エレクトロニクス工作室
No.110 2トーンジェネレータ
1.はじめに
2トーンジェネレータは、SSBトランシーバの調整や実験には便利なものです。その名のとおり2種類のAF信号を発振させ、トランシーバのマイク端子に入力します。そしてトランシーバの出力をオシロやスペアナで観測し、良し悪しの確認をします。
今まで何台か作った事があるのですが、それはICやトランジスタを使ったもので、周波数はほぼ固定というものでした。今回はDDSを2台使って、周波数を自由に設定できるように作ってみました。クリスタルフィルタの中を自在に動き回り、レベルも個別に可変できますので、トランシーバの状態が良く解ります。もちろん、No.100で使用した、600円のDDSユニットが有るからこそ作るのであって、6000円では絶対に作りませんでした。
元々の実験はNo.107で行ったもので、基本的な回路もDDSの部分は同じです。写真1のような応用機器を作ったという事になります。
写真1 このように薄型ケースの上に基板を載せ、ケース内はアッテネータという2トーンジェネレータです。
2.DDSユニット
JA9TTT加藤さんのブログで紹介され、No.100とNo.107で使った600円のDDSユニットです。写真2のようなユニットで、最近では400円程度で入手できるようです。右側の2個は水晶発振器の交換準備中の様子です。高周波で使う場合、LPFの性能に問題があると言われています。このようにAFだけで使うのであれば、LPFはそのままとして変更せず、最初から外部にAF用LPFを用意するのが賢い方法と思います。
写真2 600円で購入したAD9850のDDSユニットです。右2個は水晶発振器を外したところです。
R5の200Ωは外しておくべきですが、そのままでもレベルが下がるだけで、大きな問題にはなりません。私は外しておいて、後でレベル調整としてこの位置に1.8kΩを付けています。
水晶発振器は125MHzがついていますが、これほど高い必要は全くありません。それよりも、消費電流の多さを嫌って3.57MHzに交換しました。もちろんソフトはそれに合うように作り直しています。4MHzや8MHzでも十分です。写真3のように一台だけ交換し、もう一台は0.8Dの同軸ケーブルで接続し、省エネ&省部品としています。同じサイズへの交換なら簡単なのですが、長方形への交換を行ったため少々面倒です。写真4のように電源をジャンパー線で接続しています。
写真3 このように1台のみ交換し、同軸で接続します。
写真4 長方形のものに交換したので穴を開け、電源はジャンパーしました。
3.合成回路
DDSユニット2台を中心に図1のような回路としました。DDSの出力には470Ωを入れて、外から見たインピーダンスを高くしています。そして600Ωで計算した5000HzのLPFで、高域の不要な部分はカットします。手持ちの20mHのインダクタンスに合わせて計算しただけです。
図1 600Ω不平衡型のアッテネータを使った合成回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)
各CHの可変アッテネータの入力で見たインピーダンスの乱れを少なくするため、9.6dBの固定アッテネータを入れています。この固定アッテネータは重要です。これが無いと、LPF側のインピーダンスの乱れから、可変アッテネータを操作した時に反対側のレベルまでが変動する場合があります。また、高過ぎるレベルを下げて、トータルでコンデンサマイクと同程度にしています。
2トーンの合成には220Ωの抵抗を6本使っています。この220Ωのおかげで、どのアッテネータから見ても600Ωに見えます。この場合、正しくは200Ωとなりますが、E6系列の220Ωを使いました。200Ωがあれば、そのほうが良いと思います。
合成後の共通の20dBアッテネータはレベル調整用です。本来であれば、バランス調整は5dB、レベル調整は40dBと目的を分けるのが良いと思いますが、アッテネータは簡単に入手できない事情もあります。手持ちにあるものを上手に使うしかありません。従って、各CHに入る20dBアッテネータは、レベル調整とバランス調整を兼ねる事にしています。
4.失敗した合成回路
最初は図2のように、0.1dBステップで2dBのアッテネータ2個と、2dBステップで40dBのアッテネータを使って、バランス調整とレベル調整を分けて使おうとしていました。全て手持ちにあった平衡のH型アッテネータです。DSSの出力は不平衡ですので、600Ω:600Ωのトランス(ST-71)を使って一度平衡にしています。出力の合成には100Ωを6個使っています。合成もバランスも上手く動作しました。
