1.はじめに

受信機のAGC特性の測定に使うバースト信号は、今までNo.66で紹介したSGに外付けする「バーストアダプタ」を使っていました。これはこれで良いのですが、簡単に作っている事もあってON/OFFの時間比が常に1:1で固定され、細かい設定が出来ず不便な点がありました。それならいっその事SGから作ってしまい、DDSの出力をソフトでON/OFFする事で、レベル比も大きくとれるようにしようと企みました。このように作成した、写真1のようなバースト信号専用のSGです。

出力は50Ωとしましたが、周波数は100Hz〜60MHzです。オーディオ帯域でのテストも可能ですから、マイクコンプレッサの立ち上がり立ち下がり測定もできます。そのため、50Ω⇒600Ωのマッチング用PADも合わせて作成しました。

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写真1. このようなバースト信号専用のSGです。

2.考え方

一応はSGですので、本来はレベルと周波数は正確な必要があります。しかし、目的がバースト信号ですので、あまり神経質になる事もないだろうと、ザックリで行きました。また、S3〜4程度の信号をON/OFFするような事はあまりないと考え、ON時のレベルは無理して絞る必要はないとしました。

そこで、手持ちの1dBステップの20dBアッテネータを使用する事にしました。出力は-25〜-5dBm(88〜108dBμ)となりちょうど良い程度です。これで足りない時には、外部にアッテネータを付ければ良いと思います。

このように、目的はバースト信号の専用と割り切ってしまいました。もちろん、この回路でもシールドを厳重に行い、アッテネータを充実すれば普通のSGとしても十分に使用できるでしょう。

3.使用方法

レベルと周波数を設定して受信機なりアンプに入力します。その時の操作について、少々解り難いところもありますので説明します。

基本的には周波数もバーストのタイミングもロータリーエンコーダのチューニングで調整します。バーストでのON時間を設定するのがON TIMEです。これをON側にするとLCD上でON TIME表示が反転し、ロータリーエンコーダで1〜9999msを可変する事ができます。同様に、OFF時間を設定するのがOFF TIMEです。これをON側にするとLCD上でOFF TIME表示が反転し、ロータリーエンコーダで1〜9999msを可変する事ができます。ONとOFF時間を同時に設定する場合は、両方をON側にします。デフォルトではONもOFFも1000msに設定しています。

両方のスイッチがOFF側の場合はFRQ表示が反転し、周波数を設定するモードになります。周波数は1kHzステップで動きますが、10HzをON側にすると10Hzステップ固定になります。但し、周波数が100kHz以下になると、自動的に10Hzステップになります。

なおバーストモード中はこれらの操作ができません。バーストモードをOFFしても、最後のサイクルが終わるまではバーストモードになりますから操作できません。つまり、最大20秒間は操作不可能になります。バーストモード中はスイッチ監視を極力少なくし、肝心なタイミングに影響を与えないようにしているためです。

各スイッチは写真2のように配置しています。

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写真2. 各スイッチです。以下に注意点を示します。

ディスプレイ : 反転文字はその時のモードを表す。この場合はFRQ変更モード。

BURST ON : ↑でバーストモードになる。

※バーストモード中は周波数やON/OFF時間の変更はできない。

TIMING ON : ↑でON時間を調整するモードになる。

TIMING OFF : ↑でOFF時間を調整するモードになる。

※ 両方↓↓で周波数を調整するモードになる。

4.回路

図1が全回路図になります。CPUにはAVRのATmega164Pを用いました。アッテネータはジャンクの東京光音製TA481で、1dBステップで20dBのものです。

LCDはグラフィックLCDを用いました。周波数とONする時間、OFFする時間やモードを表示しようとすると、4行程度は必要となってしまいます。しかし、4行20文字では大き過ぎです。そこでグラフィックタイプのLCDを使用する事としました。

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図1. バーストSGの全回路図になります。(クリックすると拡大します)

DDSにはAD9851を用いてテクノラボの基板を使用し、図2の回路となっています。AFでも使う事を考え、出力には大きめのケミコンを入れています。最近では中国製のDDS基板が安価で入手できるようになりました。このような基板を使用する方法もあるかと思います。

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図2. DDSの回路図になります。(クリックすると拡大します)

5.作成

ケースはタカチのCU-3に入れました。グラフィックLCDのため、内寸で50mm以上の高さが必要になります。使えるケースが限られてきますし、あまりピッタリ収まる感じの市販ケースは見当たりません。写真3,4が穴あけをしたところです。写真5がアルミ地のプリンタ用紙にパネル面を印刷したものです。これを貼ると写真6のようにパネル面ができます。

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写真3. タカチのCU-3に穴あけしたところです。

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写真4. 後ろ側からです。

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写真5. パネル面の表示はパソコンで作りました。

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写真6. 貼るとこのようになります。

作りやすさを考えて、DDS基板はCPU基板の上に載せる事としました。図3,4のような実装図を作ってからハンダ付けしました。写真7が作り始めたところです。基板が完成し、テストのため仮接続を始めたのが写真8です。なお、DDSにはテクノラボ(http://www.asahi-net.or.jp/~ux7s-nkmr/)のDDS-oneを使用しています。

