エレクトロニクス工作室
No.104 アンテナ水晶フィルタ
1.はじめに
JA1AYO丹羽OMが「ハムのトランジスタ活用(絶版)」を書かれておりました。私にとってはバイブル的な本で、ずい分と参考にしたものです。この本の中に「周波数可変水晶フィルタ」がありました。7MHz受信機のトップにクリスタルフィルタを置いて混信から逃れようとするもので、VXOを使ってバンド内を動かすというものでした。
これにDDSを使って周波数を自由に可変できると面白いだろう・・と、昨年の初め頃ですが電車の中で思いつきました。そこで早速実験して作ってみたのが写真1の本機です。うまく動けば、出来の悪い自作受信機が蘇る・・かもしれません。
写真1. 1〜16.5MHzをカバーするアンテナ水晶フィルタです。
2.実験
思い出してみると、10年以上前のハムフェアで、この7MHzアンテナフィルタの基板を入手していました。写真2がこの基板です。まずはこれで試そうと思ったのですが、DBMが4ピンとなっていて手持ちの8ピンDBMとは位置が全く合いません。それならと、BNCコネクタで作ったツールを並べてみました。モービルハム誌にも記事を掲載した事がありますが、写真3のようなツールです。こんなのが私の机上にはジャラジャラとあります。これを写真4のように接続し、LOとしてSGを入力します。すると、面白いようにフィルタが移動するのが解ります。クリスタルフィルタには7.8MHzを使っていますので、実際には上と下の両方に受信領域ができます。親受信機に選択性はあるのですが、14.8MHzをLO周波数とすると7MHzの他に22.6MHzがイメージとして受信されています。これは入力側のフィルタで除くしかありません。7MHz専用ならこれで十分ですが、DDSを使って広い周波数で使おうとした場合に、周波数構成が中途半端な感じに思えます。DDSを使うならば、周波数の範囲はなるべく広く・・と思います。
写真2. ハムフェアで入手した基板です。
写真3. BNCコネクタで作ったツールです。
写真4. ツールを使って実験しました。
そこで、71.5575MHzのクリスタルを基本波で使った、23.82MHzのラダー型フィルタを使ってみました。この周波数特性は図1のようになりました。図2のような構成として上側はLPFでカットする、1〜16.5MHzまでの連続可変アンテナフィルタです。例えば、7MHzを受信する時には30MHzとミックスして23.82MHzに変換してクリスタルフィルタに入ります。そして再び同じ30MHzとミックスして7MHzに戻します。最初の変換の時に、30-23=7MHz以外に、30+23=53MHzの信号もクリスタルフィルタに入ってきます。これは取り除けずに7MHzに戻されてしまいます。そのため入力には16MHzのLPFを置き、イメージが入らないようにします。出力にも同様に53MHzのイメージが出来ますので、16MHzのLPFでカットします。もっとも受信機に選択度がありますので、この場合は問題になりません。
図1. ラダー型フィルタの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
図2. 周波数構成はこのようにしました。(※クリックすると画像が拡大します。)
DDSは正確で安定した周波数を幅広く作る事ができますので、このような用途にピッタリです。しかも最近はJA9TTT加藤さんのブログにもありますが、中国製のAD9850DDSユニットが大変安く入手できるようになりました。No.100で使用したユニットです。
早速写真5のようにざっと組んでみると、同様にフィルタの周波数が動いているように感じられました。
写真5. 基板を作ってバラックで動作を確認しました。
3.回路
回路図は図3のようになります。高周波的には丹羽さんの回路とあまり変わりありませんが、周波数の範囲が広いので、アンプはクリスタルフィルタの直後に入れました。また、本機の有無の差が解るように、リレー2個でフィルタINとスルーを切り替えています。もちろんスタンバイとの連動も可能ですが、とりあえずトグルスイッチでの切り替えとしました。
図3. 全体の回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
DBMは2個共にTDKのCB346M1Aを使用しました。2.2GHzまで使えるものですが、この場合は周波数が高くても意味がありません。手持ちがあったから使っただけですので、本当は周波数帯域が低くても、もっと高IPのDBMの方が良いと思います。
クリスタルフィルタは、71.5575MHz表示のクリスタルを使って基本波で、23.82MHzのラダー型のフィルタを組んでいます。この場合は、DDSの周波数とも関係しますが、なるべく高い周波数の方が使いやすくなります。帯域幅は少し広めの3.8kHzで計算しています。これは使い方からして広めの方が使いやすいと考えたからです。入出力インピーダンスは70Ω程度になりますので、マッチングは省略しました。本来はそれなりにインピーダンス変換すべきでしょう。
