エレクトロニクス工作室
No.109 スタンドマイクII
1.はじめに
No.96で紹介したデジアナVU計と、No.21で実験したマイクコンプレッサを組み合わせて、写真1のようなスタンドマイクを作ってみましたので紹介します。
写真1 マイクコンプレッサを内蔵した、このようなスタンドマイクです。
スタンドマイクはNo.75でも作っていますが、コンプレッサがありませんでしたので、再度作ってみたいと思っていました。
2.レベルについて
No.103のマイク試験器の続きでもありますが、実は写真2のようなサウンドレベルメータを入手しました。これで声を測ると、「なるほど」と思う事がありました。人の話し声は60dBと言われていますが、どのように測った数値なのかイメージができませんでした。我々は話すときに、相手に60dBで届くように、無意識のうちに話声を調整するようです。それより大きいと「うるさいよ、もっと小さい声で・・」となり、小さいと「えっ?・・」となるのです。以上は私の感じた事ですので、本当かは???です。
写真2 サウンドレベルメータです。これで音圧が測れます。
さて、マイクに向かって話す時は、どのように話すのでしょうか。たぶん、話す人のイメージによるのではないでしょうか。ノイズやQRMに埋もれそうな信号に対しては、割と大きめの声になるはずです。興奮すると+αもあるでしょう。それに対して、クリアな音声を絞って聞いている場合には、自然と小さな声になると思います。
マイクの受ける音圧ですが、普通に話していてもマイクとの距離は近いため、70〜90dBにはなります。コンデンサマイクの感度を-35dB/Paとし、80dBの音圧を入力すると、3.56mVが出力される計算です。しかし、DXで遠くと話すとイメージし、更に周囲の騒音やトランシーバからのノイズが加わると更にUPするのだと思います。大きな差を生ずるとしても本人はそれ程変わらないつもりでいるのです。これを正しく変調するのは至難の技と思いました。そこで、トランシーバの前に入れて調整してしまうコンプレッサ付きスタンドマイクを考えました。
3.回路
No.96のVU計も含めて図面に入れたのが図1です。マイク入力にはTA2011Sを使ってコンプレッサをかけています。このICはNo.21で紹介しましたが、写真3のように再びブレッドボードでテストを行いました。このICは3ピンの入力電圧が変動しても、出力の5ピンは600mV一定になるように動作します。つまり小さな声はゲインを上げて、大きな声はゲインを下げるようにして600mVに近づけます。このコンプレッサのかかった出力信号をデジタルとアナログのVU計で表示しますので、基本的に「振れすぎる」ような表示はしません。しかし、アナログ表示は短い信号に追随できずに、低く表示する場合もあります。電源はトランシーバからの8Vを使用するようにしています。マイクユニットにはコンデンサマイクを使う事を想定し、電源にフィルタを入れています。
図1 回路図になります。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真3 ブレッドボードでコンプレッサのテストです。
一般的にはあまり必要ないと思いますが、出力レベルを調整するVRをパネル面に出しています。これは私個人の仕様なので恐縮ですが、自作トランシーバがたくさんあってマイクの入力レベルは全く合っていません。今まで確固とした基準がなく、バラバラというのが実情です。そこで、このVRで全ての帳尻を合わせてしまおう、という思惑があります。普通であれば、半固VRを基板内に入れておけば十分と思います。
マイクの出力は基本的には数mV程度ですので、VRの中央つまり50の位置で5mVになるような回路にしています。このようにすれば、100で10mV、30で3mVとなります。恐らく、大体のトランシーバはこれでカバーできると思いますし、トランシーバの規格が解れば簡単に合わせられます。自作のトランシーバなどではマイク入力レベルも曖昧ですが、基本的には同じです。
4.作成
VUユニットはNo.96で完成している2個の片方を使用しました。これが写真4です。No.96を参考にして下さい。
写真4 No.96で紹介したデジアナVUユニットです。
マイクユニットは、ハムフェアで入手した写真5のようなヘッドホンに付いていたマイクを外したものです。これは今年のハムフェアでも入手できましたが、もう無くなるそうです。写真6のように外して、イヤホンジャックを付けてみました。この工作は簡単です。No.75で作ったマイクが写真7ですので、これでも良いと思います。
