1.はじめに

毎年この時期にはハムフェアで入手したキットを紹介していました。今年は良さそうなキットが見つけられませんでしたので、前倒しで最もホットなキットを紹介します。

私の住む栃木県那須塩原市は、福島原発よりちょうど100kmの地点にあります。原発事故の影響で、放射線の強いホットスポットがあると報道されました。といって騒ぐつもりは毛頭ありませんが、放射線量は計っておきたくなります。そこで秋葉原で入手した写真1のような空気ガイガーカウンタキットを作ってみましたので、紹介します。ビット・トレード・ワン社製のもので、詳しくはWEB(http://bit-trade-one.co.jp/)を参照して下さい。

photo

写真1. このような空気ガイガーカウンタキットです。

ガイガーカウンタは、普通は写真2のようなガラス管のGM管(ガイガーミュラー管)を使いますが、このキットではフィルムケースのような筒に工作を行い、ライターのガスを充填して使います。つまりGM管を自作してしまうという、信じられないような工作を行います。

photo

写真2. ロシア製のGM菅です。

2.作成

このキットは上記のWEBで調べると、入手先はすぐに解ると思います。私は秋葉原の鈴商で購入しました。原発の事故以降、この筋のキットが多く出されるようになって来ました。このキットもその一つでしょう。WEBで詳しい説明を見る事ができますので、ここでは作った感想を主に述べてみたいと思います。

写真3がこのキットの内容になります。電池は別ですが、ケース付きのフルキットです。但し、アルミ箔とラップ、紙などは自分で用意します。当然ですが、このようなGM管の自作は初めてです。ワイヤーをハンダ付けせずに紙に接着剤で固定したのも初めてです。多少戸惑う部分はありましたが、写真4のようにGM管完成です。とは言ってもこの時点では、こんなんで動くの??という感じです。普通の電子工作の感覚であれば、当然の感想でしょう。ワイヤーは予備も入っていますし、説明書も良く書かれています。

photo

写真3. キットの内部はこのような部品です。

photo

写真4. GM管が完成したところですが・・。これで動くの・・?。

次に写真5の基板に部品を取り付けます。この作業は普段から手馴れていますので問題はありません。読者の皆さんも同じと思います。写真6が基板の完成した様子です。この後でGM菅とスイッチ等を接続して完成となります。写真7が内部の様子になります。

photo

写真5. GM管装着を計算した、このような基板です。

photo

写真6. 基板が完成したところです。

photo

写真7. 組み立てた時の内部の様子です。

ケースの表面に貼り付けるシールは難しいです。私は見事に失敗し、ずれてしまいました。最初に貼り付けて、後からLCDの穴をカッターで開けた方が良かったと思いました。

GM管にライターのガスを入れてフタを閉めようとしたところ、ケースからGM菅が外れてしまい、内部に落ちてしまいました。これではフタが閉められません。一度内部を開けてガスを入れ直し、GM菅を抑えながらフタを閉めました。これは不便ですし、感電の危険もありますので、何か工夫が必要です。そこで、写真8のようにGM菅の後ろ側に割り箸を切って貼り付けました。これで多少押した程度で、外れて落ちるような事はなくなりました。

photo

写真8. GM管の後に立てた割り箸です。

なお、電源には006Pを使っていますが消費電流が67mAあり、すぐに交換するようです。少しでも長持ちするように、写真9のLCDのバックライト用ジャンパーを外してしまいました。J1と表示しておりチップ抵抗に見えますが、000と表示していている0Ωのジャンパーです。写真10が外したところです。これで消費電流は46mAとなりましたので、006Pにはまだ重荷ですが、多少は改善されるはずです。取説にも同じ事が書かれています。使い方から考えて、バックライトの意味はほとんどないと思います。付いてないLCDで十分ではないかと思います。

photo

写真9. LCDのバックライト用のジャンパーはJ1です。

photo

写真10. このように撤去しました。

3.調整

電源を入れたら、まずLCDの表示が見えるように10kVRを回します。取説ではQ&Aに「点かない場合は回す」となっていますが、ほとんどの場合は見えない(点かない?)と思います。見えても見やすいコントラストに合わせるべきですので、まずは基板が見える状態で電源を入れます。そして素早く調整します。この場合、高圧部分がすぐ近くにありますので、くれぐれも触れないようにして下さい。そして、調整後は速やかにケースを閉じます。なお、LCDの表示を薄くしても、消費電流には関係ありません。

次は、試すしかありません。基準となる測定器など、普通の人が持っているはずもありません。ガスを何回も入れ替えて、良さそうな濃度と電圧を探す事が調整の第一歩のようです。一回に何個もカウントするのは濃度が濃過ぎ、つまりガスの入れ過ぎのようです。普通はここで戸惑うと思います。ガス濃度とプラトー電圧の関係が良く解らないからです。私は次のように行いました。というより辿り着きました。先ず、少し多めにライターのガスを入れます。次に10Vステップでプラトー電圧とCPMのグラフを作ります。カウント数が多過ぎても気にしません。これで、プラトー電圧の設定は仮に3190Vとしました。もちろん、この電圧は私の場合の例です。このグラフの例が取説に載っていますので、一度測っておくと動きが解りやすくなります。