クリスタルフィルタの直後には2SK241のアンプを入れています。本来は無いほうが良いのでしょうけども、DBMとクリスタルフィルタのロス程度は補わないと、トータルでの感度が下がってしまいます。丹羽OMの回路では2回目の周波数変換後に3SK59のアンプが入っていました。一応広帯域の1〜16.5MHzとしていますので、クリスタルフィルタの直後の方が良いと思います。このアンプには、今では入手できないFCZコイルを使っていますので、追試の場合には手巻きのモドキコイルが必要になります。
DDS/CPUの回路は図4になります。DDSユニットは、前述のような中国製のユニットです。高周波を扱うパターンになっていないためか、高い周波数のスプリアスが筒抜けになっています。そのために外部に40.5MHzのLPFを追加しました。また、25MHz以下は使わないため、ノイズ防止からHPFも入れています。DDSユニットの出力レベルは-4dBm程度のため、このままではDBMのLOにはレベル不足です。そこで2SC1906のNFBアンプを入れて+14dBmにしています。高調波が出来ますので再度LPFを入れています。DBMは2個使いますので、50Ω→100Ωにインピーダンス変換後に2分配ハイブリッドで分配すると同時に50Ωに戻します。最終的に+10dBmの出力が2系統となります。
図4. DDS/CPUの回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
4.作成
DDSは中国製の格安ユニットです。5個セットを.29で中国から直輸入しましたので、当時の為替レートで一台あたり592円となります。DDSのICにはAD9850を使っていますので、普通ならICも購入できません。ただ、フィルタに問題があるようで、周波数特性が高い方でダラダラと下がってしまいますので、手持ちのチップLと交換しました。これは高調波を抑えるというよりも、ダラダラ下がるのを防止したかったためです。パターンも良くなく高調波を抑える事ができていませんので、直接同軸で出力を引き出す方が良いかもしれません。また、出力が基板内部で200Ωに終端されていますので、この200Ωを外します。まずはこのような修正をしています。
基板は4枚に分けています。全て部品面にアースのメッシュの入った、高周波用のジャノメ基板を使っています。どこにでもアース面がありますので、作成が容易です。高周波のコネクタは大宏電機のTMPを使って配線しています。それ程高くない周波数なので、このコネクタで十分です。
リレー/LPF基板は図5の実装図を書いてから作成しました。写真6のようにカラーでBNCコネクタと基板の間隔をとり、直接裏側のパネルに固定してしまおうという作り方です。写真7のような基板になります。ところが最近ですが、スルー状態の時にリレー付近を押さえると感度が下がるという症状を見つけました。案の定ハンダの不良がありました。
図5. リレー/LPF基板の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真6. カラーでBNCコネクタに固定します。
写真7. リレー/LPF基板の様子です。
CPU/DDS基板は図6の実装図を書いて作成しました。ジャンパー線が図7になります。写真8のようになりました。5Vのレギュレータが熱を持つため、写真9のアルミLアングル、真鍮の棒、銅板でヒートシンクを作ってみましたが、固定しやすそうなアルミLアングルを使う事としました。写真10はケースに固定したところです。
図6. DDS/CPU基板の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
図7. ジャンパー図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真8. CPU/DDS基板の様子です。
写真9. ヒートシンクを試作してみました。
写真10. ケース内に固定した様子です。
LOアンプ基板は図8の実装図を書いて作成しました。写真11はケースに入れたところです。
図8. LOアンプ基板の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真11. 作成してケースに入れた様子です。実装図とは180度ずれてしまいました。
DBM/XF基板は図9の実装図を書いて作成しました。写真12はケースに入れたところです。
図9. DBM/XF基板の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真12. ケースに実装した様子です。これも実装図と180度ずれています。
ケースにはタカチのYM-180を使っています。穴あけしたところが写真13です。ネジ穴がケースの下に出ないように、生基板上にカラーをハンダ付けして各基板を固定する事にしました。すると、LCD固定用の金具が問題になります。写真14のように2.6mmの皿ネジを裏側でハンダ付けし、これに写真15のように両面テープを使って貼り付けます。そして写真16のようにケース内に固定しました。
