1.はじめに

No.88では熊本シティスタンダード復刻基板を使用した、7MHzのトランシーバを紹介しました。今回は自作の定番という事で、50MHz版を作成してみました。熊本シティスタンダードらしく、VXOで作った写真1のようなトランシーバです。

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写真1. 熊本シティスタンダードを使った、このような50MHzのSSBトランシーバです。

私が無線を始めた頃は入門バンドと言われていた50MHzです。自作の入門にも適しているとされ、自作機でQRVする局も珍しくはありませんでした。もはや過去の話しで、今は自作の入門バンドなど無いという状態でしょう。しかし、今でも自作機でQRVしやすいバンドだと思います。

2.構成と回路

図1のような構成で作成しました。7.8MHzのクリスタルフィルタを用い、58.14MHzのVXOとミックスしています。3rdオーバートーン用のクリスタルを用い、基本波で発振させて3逓倍させます。スタイル、回路共にオーソドックスな熊本シティスタンダードです。以前は11.2735MHzのクリスタルフィルタに、13MHzちょうどのクリスタルを3逓倍して足し算するという周波数構成を良く使っていました。クリスタルフィルタやクリスタルが入手できれば、どちらでも同じです。もちろんラダー型のフィルタを使う方法もあります。

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図1. 周波数の構成になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

SSBジェネレータが図2、トランスバータが図3となります。手巻きコイルを多く使っていますが、MDK××はFCZコイル相当のコイルです。MDK=面倒くさい、ではなくモドキです。あまり追求しないで下さい。

基本的にはオリジナルの回路をそのまま作るようにしています。SSBジェネレータのT7については、後述のようにインピーダンスの不一致があるようでしたので、9:1のトリファイラトランスに変えました。ずい分前には、これに周波数カウンタやNBとかを付けようとしていましたが、最近はそのまま「すっぴん」の方が熊本シティらしく思えるようになりました。従って、回路的にオリジナルな部分もなく、特に目新しいところはありません。

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図2. SSBジェネレータの回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図3. トランスバータの回路図です。MDK××は、FCZコイル相当の手巻きです。(※クリックすると画像が拡大します。)

リニアアンプは2SC1970を使った1W出力のQRPです。といっても、入力レベルを控えて、500mW程度としています。その理由は歪みが増えてくるためで、軽く使うと多少は改善されます。この回路を図4に示します。

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図4. リニアアンプの回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

3.作成

2010年のハムフェアで入手した、貴重なオリジナル基板が写真2です。なぜかダイオードだけハンダ付けしてありました。オリジナル基板は今では入手困難ですので、 No.88と同様にサイテックで復刻版の基板を入手して頂ければ同様に作成ができます。現在入手できる部品を考えると、復刻版の方が作りやすいと思います。

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写真2. 2010年のハムフェアで見つけた、未組み立ての基板です。

最初はこのオリジナルの基板で作ろうとしましたが、あまりに貴重なので大事にしまっておく事とし、 No.88の記事を書いた時にゾロゾロと出てきた発掘基板を使う事にしました。もちろん、復刻版でも同様に作成可能です。

写真3は以前作ってジャンク状態だったSSBジェネレータとトランスバータです。SSBジェネレータには、写真4のように昭和57年10月17日と作った年月日まで書いてあります。30年も前に作った基板ですが、使えるものなら生き返らせよう、です。IFは11.2735MHzを使っていましたが、周波数構成で7.8MHzとしたため、クリスタルフィルタとキャリアの水晶を交換する事にしました。また、コイルの同調用コンデンサも68pFから120pFに交換しました。写真5が交換しているところです。ここで写真6のように動作チェックをすると、受信も送信も全く問題ありませんでした。本当はケミコンも交換すべきとは思いますが、とりあえずは「良好」という事で進めています。

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写真3. 以前作った基板です。

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写真4. 作った年月日まで読めます。

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写真5. クリスタルフィルタを交換しました。

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写真6. SSBジェネレータの動作チェックをしました。

FETは当時の秋月電子のキットに良く使われていた、あのMEM680です。これは入手できませんし、このFETである必要もありません。似たようなFETはまだまだ入手できるはずですので、探してみて下さい。

