1.はじめに

以下はJA9TTT加藤さんのブログからの受け売りです。最近のSPXO(水晶発振器)はPLLを使ってプログラムで設定するものがあり、そのスペクトラムはノイズの多いものもあります。これは外見では判断ができず、スペアナで測らないと解りません。CPUのクロック用であればノイズが多くても良いのですが、DDSのクロックに使う場合は問題があります。

そこで簡単にスペアナと接続し、試験できる写真1のような冶具を作りました。もちろん、周波数カウンタやオシロスコープに接続する事もできます。スペアナは一般的には50Ω入力ですが、多少の不整合やレベルを気にしなければオシロのプローブを使っても接続する事はできます。しかし、細い足にプローブを付けたり、+5Vを接続するのは大変に面倒です。この冶具によって即座に測定できるようにしました。

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写真1. このような水晶発振器(SPXO)のテストをする冶具です。

2.水晶発振器について

ここで測ろうとする水晶発振器は、主に写真2のようなSPXO(Simple Packaged X'tal Oscillator)です。この写真の中にもノイズの多いものがあります。最近では表面実装タイプが出回って来ました。アマチュア的には「ネコまたぎ」なのですが、写真3のように少し強引にICソケットにハンダ付けすれば、全く同じように使えます。形状は別として5V仕様と3.3V仕様がありますので注意が必要です。

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写真2. 長方形や正方形のSPXOです。この他にプラスチックのものもあります。

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写真3. 表面実装のSPXOですが、このようにして使用できます。

温度による補償を行い周波数変動を抑えたのが、写真4のTCXO(Temperature Compensated X'tal Oscillator)です。ピン配置や電圧が同じであれば、この冶具でも測る事ができます。写真4のTCXOは測る事ができますが、不可の製品も多くあります。

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写真4. ずい分前に入手したTCXOです。これは測る事ができます。

このほかに恒温層に入った写真5のようなOCXO(Oven Controlled X'tal Oscillator)があります。これは接続が異なりますし、電圧もマチマチですので個別に測定条件を作るしかありません。

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写真5. OCXOですが、これは全くの対象外となります。

3.回路

図1のような回路になります。1ピンのスイッチは、長方形のSPXOに付いている出力のON/OFFに対応したものです。4ピンのスイッチは正方形のSPXOに合わせたものになります。ON/OFFができるかのチェックをするだけですので、あまり意味はありません。旧型には機能のないものも多くあります。常時NCにしておけば十分ですし、余分なスイッチがあると間違いの元になりますので無くても良いと思います。

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図1. 回路図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

このようなSPXOの多くはTTLレベルになっていますので、出力できる電流が0.4mAと少なく、50Ωと直結するような荒業はできません。直結するとピークで100mAも流せずに、歪んだ波形となります。そのため電流を制限する15kΩの抵抗を付け、インピーダンスのマッチングとレベル管理も兼ねて、出力側は51Ωで終端しました。つまりインピーダンス変換であり、アッテネータとなります。抵抗を使う事で周波数特性はフラットになりますので、そのままの波形が出力されます。これでSPXOに負担をかけずに、50Ωのスペアナに接続する事ができます。但し、アッテネータですのでレベルが下がり、スペアナで見る場合には相対的にノイズフロアが上がる事になります。これは仕方ありません。

このような発振器も最近は3.3V仕様が増えて来ました。ここでは5V用に固定していますが、5Vと3.3Vを切り替えるとか、消費電流を測れるようにするとか、使いやすくするアイデアはいろいろあると思います。

4.作成

部品を集めたところが写真6です。簡単な回路ですので、そのままFCZ基板上に組み立てました。それほどの時間もかからないでしょう。動作チェックをしているところが写真7です。SPXOは14ピンのICソケットに差し込むようにします。図1のように、正方形でも長方形でも対応可能に配線しておきましょう。