写真5 ハムフェアで入手したマイク付きのヘッドホンです。
写真6 このように外してイヤホンジャックを付けてマイクユニットの完成となります。
写真7 No.75で作ったマイクユニットです。これでも良いと思います。
マイクコンプレッサの部分は図2のような実装図を作ってから作成しました。写真8,9のように、出力調整用VRの端子に直付けするという実装をしています。スペースと配線を省略しようとしたのですが、逆に実装時の制限にもなっています。リップルフィルタの部分は後から付けたので基板外で、本来は統一したいところです。大きさの制限がありますので、もう一工夫が必要でしょう。
図2 コンプレッサ部分の実装図です。
写真8 マイクコンプレッサを作ったところです。
写真9 裏側です。
ケースはタカチのTS-1Sを使用し、写真10のようにパネル面の設計をして穴あけを行いました。写真11が加工済みのケースです。斜めのケースなので実装したときに接触したり、逆に思わぬスペースができたりします。写真12が配線の終了した内部の様子です。YMシリーズ等の平らなケースで十分かと思います。
写真10 パネル面に穴あけの準備をします。
写真11 加工済みの様子です。
写真12 配線後の内部の様子です。
MICユニットとの接続には写真13のようにイヤホンジャックを使っています。これは他のマイクユニットの使い回しができるからです。蛇足ですが、イヤホンジャックの締め付けには、写真14のような専用工具を使います。これで滑ってパネルに傷を付ける事など皆無になります。
写真13 マイクユニットの取り付けにはイヤホンジャックを用います。
写真14 専用の工具で締め付けます。
なお、トランシーバとの間には、写真15のようなMICコネクタ〜MICコネクタのコードを作って接続しました。単なるマイクの自作とすると無用ですし、複雑になるだけです。しかし、トランシーバと2トーンジェネレータを接続する事も考えて、このようにしました。これ一本だけあれば、他にはこの種類のコードが不要になります。
写真15 このような専用のコードも作りました。
5.調整
パネル面に付けた出力側のVRは、コンプレッサの効いたレベルで100%変調になるようにします。トランシーバにもよりますが、大体中央程度になると思います。合わせられない場合は、47kΩ+10kΩを増減して下さい。
入力側の半固VRですが、これは自分の声の大きさとマイクの種類、またマイクとの距離によって異なります。最終的にはフィーリングで決めるしかありません。逆に言えば、入力は大雑把でも出力レベルさえ合わしていれば問題ありません。もちろん、無音時にノイズレベルを感じるようでは、明らかに上げ過ぎです。普通に話してレベルが上がらないようでは下げ過ぎです。ここではNo.103で作ったマイク試験器が大いに役立ちました。
またVU計ですが、100%時にレッドゾーンにギリギリ入るようにしました。好みもありますが、あまり振れないのでは面白くありません。静かにしておいて、急に手を叩くとデジタルのみがレッドゾーンに入ります。アナログでは追従できないからです。正しくVU計として表示するのではないため、振れ具合は自分の感覚で良いと思います。写真16は音声を入れているところです。このようにデジタルとアナログで、基本的には同じ表示になります。
写真16 音声を入れるとこのように表示します。
6.使用感
このマイクコンプレッサは、レベルの上下をカットするようなリミッタタイプではなく、ゲインをコントロールして出力を一定に保とうとします。つまり、パワー計を振らせる事が目的ではありません。過変調にせず、最適な変調度とダイナミックレンジを保つためのレベル管理をしようと考えています。クシャミなどの大きな音は瞬間的にレベルオーバーとなり、その後は暫くゲインが下がります。大きな音を入れると、後を引くという感じになります。このような特性を持っていると理解して下さい。逆に言えば、昼間に大声を出した時も、夜間のヒソヒソ声の時でも、同じレベルで出力するということになります。
レベルメータとしては電源があれば動きますので、送信にしなくても常時表示します。どのようなフィーリングでコンプレッサするのか、受信時でも試す事ができます。マイクをエンピツ等で叩くと、アタックタイムがありますので一瞬レベルオーバーとなることも解ります。アナログとデジタルの違いも解ります。