1.はじめに

前回のNo.88で、熊本シティスタンダードのトランシーバを紹介しました。この中で使ったのが写真1のサイテックのPower Gear010です。HF帯で使う2Wリニアアンプキットで、これを如何に使うのかを試してみましたので紹介します。No.88の前に紹介するのが順序ですが、反対になってしまいました。

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写真1. No.88で作った、7MHz SSBトランシーバのリニアアンプ部分です。

QRPのリニアアンプですので、当然これだけで使うものではありません。しかし特性をチェックしたところ、便利なアンプと解りました。そこで、写真2のような実験用ユニットを作成し、データを詳しく取ってどの周波数でも使えるように準備しておく事としました。

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写真2. このような実験用ユニットにしてみました。

2.作成

このキットは図1のような回路で、ドライブに2SC1383を、ファイナルに2SC2092を使った2段のリニアアンプです。バンドを指定すると、それに応じたLPFのコイルとコンデンサが付いてきます。写真3がこのキットの全部品で、写真4が基板になります。

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図1. 基本的な回路になります。(クリックすると拡大します)

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写真3. このような、キットの全部品になります。

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写真4. メインとなる基板はシルク印刷です。

アンプの他に電源とアンテナの切り替え回路が付いていますので、トランシーバを作る場合の面倒な部分を、一括してまかせてしまう事ができます。つまり、配線をスッキリとまとめる事ができます。但し、このようなアンプだけの実験に集中したい時には、少々余計に思う場合もあります。

入力にアッテネータを付けるようになっていますので、このリニアアンプのゲインと前段の出力レベルに応じて使います。アッテネータの値は自分で決めて、更に抵抗を入手する必要があります。とりあえずの実験ですので、このアッテネータはスルーにするのが原則ですが、金属のカラーを使うと少し不安定になる時がありました。アッテネータを少し入れるだけで安定になりましたので、とりあえず計算の簡単な10dBを入れておきました。これでもローバンドでは十分なゲインがあります。

このキットの特長の一つに段間のマッチング用コイルがあります。普通はバイファイラとかトリファイラで線を撚って巻いていました。このキットでは写真5のように途中にタップをハンダ付けする手法で簡単に工作しています。従って、インピーダンスを多少変えてみたい場合、案外と簡単に実験ができます。ズボラな私は、トリファイラ巻きでは調整する気にもなりません。

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写真5. 段間のコイルはFB801に巻いてタップを出す方法で、面倒がありません。

LPFは写真6のコイルを使っています。多少のロスはあるとしても、2W程度であれば十分に使用可能です。但し、説明書にもありますが、SWRが悪い場合は、電流が流れ過ぎて切れる場合もありそうです。ローバンドになるほどインダクタンスが大きくなり、線が細くなりますので、切れやすくなります。基板のパターンはトロイダルコイルが使えるスペースがありますので、もちろん自分で巻いても構いません。その方が特性は良いかもしれません。

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写真6. LPF用のコイルとコンデンサです。

キットを作成すると写真7のようになります。実験がしやすいように、写真8のような加工したアルミ板を作って実装しておく事にしました。特性を測定するのに接続変更がしやすいように、アルミ板には穴が開けておきました。写真9のようにまとめてリニアアンプ実験用ユニットの完成です。

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写真7. キットの基板が完成したところです。まずは実験なのでLPFは乗せていません。

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写真8. アルミ板を折り曲げて、簡易なシャーシを作ってみました。

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写真9. このようにまとめて完成(一応)です。

3.測定

まずは図2ですが、入力のアッテネータを10dBとして出力のLPFをスルーしました。この時の特性が測定結果1になります。いわゆる基本的なf特ですが、出力を最大の周波数で100mW程度にするため、入力レベルを調整しています。出力を2Wにしてしまうと飽和レベルに近づいてf特が良く見えてしまうため、多少下げたレベルで測っています。このように3MHz付近ではは48dBのゲインがあります。これはアッテネータのロスを含めてですので、10dBを戻すと58dBのゲインとなります。コイルのタップを取り出す位置で、ゲインも多少は変わるかと思いますので、参考程度にして下さい。なお、下から2divの位置に基準をおいてノーマライズしています。以下同じ設定で測定しています。

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図2. 入力のアッテネータを10dBとし、LPFをスルーした回路です。(クリックすると拡大します)

高周波以外の回路は省略しています。(以下の図面も同様)

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測定結果1. 図2の場合の特性になります。(クリックすると拡大します)

次に2Wになる時の入力レベルを測ってみると、表1のようになりました。これは測定結果1と同じように見えますが、同じではありません。この方が使いやすいかもしれません。

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表1. 出力が2W(+33dBm)になるように調整した時の、入力レベルとゲインです。(クリックすると拡大します)

ゲインが高いと使いやすいのですが、逆に困る場合もあります。例えばNo.88の熊本シティスタンダードのトランシーバですが、トランスバータからの出力は+8dBm程度ありました。7MHzでのゲインは52dBもありますので、2W(33dBm)を出力しようとすると、入力は-19dBmとなります。従って、入力のアッテネータは27dB程度が必要になってしまいます。これは計算上では簡単ですが、実際には微調整が必要になるでしょう。また、ドライブ段のゲイン程度にアッテネータを入れる事になりますので、電力の無駄使いという事にもなります。

そこで、図3のようにドライブ段をスルーして、同様に測定したところ測定結果2になりました。T1はオリジナルのとおりで、4回巻きでタップをアースから2回の位置で取り出しています。これを試しにアースから1回の位置に変更すると、測定結果3のようになりました。ゲインが下がりNGでしたが、これは想像したとおりです。

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図3. 入力のアッテネータとLPFはそのままで、ドライブ段の回路をスルーした回路です。(クリックすると拡大します)

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測定結果2. 図3の場合の特性になります。(クリックすると拡大します)

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測定結果3. 図3でT1タップをアースから1回にした場合の特性になります。(クリックすると拡大します)

図4は7MHzのLPFを入れた場合で、測定結果4になりました。このようにしてNo.88のリニアアンプの回路は決めています。HF帯のローバンドで、入力レベルが5mW以上のような場合には、図4の回路でアッテネータを調整するのが良いと思います。

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図4. 入力のアッテネータとドライブ段の回路はそのまま、LPFを7MHz用にしました。(クリックすると拡大します)

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測定結果4. 図4の場合の特性になります。7MHzのLPFを入れたため、20MHzまでに設定しています。(クリックすると拡大します)

また、図5はドライブ段を付けて7MHzのLPFを入れています。結果を測定結果5に示します。この方が使いやすい場合もあると思います。このまま2Wを出力した場合のスプリアスを測ってみたのが測定結果6です。2倍波で-50dBcとなっています。

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図5. 入力のアッテネータはそのままで、ドライブ段の回路を戻した回路です。LPFは7MHz用のままです。(クリックすると拡大します)

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測定結果5. 図5の場合の特性になります。(クリックすると拡大します)

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測定結果6. 図5の回路で2W出力した場合のスプリアスです。(クリックすると拡大します)

4.使用感

なかなか使い勝手の良さそうなリニアアンプです。ゲインが大きいので可能性も広がります。ドライブ段をもう少しfTの高い石に大きい代える事で、50MHzにも使えるかもしれません。試してみようと計画しています。もちろん、ゲインは下がってしまいますが、ある程度の出力も可能でしょう。