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写真6. 部品を集めたところです。

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写真7. ここで動作チェックをしておきます。

出力にはBNCコネクタを直結し、簡単に測定用のケーブルがつなげられるようにしました。BNCコネクタのグランド側は、基板のグランドにハンダ付けしておくとガッチリします。基板は写真8のように、006Pの電池ボックスの裏に貼り付けました。70mAも流すSPXOもあり、006Pでは負担が大きい場合もありますが、ほとんどの場合は数mAですので十分でしょう。一般に周波数が高いほど消費電流も大きくなります。

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写真8. 006Pホルダーの裏に基板を貼り付けました。

5.使用感

写真9のように簡単に測定ができます。正方形でも長方形でも対応できますので、アマチュアが使うSPXOとしてはほとんどカバーできると思います。注意しなくてはならないのは、電源を入れたままでSPXOの抜き差しをしてはいけません。各ピンの離れるタイミングのようですが、いとも簡単に壊れるケースがあります。必ず電源をOFFして抜き差しをして下さい。実は、本機を作る前の実験中に何個も壊してしまい、気が付いた事です。不注意でした。

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写真9. SPXOを入れて、BNCコネクタを接続し、電源ONで測定開始です。

実際に測定した結果が測定結果1〜8です。40MHzまでの低い周波数はAPB-3を使い、それ以上はアドバンテストのスペアナを使っています。金属のシールドケースに入っていても、あまりスペクトラムの良くないものがある事が解ります。測定結果5は写真3のSPXOです。あまりに汚い波形なので周波数を広げてみたのが測定結果6です。測定結果7と8は、125MHzのノイズの少ないものと多いものです。

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測定結果1. 写真2の上側左のSPXOです。3.573545MHzの出力を10kスパンで見ています。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果2. 同じく中央の8MHzのSPXOです。出力を10kスパンで見ています。不思議なスプリアスがあります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果3. 同じく右の10MHzのSPXOです。出力を10kスパンで見ています。これはPLLらしいです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果4. 写真4のTCXOです。12.8MHzの出力を10kスパンで見ています。以前内部を分解しましたが、明らかにPLLではありません。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果5. 写真3のSPXOです。20MHzの出力を10kスパンで見ています。明らかにPLLでノイズが大で、とても同じスパンとは思えません。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果6. 測定結果5のスパンを10k→1MHzとしたところです。これは結構なノイズです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果7. 写真2の下側の左です。125MHzを5MHzスパンで見ています。PLL臭いですが、まずまずです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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測定結果8. 写真2の下側の右です。125MHzを5MHzスパンで見ています。ノイズが大でDDSの基準には問題がありそうです。(※クリックすると画像が拡大します。)

このように、実際には明らかにPLLを使っていてノイズが多く、CPUのクロック向きと思えるもの、また不思議なスプリアスがあってPLLくさいもの、たぶん純粋の水晶発振であろうもの、等々に分ける事になります。もちろんDDSに使い、トランシーバに使った時のトータルとしての影響を考える必要があります。全てが最高のスペックを目指しているのではなく、神経質にならないという考えもあります。

6.標準レベル

このような冶具を使って、高周波信号の標準レベルにするという考えがあります。もちろん、アマチュア的な「標準」です。スペアナやSGがあれば、それを基準にしてレベルを知る事ができます。そのようなメーカ製測定器の無い場合、自作した高周波レベル計の校正はどのようにするか?、という課題があります。

そこで、常にHとLを出力するSPXOに目を付け、これにアッテネータを組み合わせて標準レベルとする方法です。つまり目的は違いますが、本機の応用になります。SPXOによって大きな違いが無い事が重要ですが、測定結果をみると-30dBmとほぼ一定ですので何とかなりそうです。但し、これだけでは高調波が沢山含まれています。この後にLPFを付ける事で、基準レベルとできるのではないでしょうか。

7.まとめ

これで安定してSPXOのチェックができるようになりました。気楽に素早くスペアナなどに接続ができますので、とても便利です。いつでも全く同じ状態が作れますので、過去のデータと比較をする場合でも問題ありません。