エレクトロニクス工作室
No.102 hfeメータ
1.はじめに
最近のデジタルテスターには、普及品であってもhfeを測る機能が付いています。これを使っていれば、自作の「hfeメータ」などは不要だと思っていました。しかし、1Wのリニアアンプを試している時に限界を感じ、そして試作した写真1のようなhfeメータを紹介します。
写真1. このようなhfeメータです。
2.必要性は
私の手持ちトランジスタには、1Wのリニアアンプに使える2SC1970が数十個あります。写真2はこの一部です。これは「お買い物メモ」によりますと、1989年8月に秋月電子で一袋100個入りを2000円で買ったものです。20年以上経っても残っているため、私が作るQRPリニアアンプにはこのトランジスタが多いのです。私からすると「あるものは使う」というモッタイナイ精神もあります。現在でも入手できますので記事にしても問題はないのですが、当時のウン十個分の値段になるようです。
写真2. 手持ちの2SC1970です。
さて、このトランジスタでリニアアンプのバイアス回路を実験していた時に、hfeが知りたくなりました。そこでデジタルテスターで測ると写真3のように4です。データシートによると10〜180と幅があるのですが、いくら何でも4では少な過ぎでしょう。試しに何個計っても4ばかりです。そこでようやく、デジタルテスターでは電流が少ないのだと気が付きました。hfeはトランジスタによって測るべきICがあります。2SC1970のデータシートを見ると、IC=100mA(パルス)の時にhfeが10〜180となっています。100mAで測定する必要性は別として、アイドリング電流50mAを流す場合のベース電流は?という測定ができれば一番実用的で、そのままリニアアンプに応用できます。このような必要性を感じて作った、hfeメータです。
もちろん、2SC1815などの小型トランジスタを測る場合には、デジタルテスターで問題ありません。
写真3. デジタルテスターでは、このように「4」しかありません。
3.回路
hfeを測る回路は難しくありません。良くあるのはIBを一定として、ICをそのままhfeとして直読するものです。しかし、それでは目的が達せられませんし、デジタルテスターと変わりません。そこでICを100mAまで測る事を考えて、IBとICを読みながら可変する事にしました。つまり、常にIC/IBを計算する必要がありますので、hfeメータと称しながら直読はできません。「IB対ICメータ」か、「IB値判断用ツール」などとした方が的確かもしれません。
トランジスタによってはICはもっと大きい方が良い場合も当然あるでしょう。その場合は電流計を変え、ICに入る100Ωを小さくして下さい。hfeを想定してIBの最大電流を考え、IBに入る抵抗も小さくすればよいと思います。何しろ100mAというのは、前述の2SC1970を念頭にして作ったものです。対象が変われば値も当然変わるでしょう。
写真4のように回路をバラックで組んで試したところ、上手く測れたので作り直してケースに入れる事にしました。写真5はメータ裏の分流器です。フルスケールはICで100mA、IBで10mAとしましたが、少々使ってみるとIBは5mA程度の方が良さそうでした。後から変更しています。なお、100mAに入っているコンデンサは、発振防止用です。自分で作った分流器に一番の不安があったので、ここに付けました。とりあえずこれで安定しましたので良い事にしました。最初にカーブを描いてみて、不自然な曲線の場合は、発振している可能性があります。図1が私の作った回路で、ジャンクのメータに分流器を付けて調整しています。最初から目盛の正しいメータを使うのであれば、図2のようになります。基本的には全く同じです。
写真4. バラックで組んでテストしました。
写真5. 半固VRは分流器です。
図1. 分流器を使った回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
図2. メータを購入すればこのようになります。(※クリックすると画像が拡大します。)
電源は外部の12Vを用い、コネクタで接続します。普通に接続するとNPN用となり、逆接するとPNP用になるかと思っていましたが、メータが逆振れする事に後から気が付きました。当然の事でした。とりあえずNPN専用としましたが、リニアアンプに使うなら十分です。乾電池でも作る事はできますが、ICに100mAも流す事を考えると、外部電源の方が良いと思います。
4.作成
一番重要なのが電流計です。ラジケでも良いのですが、正しい目盛である事が大事です。もちろん新品の電流計なら何の問題もないのですが、私は写真6のようなジャンクのメータを使いました。dBμの目盛で、左右に少し長い不思議な大きさです。確か数年前のハムフェアで仕入れたものです。元は電圧を測るようになっていましたが、内部の抵抗(15kΩ)を取り外すと0.86mAの電流計になりました。これに100Ωの半固抵抗を分流器として付けて、100mAと5mAに合わせました。5mAくらいなら良いのですが、100mAでは抵抗が小さくなり過ぎて、ほとんど合わせるのは不可能でした。そこで、細いワイヤーを巻いてコイル状の分流器を自作しました。「カットANDトライ」というよりも「カンANDトライ」で合わせただけです。写真7の白い筒が、ワイヤーを巻いたトイレットペーパーの芯です。このように、発振器のような構造となったため、前述のように発振防止用コンデンサを付ける事になりました。
写真6. 使用したジャンクのメータです。
写真7. 内部に見える白い筒が分流器です。
ケースはタカチのプラスチックケースの、SW-125Bに穴あけをしました。ほとんどメータの大きさで決まってしまいますので、使うメータに合わせて工作して下さい。
なお、目盛は専用のソフトで写真8のように作成し、写真9のように貼り付けます。デジタルテスターの電流計と合うように分流器を調整します。もちろんメータを購入してしまえば、このような手間は不要です。
写真8. 「METER」というアメリカ直輸入のソフトで作った目盛です。
写真9. メータから外したアルミ板に貼り付けます。
5.測定方法
VRは左いっぱいに絞っておき、スタート時は最小電流から始めるようにします。IBとICを読みながらVRを右に回し、IBとICを増やします。ICが測定ポイントになった時のIBを読みます。hfeはIC/IBです。
写真10は2SC1970を測っているところです。その結果、2SC1970のhfeは4ではなく、標準的な40〜50であった事はすぐに解りました。
写真10. hfeは「4」でななく「50弱」となります。
試しに図3のように、デジタルテスター2台と外部抵抗を併用し、hfeの変化を幅広く連続で測定してみるとグラフ1のようになりました。もちろん。一般的にはここまで測る必要はありません。一番少ない値はベースのVRを目いっぱいに入れた状態です。これ以下には更に抵抗を追加しないと下げられません。このような結果が出ると、hfeが4でも50でも納得できます。デジタルテスターのhfeレンジでは、10μAのIBで測っている事が解りました。
図3. 応用ですが、このように配線すると幅広くhfeの変化が測定できます。(※クリックすると画像が拡大します。)
グラフ1. 2SC1970を幅広く連続で測定した定結果です。(※クリックすると画像が拡大します。)
6.終わりに
トランジスタのhfeは、熱でも加えない限りあまり変化しないと思っていました。ICによって、これほど大きく変化するとは知りませんでした。少し便利になった上に、多少は賢くなりました。