1.はじめに

No.100で紹介したDDSのテストボードは、大変便利に使っています。これを作ったときには、SGや受信機、トランシーバくらいしか考えていませんでした。しかし低価格のDDSですから、もっともっと気楽に使えます。2台使えばダブルスーパーの制御もでき、IFシフトなども可能となります。2トーンジェネレータならばAF用でもRF用でも周波数が自在に作れます。同じ周波数を発振させて位相を90度ずらせば、SDR(ソフトウェアラジオ)や測定器への応用が見込まれます。もちろん、この場合はDDSのクロックを一つにする必要があります。

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写真1 このようにDDS2台を1つのCPUから操作するものです。

このように、DDSは2台を同時に使えると、便利さが数倍になると気が付いたのです。とりあえずは2台を別々に動かす実験もしていましたが、2台の制御が同時に標準としてできれば、ソフト開発もやりやすくなります。そこで再び作った、写真1のような「ツイン」タイプのテストボードを紹介します。

2.回路

基本的にはNo.100と同じですが、DDSを2台として図1のようにしました。周波数はメカ式と光学式のロータリーエンコーダを使っています。今回はこの他に様々なコントロールをする可能性がありますので、スイッチはなるべく付けられるだけ付けています。そのような意味で、内蔵の発振器を使い、使えるポート数を増やしています。後から気が付きましたが、CPUも28ピンではなく、40ピンにしておけば良かったと思います。

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図1 基板の回路図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

今まではDDSのRESET端子は常にアースにしていました。これは発振させられれば良かったからです。しかし、位相の制御をする場合は、2台別々に周波数と位相のデータを送った後で、同時にRESETをして位相を合わせる必要があります。RESETするとデータも何も消えてしまいそうなイメージがありますが、動作を合わせるためのリセットです。FQ_UDも2台共通に送って使うピンを減らしています。もちろん、この制御にはソフトも関わってきます。位相の制御をしない場合には、全く役に立たないどころか、ハードもソフトも煩雑になるだけです。

3.作成

基本的にはNo.100と全く同じ作り方をしています。写真2のようにアルミ板に穴あけを行い、その後で切断をしました。写真3のようなシャーシになります。こんなスタイルでトランシーバを作った事がありますが、TK80風スタイル(あまりに古い!)と勝手に称しています。

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写真2 レイアウトを考えながら、アルミ板に穴あけをした様子です。

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写真3 切断してヤスリで仕上げたところです。

図2〜4のような実装図を作ってから基板を作成し、動作を確認しました。但し、これだけではDDSのクロックが別々ですので位相の制御は不能です。そこで写真4のように、100MHzのクロックに交換し、極細の同軸でもう一方のDDS基板に接続しています。クロックを共通にしたわけです。厳密には同軸の距離も位相誤差の原因になりますので、本来は別基板として同じ距離の同軸で配線するのが良いと思います。

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図2 基板の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図3 基板のハンダ面を表します。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図4 基板のジャンパーです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真4 DDSのクロックは100MHz一個とし、緑に見える極細の同軸ケーブルで接続しています。

4.テスト

テスト用のソフトがないとチェックもできません。2台で同じ周波数を発振させ、位相をスイッチで切り替えるソフトを作ってみました。しかし、ソフトを作って試してみると、どうしても上手く動きません。位相が90度とれないのです。1MHz以下では良好そうです。実は30年前に購入した40MHzのアナログオシロをX-Yにして測定していたのですが、もしやと思って会社のデジタルオシロでみるとバッチリ90度とれています。

オシロの取説にはX-Yとしての上限は明記してありませんでしたが、Y軸の規格として1MHz以下と書いてありました。昔のアナログオシロはそれほど早くY軸を帰引する必要はなく、X-Yモードは実質的にはオーディオ帯用と考えられていたのでしょう。私もデジタルオシロが欲しくなってしまい、その後写真5のような岩通のデジタルオシロ DS-5106Bを仕入れました。これで、自宅でも位相差がチェックできるようになりました。写真6が測定している様子で、測定結果1〜10が0度と90度のリサージュ波形です。クロックを下げていますので、30MHzまでがDDSの限界でしょう。波形の保存は楽ですし、操作も慣れれば簡単です。AMの変調波形は見られませんが、他の機能も申し分ありません。廉価なオシロもありますが、私は国産派です。DDSは中国製の基板ですが・・。もっとも、位相を正確に測るのはオシロでは限界があります。

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写真5 岩通のデジタルオシロ DS-5106Bを仕入れてしまいました。

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写真6 これを使ってリサージュ波形を描いているところです。

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測定結果1 1MHzの0度のリサージュ波形です。

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測定結果2 1MHzの90度のリサージュ波形です。

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測定結果3 5MHzの0度のリサージュ波形です。

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測定結果4 5MHzの90度のリサージュ波形です。

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測定結果5 10MHzの0度のリサージュ波形です。

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測定結果6 10MHzの90度のリサージュ波形です。

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測定結果7 20MHzの0度のリサージュ波形です。

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測定結果8 20MHzの90度のリサージュ波形です。

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測定結果9 30MHzの0度のリサージュ波形です。

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測定結果10 30MHzの90度のリサージュ波形です。DDSのスプリアスのため、完全な円にはなりませんが、90度には違いありません。

ともかく、一応0度と90度を切り替えるソフトができました。動作も確認できました。あまり上手とは言えませんが、ソフトを以下に置きます。もちろん、このようなソフト以外にも、DDSを2台使いたい事は多々とあります。目的に合わせたソフトを開発するためのテストボードです。目的は時々によって変わってくるものです。このような記事のポリシーとして、基本的にソフトは自分で作るもの、と考えています。ソフトを公開しているのは、単に参考という意味合いです。その理由は、同じ様に作ってもクロックの微調整はありますし、使う目的も異なります。参考ソフトを元に発展させ、受信機にもトランシーバにもすれば良いのです。

ソフトダウンロード

なお、PCの環境はWindows® XPで、BASCOM AVRの製品版 VER.1.11.9.8を使ってコンパイルしています。書き込みはAVR ISPmkII ですが、基板のISP端子との接続には自作の変換ケーブルを使っています。これ以外の環境についての確認はしていません。

AVRが苦手な方は、PICでもZ80でも、H8でも作れます。もちろん、回路を変更する必要はあります。そのような意味で、単にアイデアを提供しているのに過ぎません。私はPICが苦手ですので、AVRを使っているだけです。ソフトが苦手という方は、まずは苦手のソフトから攻略しましょう。苦手を攻略できれば落城は目前です。

また、このようなソフトを作る環境というのは、僅かな時間では作れません。ここまで来るのに何年もかかっています。これから「やってみよう」という方は、No.2で紹介したようなテストボードを作り、まずLEDの点灯から始めるのが早道と思います。次にNo.100やこのようなテストボードでDDSを動かしてみましょう。先へと道は無限に広がります。

5.使用感

写真7のようにNo.100のテストボードと合わせて、様々な実験ができるようになりました。このようにテストを行い、DDSの周波数を操れると実に楽しいです。

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写真7 このようにテストボードが・・

このソフトを使って、まずはネットワークアナライザの実験をしています。うまく行けば、詳細は別途という事になると思います。結構面白い実験ができています。どう見てもまだまだ発展途上ですし修正もありますが、テストボードとしては一応は完成です。

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