図2 一応は動作した、600Ω平衡型のアッテネータを使った合成回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)
問題だったのは、自作トランシーバのフィルタ内でのレベル変化が思いの他大きく、SSBトランシーバの出力を測定した時に、2dBのアッテネータを2個使った範囲では同じレベルに合わせられない事がありました。また、小型トランスを使っていて低い周波数でのf特が良くありませんでした。アッテネータのバランスを変えて、トランスを検討すればこの回路でもいけると思います。各CHのレベル調整としては0.1dBステップは細か過ぎのうえに、最大2dBでは可変幅不足でした。
5.制御回路等
図3が全体の回路になります。
図3 最終的な全回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)
コントロールにはAVRのATmega168Pを使用しました。メカ式20PPRのロータリーエンコーダを使って、2台のDDSを切り替えて周波数を制御します。ここが本機の特徴でもあります。これは最近売られるようになったロータリーエンコーダで、軸がプッシュスイッチにもなり、またLEDで光る表示付きです。DDSを赤と緑で分けて、軸のLEDが点灯している色の方の周波数を変えるようにしています。面白いと思ったのですが、反対の周波数を動かしてしまう事が良くあります。別々に2個のロータリーエンコーダを使った方が、操作性は良かったと思います。これは若干アイデア倒れでしたが、キレイに光るので良しとします。
モニターとしてTA7368のアンプを付けて小型スピーカで音を出しています。この部分は秋月電子のキットを利用しています。どんな音を出しているのかをイメージするためで、確認用のアンプを用意しなくて済むので便利です。単なるモニターですので、必要という意味ではありません。スピーカが小型なので低音が出ず、モニターとしては今一つです。オーディオではないので十分でしょう。
このアンプは小型でもあり、トラブルの元になるとは思ってもいませんでした。ところが、アンプの電源を後からONすると、その瞬間にCPUが暴走する事がありました。そこで、アンプの電源に10Ωを入れて突入電流を減らしました。しかし、ボリュームを上げるとモニター音に歪が出るようになったので、2.2kΩを入れて音量を制限しています。この10Ωと2.2kΩはバランスで決めただけの対処療法です。それよりもアンプの電源は常に入れておき、入力をON/OFFする方法でも良かったかと思います。
6.作成
作り方において、ネックになるのがメカ式のロータリーエンコーダです。これは写真5のように基板に直付けするような構造になっており、パネル面にネジ止めができません。これを簡単に使おうと考えました。そこでアッテネータはケース内に入れて、CPUとDDS基板はその上に載せて、基板上で操作する事にしました。これでロータリーエンコーダもアッテネータもうまく操作できます。但しあまりにメカ的過ぎてダサい(古い!)ので、売り物にはなりません。
写真5 使用したロータリーエンコーダです。3本足と4本足が出ています。
更にロータリーエンコーダをジャノメ基板に載せようとすると、2相出力は2.5mm間隔なので良いのですが、プッシュスイッチとLEDの端子は2mm間隔です。基板を起こせば良いのですが、これでは気楽に使う事ができません。そこでかなり強引ですが、写真6のようにしました。プッシュスイッチとLEDの端子の外側の2つは6mm間隔となるので、ジャノメ基板の5mm間にねじ込みました。中央の2つはジャンパーで処理しました。これでスッキリとはしませんが、一応このロータリーエンコーダを使う事ができました。
写真6 4本足側はこのように強引な工作です。
DDS/CPU基板の作成は、図4〜6のように実装図を作りジャノメ基板上に組み立てました。ケースはタカチのYM-150を使い、上に基板を載せます。穴あけを行って写真7のようにケースの完成です。アッテネータの軸は3つ共に4mmなので、このままではツマミが入りません。そこで写真8のように3mmのツマミをドリルで広げて使っています。強引です。
図4 部品面の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
図5 CPU側のジャンパー線の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
図6 LCD、ロータリーエンコーダ周りのジャンパー線の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真7 YM150の穴あけをしたところです。