トランスバータは50MHz用に作ったものがありましたので、これをリニューアルしました。DDS用に作ったらしくVXO回路がありませんでしたので、ここは組み直しています。58.14MHzのクリスタルを基本波で発振させ、3逓倍しています。クリスタルにはソケットを用い、いつでも差し替えられるようにしました。VXOにはポリバリコンを使っています。最初は60pFを使っていましたが、最近では品質のよくないものも出回っているようで、すぐにガタが出てダメになってしまいました。4連のポリバリコンの20pFを使いました。20pFでも60pFでもVXOコイルを調整する事で、可変幅を同じ程度に調整する事ができますが、20pF位が使いやすいようです。可変幅は欲張らずに150kHzにしています。トランスバータはちょっとスッキリしない感じになってしまいました。本来は発振と3逓倍を同時に行い、2段目のアンプで増幅すれば良いはずです。リニューアル前に付いていたコイルをそのまま使ったため、このような回路になっています。また、モドキコイルにはFCZコイルと違ってセンタータップがありません。そのため、オリジナルではセンタータップを使う部分がありますが、仕方なく使用しないように変更しています。

DBMのコイルにはFCZ28を使っていましたので、そのまま使う事にしました。ここはバイファイラ巻きでないと使えません。適当に巻数だけを合わせたモドキコイルは使えません。もちろんフェライトコアに手巻きしても良いでしょう。リニューアルしてテストしているところが写真7になります。右側にあるのがボールドライブメカを使った、ポリバリコン+ダイヤルメカになります。これは No.88と全く同じ構造です。

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写真7. トランスバータもリニューアルしてチェックをしました。

ここで写真8のようにSSBジェネレータとトランスバータを仮接続し、動作する事を確認しました。ちょっと気になったのがクリスタルフィルタのリップルです。CWのような単一トーンの信号を聞くとすぐに解りますが、帯域内で強弱が出てしまいました。恐らくクリスタルフィルタのインピーダンスが合ってないと考え、一番怪しいT7をトリファイラトランスに交換してしまいました。つまり発振はしませんでしたが、 No.88のトランシーバと同じです。これで試すとあまりリップルを感じなくなりました。ずい分前に作った基板なので、どのようなコイルを巻いていたのか解りませんが、指定の巻数になっていなかったのでしょう。30年前の私の技術では気が付かなかったのだと思います。

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写真8. SSBジェネレータとトランスバータを接続して再度チェックを行います。

ケースは No.88のトランシーバとほぼ同様です。タカチのYM-250に穴あけをしたところが写真9です。内部の配線をしたところが写真10になります。

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写真9. ケースはタカチのYM-250です。

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写真10. 内部の配線を開始したところです。

写真11はトランスバータまでをケースに入れて、次のリニアアンプの実験をしているところです。リニアアンプだけはこの時点で実験するという、乱暴な手法です。図5にリニアアンプの実装図を示します。部品面にアースのある、高周波に適したジャノメ基板を使っています。1Wの出力は十分に得る事ができます。リニアアンプのゲインは21dBでした。トランスバータ出力は+12dBmまで歪みませんでしたので、アッテネータは3dBとしました。500mWとしていますが、余裕ですので1W出しても大丈夫です。写真12は配線が終わった内部の様子です。

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写真11. 1Wリニアアンプはこの時点でテストです。

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図5. リニアアンプの実装図です。ミドリの点は銅箔面へのアースを示します。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真12. 内部の配線が終わったところです。

写真13のようにVR用の目盛を円盤として、これにパソコンで作った周波数目盛を貼り付けました。貼り付けると写真14のようになります。ダイヤルメカも No.88と同じものを作りました。ついでにケースも同じとしましたので、デザイン的にも変わりません。2台並べてみると、写真15のように全く同じデザインと解ります。上が本機で下が No.88の7MHz機です。ダイヤルメカについてはグリスを入れると動きがスムースになり、ずっと使いやすくなりました。こんなに変わるとは思ってもいませんでした。

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写真13. 目盛はVR用の目盛板を使いました。

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写真14. 貼り付けるとこのようになります。

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写真15. No.88の7MHz機が下になります。全く同じデザインの姉妹機にしました。

4.使用感

栃木県の北部では、50MHzはほとんど聞こえない状態になっています。聞こえないから作らなくなる、という話をサイテック内田さんとしたことがあります。確かにそのとおりで、これでは電波を出す以前の問題になってしまいます。自作でも何でも、地方の50MHzをもっと賑やかにしたいものです。熊本シティスタンダードは、そのようなトランシーバと思います。