次に一度ガスを抜いて少なめに入れなおします。そして1回のカウントで複数カウントしない程度の濃度を探します。カンと運次第ですが、何回か繰り返す事になるでしょう。このようにする事で、安定に動くようになりました。仕上げに、プラトー電圧とCPMのグラフを再度作って確認します。ソフトを使ってUSB経由で読み込み、エクセルで作ったグラフが図1です。ウランガラスを近づけたときの変化を測ってみました。これでどこがプラトー電圧になるのか良く解らないところもあります。仮に決めた3190Vよりは多少高いように見えますので、3260Vに変更しています。

photo

図1. パソコンで取り込んだデータをエクセルでグラフ化したものです。(クリックすると拡大します)

理論は解りませんが、プラトー電圧はガス濃度で若干異なってきます。しかし、極端に変わる事はないようです。従ってまず多めのガスを入れて大体のプラトー電圧を決めてしまえば、あとは濃度だけとなります。電圧を初めに高くしてしまうと、それだけで複数カウントしてしまいます。するとプラトー電圧が高いのか、ガス濃度が高いのか迷子になってしまいます。私がそうでした。ただ、上記の方法で良いのかは不明です。

なお、初めは006Pを調整に使っていたのですが、あまりに消耗するので写真11のような冶具を作りました。これで安定化電源やACアダプタが使えます。但しACアダプタを使う場合は、トランス式は電圧が高くなり過ぎて危険です。スイッチング式で、9Vに安定化されたものが良いと思います。テスターを使って極性には十分に注意して下さい。屋外では当然006Pの出番となります。

photo

写真11. 調整用に作ったACアダプタ用の冶具です。

4.ソフト

私が購入したのは若干古いLOTのようで、その後ファームウェアが更新されています。これはWEBから簡単に入手でき、更新する事ができます。CPUにはPICを使っていますが、これを意識することなく、USB経由で簡単に更新が可能です。このあたりは、最初のうちは気が付きませんでしたが、良く練られた出来栄えの良いキットと思いました。CPMとμSv(マイクロシーベルト)との表示変換や、細かい設定変更はUSB経由でパソコンから行います。

また、WEB上には掲示板があり、様々な意見や質問を見る事ができます。この姿勢は良いと思います。不明点はすぐに質問する事が可能です。このようなキット製作は、大体同じところで迷子になります。Q&Aを見ると非常に参考になりますし、キットに対する姿勢が見えて来ます。

5.使用感

UVにも反応してしまうので、外での測定は太陽に向けないよう注意します。このキットの場合はGM管の作りにもよるのでしょうが、375CPM/μsV/hとなるそうです。つまり、結果が500CPMであれば、375で割った1.33μsV/hとなります。

あまり使った感想でもないのですが、私の家の周りは概ね0.2〜0.5μsV/h程度でした。この数値は多少高いのだと思います。やはり水の通り道には蓄積するらしく、屋根からの水が落ちるところは0.7μsV/hでした。これは北側の屋根ですが、不思議な事に南側は0.4μsV/h程度でした。北風に乗って雨で落下したと言われていますので、その影響でしょうか?。

この程度を気にする必要はないのでしょうけど、長期的には下がる事を追跡する必要は感じました。もちろん、正しく校正をしていないので、概略値ということになると思います。精密な測定は無理です。発表される値よりも若干低いようなので、調整不足かもしれません。屋内では0.01μsV/hくらいまで下がります。

今年のハムフェアで、動作のチェックに使える写真12のようなウランガラスを入手しました。これを近づけると0.2μsV/h位にすーっと上昇します。この値が正しいのか別にしても、結構簡単に動作チェックができました。WEBで探すとウランガラスは装飾品に使われており、入手は容易のようです。

photo

写真12. ハムフェアで入手したウランガラスです。006Pの電池は昔でいうセブンスターです。

6.おわりに

このキットはα線、β線、γ線が測れるそうです。それぞれの特長や物理を勉強しましょう。というのは、ハムフェアのQRPクラブの打ち上げで、JR1QJO矢部先生に原始物理学の基本を伺いました。これはなかなか手ごわく、私など簡単に理解できるものではありません。このキットには放射線の簡単な説明も付いています。これだけでは不十分ですが、良く勉強しなければと思います。

実はこのキットを入手したときは、若干いぶかしげに購入しました。作った直後も同様でした。その後プラトー電圧を測り、ファームウェアを更新したりしていると、私の中では評価が最大限にUPしました。思っていたよりも完成度が高く、良く作られていました。但し、半年に一回しか使わないような場合は、その度にガスを入れ直して調整する必要がありそうです。これは仕方ない事でしょう。電圧計や電流計と違い校正が大変で、クセや誤差が大きい事も仕方ないのでしょう。