写真8 3mmのツマミの穴を4mmに広げています。
出力レベルの値をパソコンで印刷し、VRの目盛板に貼り付けています。これを写真9のように貼り付けます。内部の配線は写真10のようになりました。アッテネータの横には図3のLPF/ATT基板です。写真11のようにホットボンドで固定しました。写真12が本機の裏側です。トランシーバに接続するコネクタの横はスタンバイスイッチです。
写真9 目盛板を作って貼り付けました。
写真10 内部の様子です。
写真11 LPF/ATT基板はホットボンドでアッテネータ横に固定しました。
写真12 裏面の様子です。
7.ソフト
ソフトは、BASCOM AVRを用いて作っています。POW ON時には左のDDS1が1000Hz、右のDDS2が1575Hzでスタートするようにしました。良くある一般的に使われる周波数のようです。
ロータリーエンコーダの軸は、赤と緑のLEDでもあります。この軸を押すとプッシュ式のスイッチにもなっており、交互に赤と緑が点灯するようにしています。写真13のように緑の時にはDDS1の周波数を変え、写真14のように赤の時にはDDS2の周波数を変えます。このような洒落た操作ができるのも、このロータリーエンコーダのおかげです。ロータリーエンコーダを2個使うなど、ソフトでは色々なオプションが考えられます。
写真13 緑が点灯の時は緑のLEDが点灯した左側のDDSの周波数を変化させます。
写真14 赤が点灯の時は赤のLEDが点灯した右側のDDSの周波数を変化させます。
周波数は10Hz〜5000Hzの幅で可変できるようにしました。上限の周波数はLPFとの兼ね合いもありますが、変更は容易です。10Hz以下はレベルも下がってしまいますし、あまり意味はないでしょう。可変するステップは10〜100Hzが1Hzステップで、100〜2000Hzが5Hzステップ、それ以上は10Hzステップとしました。全周波数で1Hzステップでも可能ですが、このロータリーエンコーダでは動き回るのが大変になります。ステップは細かいほど良いというものではありません。使い勝手の方が重要です。
なお、PCの環境はWindows® XPで、BASCOM AVRの製品版 VER.1.11.9.8を使ってコンパイルしています。書き込みはAVR ISPmkIIですが、基板のISP端子との接続には自作の変換ケーブルを使っています。これ以外の環境についての確認はしていません。
8.調整
周波数の調整は基本的に必要ありません。3.57MHzで多少のずれがあったとしても、3000Hzになると僅かな誤差です。ざっと1kHzが1Hzになります。それでも気になる場合は、ソフトを修正するしかありません。
出力レベルを測った時に、高過ぎる場合にはDDSユニットの取り外したR5(元200Ω)の跡に数kΩ取り付けて調整して下さい。このようにして、私は1.8kΩを取り付けて、出力レベルを最大で-24dBmとしました。これでアッテネータを全部入れると-64dBmとなります。これに合わせて3枚の目盛板を作っています。このレベルは電圧にすると0.49〜49mVとなり、普通のコンデンサマイクで静かに話すレベルから、相当な大声程度までを試験する事ができます。
9.使用感
もちろん安定した発振器ですので、トランシーバのコイルなどの調整にも全く問題はありません。オシロスコープを使って測定結果1のようなクロスパターンを見ることができます。
また、APB-3のスペアナ機能を使って、測定結果2のように3rd IMDも見る事ができました。レベルも周波数も細かく設定できますので、様々な条件での測定が可能です。感覚的にはクリスタルフィルタ内の2点に信号を置く感じで、その結果として3rd IMDのできる様子が手に取るように見えます。
測定結果1 オシロで変調波形を見ると、このようなクロスパターンができました。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果2 APB-1を使ってこの時の波形を見ました。(※クリックすると画像が拡大します。)
パソコンのFFTアナライザのソフト「Wave Spectra」を使って測ってみると、2倍の高調波は-60dBc以下となっており、歪としては0.1%以下です。もちろんシングルトーンで測りました。この位になると、ノイズフロアが影響してしまいます。歪を測っているのか、ノイズを測っているのか良く解らない状態で、簡単に測れるレベルではなくなってしまいます。特に低歪を目指したのではありませんが、この位なら十分な値と思います。測りたいトランシーバの性能によるのですが、それ程のトランシーバを作れるレベルではありませんし、「今のところ」十分な性能といえます。