1.はじめに

私が自分で書くのも何ですが、ずい分前から無類のDDS好きのようです。PLLで苦労したのがウソのように、安定した周波数を細かいステップで作れたのがキッカケだったと思います。最初にDDSを使ったのは90年代の後半で、多くの方と同じ秋月電子のキットでした。このキットは今も売られていますし、15年以上も続くロングセラーです。しかしクロックが67MHzと低く、せいぜい20MHz程度までしか使用できません。それ以上でも出力はできますが、レベルが低下してスプリアスも多くなります。

そこで数年前からアナログデバイセズのAD9851を使い始め、多少オーバークロックとして32MHz×6の192MHzで使っていました。これで60MHz程度は出力できます。もう少しオーバークロックをすると、周波数によっては不安定な動きとなりますので、この程度が限界と思います。クロックは6倍しない方が良いとは解っていますが、180MHz付近のクロック発振器は簡単には入手できません。最初は変換基板上で空中配線をして作っていましたが、後にはテクノラボ

(http://www.asahi-net.or.jp/~ux7s-nkmr/)の基板を使うようになりました。

さて、次はクロック500MHz・・と思っていたところ、JA9TTT加藤さんのブログで中国製AD9850の基板が一枚600円程度の格安で入手できる事を知り、20枚ほど入手してしまいました。この基板は経緯がモロモロとありますので、加藤さんのブログを御覧下さい。私もブログ上に何回か登場しています。問題点はあるとしても、一般的にはICも買えないような破格の値段です。

AD9850は、AD9851とピン配置が同じで、コマンドもクロックの6倍モードがないだけでほとんど同一です。クロックの上限が125MHzですので、出力周波数の上限も低くなります。しかし、125MHzのクロック発振器が使われているため、6倍する必要がないというメリットがあります。出力周波数としては60MHzと40MHzの違いですので、50MHzのSGにできるかどうかの違いにしかなりません。HF〜50MHzのトランシーバのLOとしては、十分にカバーできます。そう考えると価格的にも周波数的にも使いやすいユニットに思えてきました。そこで購入してしまった次第です。写真1が送られて来たときの様子です。

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写真1. 中国から直輸入したAD9850のDDS基板です。合計で6000円以下でした。ちょっと静電気が心配です。

この基板を使って加藤さんも発振器を発表していますが、私も写真2のようなテスト用の発振器を作ってみましたので紹介します。このような発振器を作るには目的があります。ひとつは気軽に実験用の発振器として使う。つまりSGのような使い方です。何かの製作のため、とりあえず仮に発振させる。DDS基板のテストを行う。ソフトの開発を行う。等々となります。従って、様々なものに応用して使えるというのが理想です。

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写真2. ロータリーエンコーダを使ってコントロールする、10Hz〜40MHzのテスト用発振器です。

2.回路

図1に回路図を示します。CPUとしては少々古いのですが、手持ちのAVRのATmega8を使用しています。このAVRは28ピンタイプですが、残りのピンが少なく、制御を増やす場合には支障がありそうです。もっと新しい、ATmega168P等でも、ピン配置は同じですので、同等に使用できます。

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図1. 全回路になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

周波数の設定は、メカ式と光学式のロータリーエンコーダで行い、周波数はLCDに表示します。これだけでは周波数の設定にストレスを起こしますので、ステップを10倍にするスイッチを付けました。OFF時には光学式が10Hzでメカ式が100kHzですが、ON時にはそれぞれ100Hzと1MHzになります。従って、すぐに目的の周波数に合わせられます。

DDS基板は600円程度なのですが、光学式ロータリーエンコーダが価格的にはネックになります。千石電商で購入した一回転100パルスのクリックなしを使っていますが、2450円になります。

CPUのクロックには8ピンのICソケットを付けています。これは写真3のように、16MHzのクロック発振器を使用するように考えたものです。また、セラミック発振子も使用できるように配線しています。写真4のように差し込むと接続されます。もちろん、ヒューズビットで内部の発振器を使う事も可能です。その場合は不要になります。

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写真3. 8ピンのICソケットを使って、CPUのクロック用クロック発振器を容易に交換できるようにしました。

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写真4. 3端子のセラロックもこのようにして使用できます。

出力回路にはバイファイラ巻きのコイルを入れて、インピーダンスを下げています。しかし、周波数が低いとコイルが邪魔になって出力が出ません。そこで写真5のように、直付けの端子とスライドスイッチで切換えるようにしました。

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写真5. AF出力用の出力端子です。左側の基板出力には大宏電機のコネクタを使っています。

3.DDS基板の改造

DDSのクロックは前述のように125MHzです。しかし、これには前述のようにモロモロの事情があります。素性の良くないクロック発振器の場合は交換するのが良さそうです。素性は良くても30MHz以下の周波数を出力させる時には、100MHz位のクロック発振器に交換した方が良いと思います。このクロック発振器は70mAも消費し、かなり熱くなるからです。そこで、気軽に他のクロック発振器が実験できるように、8ピンのICソケットに付け代えました。写真6がその様子です。要はCPUのクロックと同じ方法です。テスト用ですので、これが一番良いと思います。

