1.はじめに

「FCZコイルが無くなる」というニュースが流れて暫く経ちました。何と言っても自作の「標準コイル」だったのですから、時代の流れとはいえ困っている方も多いと思います。私としても影響は大きいものがあります。これからの流れとしては、10Kや7Kのジャンクコイルを流用する、トロイダルコアに巻く、回路で工夫する、等々の対策を研究し、何とかするしかありません。

しかし、当面の間は10Kや7Kのコイルに自分で巻くというのが主流ではないでしょうか。なぜなら自作派の部品箱には沢山のジャンクコイルが眠っているからです。実は私も記事ではFCZコイルとしていましたが、実際には手巻きのFCZモドキコイルもずい分と使っていました。コスト面からですが、250円にもなると大量に使うのは大変です。もちろん、純正コイルも大量に消費していたのも確かです。No.88で紹介した熊本シティスタンダードにも、手巻きコイルがたくさん使用されています。良し悪しや好みはあるとしても、高周波回路の基本となる部品です。

2011年のCQ誌9月号にはJA9TTT加藤さんのコイルの自作記事が載りましたので、大いに心強く思います。そこで、このようなコイルの手巻きに伴って使う、写真1のようなジャンクコイルの分解用治具を紹介します。久しぶりに電子工作ではない、簡単な機械工作になります。

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写真1. このようなプリント基板で作った、ジャンクコイルの分解用冶具です。

2.コイルの分解

コイルはものによって構造が多少異なります。良くあるタイプは、写真2と写真3のように上からシールドケースを被せるようになっています。中にはツメのある写真4のようなシールドケースもありますので、これはドライバなどでツメを外さないと開けられません。写真5は冶具のいらないコイルで、コアを反時計方向に回すだけで写真6のように自然に抜けてしまいます。10MHz以下のコイルに多いタイプです。写真3との区別は見た目ではなく、簡単に抜けるかどうかだけです。これは最近AITENDOの通販で仕入れた一個50円のコイルで、9.6〜12.8MHzに同調しました。二次側はありませんでしたので自分で巻く必要がありますが、同調用のコンデンサも内蔵されていて使いやすそうです。

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写真2. 10MHz以上のコイルに良くあるタイプです。ネジ型のコアが上下してインダクタンスを変えます。コイルにもよりますが、10MHz以下でも巻数にへこたれなければ使えます。

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写真3. 10MHz以下のコイルに良くあるタイプで、ツボが上下します。FCZコイルの3.5MHz用です。少ない巻数でインダクタンスが多くなっています。

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写真4. ツメのあるタイプはツメを外します。これは455kHzのコイルです。

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写真5. 写真2と同じタイプですが、回してみるとケースが簡単に開いてしまう「冶具いらず」のコイルで、2次側に5回程度巻けばIF用に使えそうです。

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写真6. このように簡単に開いてしまいます。

さて、写真2や3のようなシールドケースの開封方法ですが、以前は精密ドライバーを差し込んで、無理やりシールドケースを浮かせて開けていました。この作業を数十個単位で行うと、たいてい指に怪我をします。爪の間に刺すと激痛ですし、シールドケースの足はナイフのように切れます。これで当分の間は工作が出来ない療養モードに・・。今まで何回やった事か・・。そこで簡単、安全に開封できる冶具が必要になってきます。

3.冶具の作成

ハンダ付けできるプリント基板上に、写真7のように0.1mm厚の銅あるいは黄銅の板をハンダ付けします。この厚さはシールドケースが引っ掛かる程度で、ケース内部の部分は通り抜けるようにします。ノギスで測るのも大変ですが、コイルのシールドケースと同じ感じか、多少厚くても良いと思います。

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写真7. 0.1mm厚の銅板や真鍮板を生基板上にハンダ付けします。

また、基板上には4mmあるいは5mmネジのナットをハンダ付けします。この位置はまっすぐにコイル内部を押せる位置です。接触面積の大きいネジの方がコアに負担をかけませんので、なるべく5mmのネジを使うようにします。但し5mmネジではシールドケースを通らない事もありますし、7Kか10Kかによっても基板面からの高さが違ってきますので、ハンダする時には高さも考えてから固定します。5K用については試していませんので、良く解りません。7K用よりも少し小型になるだけで同じだとは思います。要は、持っているコイルを全部並べてみて、使いそうなパターンに合わせてネジとナットの位置を決めれば良いでしょう。

ナットには長めのネジを入れておきます。ホームセンターで売っている、ネジの詰め合わせセットを使いました。長年置いておくとさびが出そうなネジで、トランシーバの製作などには使いません。しかし沢山の種類が入っており、このような時には便利です。もちろん普通のメッキした黄銅ネジでも構いません。というネジを使っていたのですが、最近になって回しやすいチョウネジに変えました。入手は困難と思っていたのですが、案外簡単に入手できました。普通のネジでも手で十分に回す事ができますし、趣味で使う程度ならそれでも全く問題ありません。

写真1のようにして何種類かのコイルに対応します。チョウネジでは間隔がないと隣が邪魔になってしまいます。写真1よりも少し広くした方が良いでしょう。

4.使用感

写真8のようにコイルのケース部分を引っ掛け、動かないように押さえながらネジを回して行きます。すると、写真9のようにあっけなくズルズルっと内部が抜けて出てきます。ここまで来れば、写真10のようにすぐに出せます。コイルによってはゴツゴツという感触があるかもしれませんが、すぐに完了します。場合によっては内部が抜けずに押し壊す事も考えられますが、使い方を間違えなければほぼ大丈夫です。単価10円程度で入手できた頃なら、歩留まりをそれ程気にする事もありませんでした。今では貴重な部品ですので、思わず慎重になってしまいます。写真11は構造を考えたら当然NGのコイルです。結果はこのとおりになりました。

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写真8. こんな感じにセットし、上から指で抑えます。

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写真9. ネジを回してコアを押して行くとズルズルッと抜けます。

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写真10. このとおり大成功!!

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写真11. コイルによっては使えない事もあります。見ればNGと解るはず・・ですが、大抵は後から気が付くもの・・。

この冶具を作ってからは、一回もケガをせずにコイルを分解できています。また、分解するスピードも1/5〜1/10くらいでしょうか。効果は十分にあると思います。ドライバーでこじったりすると、ケースが部分的に膨らんだり亀裂が入る事もありますが、この冶具ではそのような事もありません。簡単な冶具ですので、コイルの手巻きをする方はぜひ作ってみて下さい。