1.はじめに

私もオシロやスペアナを含めて、ずいぶんと測定器の類が増えて来ました。しかし、測定で一番困るのがマイクの特性です。ここだけは空気の振動と電気信号との橋渡しになりますので、人間の感覚がモノをいう部分にもなります。五感も六感も優れぬ私が云々できるはずもありません。しかし無線機を自作するのであれば、トランシーバのマイク入力レベルは正しく押さえておくべき、と近頃思うようになりました。特にALCもなく出来の悪い自作トランシーバでは、レベルオーバーによって広がる横幅が不安になります。

さて、No.75のスタンドマイクなどの自作をしていると、当然ながら試験する必要が出てきます。出力レベルを確認したり、オシロで波形をチェックするのですが、トランシーバを使ったのでは不便です。なぜなら、トランシーバはオシロと接続するようには作られておらず、プローブを接続しようとするだけでひと苦労です。横着者の私などは、ピン番号を読むだけで嫌気がします。しかし、マイク単体で試験をしようとすると、コンデンサマイクの電源がないので別の意味で面倒、という事態になります。

そこで、写真1のようなマイク専用の試験器を作ってみました。簡単な冶具というレベルですが、マイクの試験には欠かせなくなりました。

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写真1. このような簡単なマイク試験器です。

2.回路

図1のような回路としました。あまり機能を多くしても使い難いので、PTTやUP/DOWNのチェックは考えていません。マイク出力を中心にしています。もちろん、必要という考えであれば、LEDを点灯させるなどの回路を追加すれば良いでしょう。

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図1. 回路というほどのものではありませんが・・。(※クリックすると画像が拡大します。)

マイクはコンデンサマイクとは限りませんので、電源をOFFするスイッチを設けました。これもコンデンサマイク専用と割り切ってしまえばスイッチ不要ですし、電源に接続しなければ良いのです。

電源はコードを用いて外部電源に接続しますので、電圧を可変する試験も可能となります。

3.作成

さして難しい回路ではありませんので、写真2のように生基板の切れ端をカットし、穴あけをして組み立てをしています。マイクのコネクタは、どこかでトランシーバに使ったあとの、使い回しです。これで十分と思います。写真3が作成したところです。もっとスマートに作るのであれば、プラスチックのケースを使うのも良いと思います。その方が穴あけも楽でしょう。

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写真2. 切れ端の基板に穴あけをして作りました。

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写真3. このように配線しました。

出力にはターミナルを使いましたので、ここからレベル計やオシロに接続します。ここはBNCコネクタや端子、ラグ板でも良いと思います。ターミナルでは写真4のように、オシロのプローブに接続するのが面倒でした。反対側に付けた方が楽です。

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写真4. ターミナルにオシロのプローブは付け難かったです。

4.マイクレベル

まずは音の大きさを表す音圧ですが、Pa(パスカル)、dB SPL等が使われます。SPLはSound Pressure Levelです。20μPaを基準として0dB SPLと定義されていますので、1Paは94dB SPLと計算されます。これは相当な音圧です。通常に聞く話声は70dB SPL程度と言われています。これをパスカルにすると、63.2mPaとなります。

コンデンサマイクの入力感度は、大体-30〜-40dBV/PA程度で、ダイナミックマイクは10dB程度感度が低くなります。この値は、1Paの音圧を入力した場合の出力を表します。例えば、-35dBV/Paと表されているとすると、1Paの音圧で-35dBV、つまり17.8mVの電圧が出力される事を意味します。17.8mV/Paとも表示されます。先ほどの話声のレベル70dB SPLつまり、63.2mPaがこのマイクに入力されたとすると、

63.2(mPa)×17.8(mV/Pa)=1.125(mV)

このように1.125mVが出力されるという事になります。

測定結果1はデジタルオシロで写した波形で、100mV程度のレベルがあります。ここまで確認できれば、マイクとしては全く問題なしです。話し方とマイクとの距離によって出力値は大きく変化し、簡単に2桁程度の電圧差が出てしまいました。100mVというのは、少々大きめの声で、更にかなりマイクに近づいた状態です。1.125mVと比べて桁違いに高い値ですが、マイクの近くで話す場合は相当に音圧が高くなるようです。もちろんマイクの種類によっても差が出ます。普通に話して数mV程度ですから、トランシーバのマイク入力も数mV程度を目安とするのが良いようです。

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測定結果1. デジタルオシロでの測定結果です。

5.使用感

元々の用途がレアなので、このようなツールを作ろうとする人は更に「まれ」でしょう。しかし、使ってみると便利です。マイクの出力レベルをチェックしたり、オシロで波形を見たり、パソコンのFFTアナライザでスペクトラムまで簡単に見る事ができます。最終的にはトランシーバに接続して確認するとしても、そこまでに確実なチェックが済ませられます。トラブルが未然に防止され、効率の良い調整や製作ができる事と思います。

このような製作や実験を行い、マイクに声を入力した時のレベル幅を改めて認識しました。普通に話しているつもりでも、1〜数100mV程度の変化は簡単に出てしまいます。これをトランシーバに入力したときに、正しいレベルで動作させるのは簡単ではありません。マイクとしては、リミッタやコンプレッサなどの処理をするのが良いのでしょう。