写真13. ケースに穴あけしたところです。
写真14. 裏からLCD固定用ネジをハンダ付けしました。
写真15. 両面テープを貼ってケースに固定します。
写真16. 固定した様子です。
LCDの穴はハンドニブラで開けています。ケースが狭いので、外側から開けるしかありません。すると、どうしても外側に向かって「バリ」が出て残ってしまいます。そこで写真17のように生基板で作ったフチに、黒のスプレーをかけて貼る事にしました。
写真17. 生基板でフチを作って塗装しました。
写真18が内部の様子です。これはISPコネクタからソフトのバージョンアップを行っているところです。
5Vのレギュレータには前述のようにヒートシンクは付けましたが230mAの消費電流があり、多少発熱します。そこで、12Vとの間に16Ωの抵抗を入れ、ここである程度の熱を処理しました。ケース内の中央にある黒い巻き線抵抗がそれです。今から購入するならセメント抵抗だと思います。この巻き線抵抗は大きめのラグ板にハンダ付けし、他の電源はこのラグ板を中心に配線しました。何しろ古い抵抗なので酸化していてハンダが乗らないような年代もので、W数も不明ですが2W以上はあると思います。この16Ωは無くても問題なく動きますが、配線用のラグ板のついでに付けたものです。
写真18. 内部の様子です。
5.ソフト
ソフトは下記リンク先に置きますので参考にして下さい。 なお、PCの環境はWINDOWS XPで、BASCOM AVRの製品版 VER.1.11.9.8を使ってコンパイルしています。書き込みはAVR ISPmkII ですが、基板のISP端子との接続には自作の変換ケーブルを使っています。これ以外の環境についての確認はしていません。
図1のように24.82〜40.32MHzを発振させるだけのソフトです。もちろん、LCDの表示は1〜16.5MHzとなります。
6.調整
2SK241のアンプのゲインがクリスタルフィルタと合うように、つまり最大感度となるように、コイル2個のコアを調整します。フィルタをTHRUとONを繰り返し、効果をチェックします。
DDSの発振周波数には誤差があります。誤差を吸収するように、ソフトでDDSの基準周波数を調整します。使いやすさを考えて100Hzステップとしましたので、10Hz程度の誤差は気にしても仕方ありません。しかし、私の場合では、7MHzで2kHzの誤差がありましたので、調整しないと不都合がありました。
7.使用方法
トランシーバとのスタンバイ連動はできませんので、間違っても送信にならないようにセットしておきます。受信機であれば気にする必要はありません。INPUT(ANT)をアンテナに、OUTPUT(RX)をトランシーバ(受信機)側に接続します。電源は12Vで0.5A程度を接続します。
POWERをONしますと、デフォルトで7.0MHzからスタートします。FIL ON/THRUスイッチをTHRU(スルー)側として、トランシーバで受信したい周波数を受信します。FIL ON(フィルタON)として、100kHz STEPで大まかな周波数を合わせます。100Hz STEPで周波数を合わせます。LCDの表示を確認しながら、また聞きながら合わせます。そして混信が消える、聞きやすい周波数に微調整します。簡単な操作です。
LCDの表示する周波数はキャリアではなく、フィルタの中心になりますので、トランシーバの表示とは多少の相違があります。SSBの場合ですが、受信機本体の表示とは2kHz程度の相違となります。本機はLSBでは低く表示し、USBでは高く表示します。これは仕方ありません。考えようによっては、受信機本体の表示がズレているのです。
8.使用感
写真19が表示の様子です。最近のリグに対して実用的かと聞かれると??ですが、旧式のリグや自作受信機には十分な利用価値があります。例えばダイレクトコンバージョン受信機に使えば抜群の効果で、普通のスーパーと同じようにクリスタルフィルタの選択度となります。もちろん当然の結果ですが、つまりウィークポイントであった逆サイドバンドの混信をカットする事ができます。いっその事同じケースに入れると・・というのは邪道かとも思いますが、これも面白いでしょう。もっとも既にダイレクト・・では無くなるような気もします。
写真19. このように表示します。
スーパー受信機の前に入れると、全述のようにIFシフトができます。自作受信機でこれができると面白いです。ダイヤル2個で追いかけるのは不便ですが、これもまた楽しいです。もちろん、DDS制御の自作受信機であれば、工夫次第でデジタル的にトラッキングする事も可能です。
この回路で良い、とは思いません。DBMに2SK125を4個使って高IP化する、クリスタルフィルタの帯域幅を可変にする、等のアイデアは沢山ありますので実験したいと思います。
また、DDSを使ったため周波数を自在に動かせるのですが、スプリアスを受信する周波数がどうしても出てしまいます。DDSを使っている以上は、ある程度は仕方ありません。また、周波数変換を2回行いますので、変換ノイズが増えるのも欠点の一つです。