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写真6. DDSのクロックも写真3と同様に差し替え容易にしました。

このDDS基板の中には70MHzのLPFが使われています。しかし、チップインダクタの特性不良のため、30〜40MHzでも出力がダラダラと下がってしまいます。そこで、もう少し大型のチップインダクタに交換した方が良いです。0.47μHが2個と0.39μHが1個です。R5の200Ωは外します。この改造でレベル低下は避けられます。しかし、元々パターンの引き回しに問題があり、スプリアスは計算どおりには減衰しません。使う場合は注意が必要です。始めから切り離して取り出すのも一つの方法です。

これらの改造は使う目的にもよりますので、必ずやらないと動かないという事ではありません。広帯域の周波数を一定レベルで出力したいような用途では必要になりますが、狭帯域で使用するなら不要な場合もあります。

オーディオ帯等の低い周波数で使うのであれば、クロック発振器を交換するだけで良いと思います。この場合は外付けのバイファイラコイルは使用できません。

4.作成

DDS基板とCPUを載せる基板の実装図を図2〜4のように作りました。基板は部品面が全面アースの高周波用のジャノメ基板です。緑の点はアースに直付けするところです。ソケットは1列のソケットを用いています。制御線はこれで良いのですが、高周波の出力にこんなソケットは使いたくありません。しかし、簡単にテストするためにはこれを利用するのが一番と、割り切っています。これでDDSユニットの交換も自在です。

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図2. このような実装図を作ってから作成しました。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図3. ハンダ面のレイヤーです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図4. ジャンパーのレイヤーです。(※クリックすると画像が拡大します。)

写真7のようにアルミ板とアルミLアングルの穴あけを行い、ジャノメ基板や電池ホルダー等をネジ止めします。ロータリーエンコーダやPOWスイッチにはアルミのLアングルを加工し、ネジ止めします。

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写真7. アルミ板とLアングルをこのように加工しました。

当初はメカ式のロータリーエンコーダは考慮していなかったため、写真8のように前面に出力がありました。その後BNCコネクタは写真9のようなアルミ金具を作って、アルミ板の中央に移しました。空いたところには、メカ式ロータリーエンコーダを取り付けました。写真10が写したところで、ずっと使いやすくなりました。その関係で、BNCコネクタの取り付け用ネジ穴が残ってしまっています。これは失敗です。メカ式のロータリーエンコーダがないと不便であると、気が付くのが遅かったのでした。

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写真8. 出力のBNCコネクタは前面にありました。

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写真9. 後から作ったBNCコネクタ用のアルミ板です。

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写真10. 最終的にはこのようになりました。

ところで、LCDにはキャラクタ式の2行16文字を使っています。メーカによって様々な製品があるのですが、ピンの配置や番号の振り方が微妙に異なります。図5のように、私の手持ちのものをまとめてみましたので参考にして下さい。このように電源の逆接に注意すれば良いのですが、私もたまに逆接をやってしまいます。

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図5. LCDの接続をまとめてみました。左側はLCD表示側から見た番号です。事実上は電源の逆接だけに注意すれば良い事が解ります。(※クリックすると画像が拡大します。)

5.ソフト

基本的にはLCDに表示した周波数データをDDSに送るだけです。あとはスイッチと光学式とメカ式のロータリーエンコーダの状態を読みに行くだけのソフトです。

周波数は10Hz〜40MHzをカバーしています。最初はLCDの表示桁を周波数によって調整するのが面倒だったので、1MHz以下にはならないようにしていました。しかし、その後AF発振器を試す事となったので、10Hzからとしました。使ってみて気が付きましたが、AF用としては周波数の動きが速過ぎてしまい、少々合わせ難いようです。40MHzをオーバーしても発振しますが、どこかで切りを付ける必要があるため40MHzまでとしています。これはソフトの設定ですから修正は簡単です。

ソフトは下記リンク先に置きます。このソフトはIF周波数をゼロとして、10Hz〜40MHzを出力するようにしています。スタート時の周波数とIF周波数、上限と下限周波数を設定しなおす事だけで受信機のソフトになります。スタンバイ関係は付けていませんが、基本的なソフトのつもりで作っています。

なお、PCの環境はWINDOWS XPで、BASCOM AVRの製品版VER.1.11.9.8を使ってコンパイルしています。書き込みはAVR ISPmkII ですが、基板のISP端子との接続には自作の変換ケーブルを使っています。これ以外の環境については確認はしていません。

ソフトダウンロード

6.使用感

実にうまく動きます。ソフトを変更するだけで、何にでも変身させられるのが楽しいところです。まずは簡単なSGになりますし、これを使ってトランシーバの実験もしているところです。何と言っても安価ですので気軽に使えます。

これを作り終わった頃に、秋月電子よりLED表示付きのメカ式ロータリーエンコーダが売られるようになりました。プッシュのたびにステップとツマミの表示色を変えながら、周波数も変えられそうです。この使い勝手はまだ試していませんが、面白い使い方ができるかもしれません。