度
4月11日 17:16 茨城県

 

古河市

105 5 4 福島浜通りM7.1 

 

最大震度6弱

試作1号機
4月12日 8:08 茨城県

 

古河市

25 4 3 千葉東方沖M6.3 

 

最大震度5弱

4月12日 14:07 栃木県

 

那須塩原市

57 4 4 福島浜通りM6.3 

 

最大震度6弱

4月13日 10:08 栃木県

 

那須塩原市

36 4 3 福島浜通りM5.8 

 

最大震度5弱

4月26日 21:12 茨城県

 

古河市

21 3 3 茨城県南部M5.0 

 

最大震度4

試作2号機
5月28日 11:14 茨城県

 

古河市

6 2 なし 茨城県北部M4.3 

 

最大震度3

表3. 余震を測った結果になります。

もちろん、正しい校正ができませんので、結果の正確さについては全く解りません。しかし、体感的には「正しい」と感じました。起震車に乗せて試したいという衝動にかられます。

9.終わりに

技術的にはセンサーのZ軸を使用していないため、全て平面での測定となっています。Z軸を追加して表示する事も、計算する事も、それほど難しいものではありません。問題は、どこまで必要性があるのかですが、作っている本人にも解っていません。

ところで、大きな揺れと小さな揺れのどちらを対象にするのかで回路が違ってくると思っていました。しかし図2の回路のままで、センサー出力を余っているA/Dコンバータに直接入力する事で、GAL値によってアンプの有無を切り替える事も可能と気が付きました。つまり揺れが少ないときにはアンプを通した値を使い、一定以上の場合にアンプ無しの値を使う2段切り替えをソフトで行えば良いはずです。新しいモノ作りですので、まだまだアイデアも湧いて来ます。

しかし、いずれにしろ、このような地震計は、無用の長物と思えるような状況に戻る事を祈っています。