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図3. CPU基板の実装図になります。(クリックすると拡大します)

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図4. 電源基板の実装図になります。(クリックすると拡大します)

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写真7. 基板を作り始めたところです。

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写真8. 仮接続でテストをします。この時点で問題点は無くしたいものです。

LCDを前面のパネルにネジ止めしたため、上蓋の補強金具に接触してしまいます。多少大きめのケースにしても良いのですが、内部がスカスカというのも気に入りません。そこで、仕方なく補強金具を少し削ってしまいました。そのため上蓋には前後の区別があります。

ケース内部の工作は、あまり出力レベルを絞らないため厳重なシールドをせずに、簡単に済ませています。

6.ソフト

ソフトはBASCOM AVRを使用して作成しました。オールバンドCWトランシーバのソフトの流用で、ほとんどマイナーチェンジになります。不要な部分を削って行き、周波数の範囲は広げました。最後にバースト信号用にDDSを止めたり出力したりする制御と、タイミングの制御を加えました。ここからソフトのソースとHEXファイルをダウンロードできます。

電源ON時にはサルのキャラクタを、3枚のパラパラ漫画で表示しました。単なる遊び心ですが、グラフィックLCDだから可能な表示です。

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動画イメージ1. サルのアニメーション画像

これは原画を長女に依頼して作成したものです。仕様としては、「今年もハムフェアの自作品コンテストに入賞するぞ、とVサインをするニヒルなイケメン」でした。どうも仕様とは相当にズレているようで、サルのキャラクタになった理由は不明です。

7.600Ω変換

低い周波数は100Hzからとしましたが、実はDDSとしてはもっと低い周波数からでも出力できます。用途が無いので使っていません。使う場合はカップリング用のコンデンサをもっと大きくするなど、少し検討が必要でしょう。

せっかく100Hzから出力できるのですから、これをAFの試験に使用しないのはもったいないです。そこで50⇒600Ωに変換する、写真9のようなMATCHING PADを作成しました。図5のような回路で、dBmつまり電力換算で20dBのロスとしました。もう少しロスを減らす事も可能ですが、暗算が容易な値に設定しました。

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写真9. 50⇒600Ωへのインピーダンス変換をするPADです。

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図5. MATCING PADの回路図です。(クリックすると拡大します)

内部は写真10のような基板をBNCコネクタのレセプタクルとプラグで挟み、写真11のように組み立てています。これに10mmφの真鍮パイプを被せてハンダ付けし、余分なハンダを削ったところが写真12です。次に熱収縮チューブを(黒)を被せ、表示を入れて更にクリアの熱収縮チューブで仕上げています。使うのはAFですが、100MHzくらいまで使えそうな作り方になっています。作りやすさを考えて、600Ω側もBNCコネクタとしましたが、写真13のようなBNC⇔クリップを使用する事を考えています。これでマイクコンプレッサのテストも可能になります。

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写真10. 使っている基板です。50Ωになるようにラインを削って作っています。

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写真11. 内部の様子です。

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写真12. 真鍮のパイプを被せてハンダ付けしたところです。

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写真13. このようなクリップを使います。

8.テスト

配線を終わってテストをしてみると、写真14〜16のように出力します。これは7MHz、30MHz、50MHzを1msでON/OFFした波形です。周波数が高くなると下がって見えますが、使っているオシロが40MHz仕様のためです。実際に下がりますが、ここまでは下がりません

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写真14. 7MHzを1msでON/OFFした波形です。

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写真15. 30MHzを1msでON/OFFした波形です。

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写真16. 50MHzを1msでON/OFFした波形です。

ところで立上りの部分を見ると、波形にツノがある事に気が付きました。周波数が5MHzくらいで出始め、50MHzでは写真17のように酷くなってきます。50μs/divですので、10μs程度の長さです。AGCの動作チェックにはほとんど影響ない長さとは思いますが、気にはなります。これは図6のようにして測ったのですが、これではオシロの入力インピーダンスが高いのでマッチングが取れません。そこで図7のようにして測ったところ、写真18のように相当に改善されました。特に30MHz以下ではほとんど見られません。まだどこかに問題があるのかもしれません。HF帯では十分な波形と思います。

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写真17. 50μs/divで拡大した50MHzでの立ち上がり波形で、ツノが見えます。

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図6. 最初に測定した時の接続です。(クリックすると拡大します)

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図7. このように終端し50Ωに合わせました。(クリックすると拡大します)

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写真18. オシロを50Ωにマッチングした波形です。まだツノがありますが、オシロの限界なのかもしれません。

9.使用感

タイミングを自由に変える事ができると、また違った世界があります。こんなSGがあると、自作した受信機ではAGCのまずさがモロに見えてしまいます。さすがにアイコム製のIC-703は上手く動くものだと感心しました。このように、今まで見えなかったものが見えてくる測定器って楽しいですし、自作品の向上に役立ちます。

いかにバースト信号が難しいのか身に沁みました。まだまだ良く解らない事も多く、改善すべき点もあるかと思います。しかし、このような信号を扱う事で技術が進歩するのだ、と思う事にします。