エレクトロニクス工作室
No.112 1:2ハイブリッド
1.はじめに
No.107でDDSを2台同時に動かす「ツインDDSテストボード」を紹介しました。これを使ってネットアナの実験をしていましたが、その後リニアアンプのテスト用として2信号発振のソフト入れていました。しかし、その度にケーブル2本を1:2ハイブリッドに接続する手間があり、何とかしたいと思っていました。
これを解決するには、RF用の2信号発振器を作ってしまえ・・、という考えもあります。しかし、まずは専用のハイブリッド、つまり写真1のような合成器(パワーコンバイナ)を作る事としました。写真2のように、No.107に簡単に接続できます。もちろん、No.107にはそれなりのソフトを入れる必要があります。No.107をこの専用にするつもりは全くないのですが、暫くは2信号用ソフトが入る事でしょう。
写真1 このような1:2のハイブリッドです。
写真2 このように、No.107に接続して信号の合成を行います。
2.回路
写真3のような、市販の1:2のハイブリッドを使っても良いし、過去には写真4のようなBNCコネクタにマウントしたものも作りました。写真5のように、アルミのCチャンネルを切って作った事もあります。ここは周波数が低い事もあり、地道に作る事とします。
写真3 市販のハイブリッドの内部です。
写真4 8ピンの製品をBNCコネクタでマウントしたものです。
写真5 自作のハイブリッドです。出力が25Ωとなってしまいますが、これでも合成できます。
図1のようにバイファイラ巻きのコイルを使います。これは分配と合成をする可逆性の回路になります。しかし、1ポート側(この場合は出力部分)のインピーダンスは25Ωとなってしまいます。そこで、インピーダンス変換回路を付けて25Ωを50Ωにします。インピーダンスを×2するので、巻数比は×√2=1.41倍です。図2のように10回と4回の間でタップを取り、インピーダンス比を1:2としています。5回と2回でも良いと思います。周波数が50MHz程度なら、自作は難しくありません。
図1 ハイブリッドの回路です。1ポート側が25Ωになってしまいます。
図2 このようにインピーダンス変換を行って50Ωにします。
ところで、No.107は出力としては40MHzがせいぜいです。従って、あまり高い周波数まで伸ばす事を考えても意味がありません。30MHz程度までに重点を置くと、バランスが取れます。中央に入っているコンデンサは補償用で、高い周波数での特性を悪化させますが、低い方でのアイソレーションを改善させます。もっとも合成させられれば良いので、あまりアイソレーションを気にするような使い道ではありません。このコンデンサはなくても大丈夫ですが、「えいやっ」の感覚で100pFを付けてあります。
3.作成
タカチのYM-65を使用しました。BNCコネクタを3個取り付けるのに、ちょうど良い大きさです。使うのは写真6のようなBNC-Rと、少し特殊ですが写真7のような角座のBNC-Pが2個です。周波数が低いので気にしていませんが、インピーダンスに誤差がありそうな安物を使っています。写真8のように穴あけをし、写真9のように生基板を貼り付けます。いつもBNC-Rはケースの内側から取り付けるようにしています。しかしBNC-Pは構造的に外側から付けるしかありません。そこでちゃんぽんにせず、両方共に外側から取り付ける事にしました。BNC-Pの間隔は重要です。もちろん、No.107の出力コネクタに合わせます。少しでもずれがあると、スムースに入りません。ヤスリで少しずつ調整して合わせました。
写真6 かなり安いBNC-Rを使いました。
写真7 BNC-Pも安いモノです。角座でネジ穴のあるものを使います。
写真8 タカチのYM-65に穴あけしたところです。
写真9 作成しやすいように、生基板を貼り付けます。
BNCコネクタのアース側と生基板との接触は重要です。それぞれ2個ずつのタマゴラグを用いて直接生基板にハンダ付けしています。
次に写真10のように、生基板上にFB801に巻いたコイルを取り付けます。部品の割りにケースが大きく、中はガラガラです。配線が長くなり過ぎてダレた感じになってしまいました。配線が長くなるとf特に影響が出そうなのですが、機械的な大きさが優先ですので仕方ありません。もう少し小型のケースの方が良いのですが・・。
写真10 コイル2個をハンダ付けして完成です。
4.測定
この特性をTG+スペアナで測ってみました。この場合、測定端子以外の端子は、50Ωで終端しています。測定結果1が入力1→出力までの通過特性を測ったものです。測定結果2は同じ通過特性で、補償用の100pFを外したところです。測定結果3が入力1→入力2への通過特性、つまりこの場合はアイソレーションとなります。測定結果4が100pFを外したところです。このように、多少ですが100pFで特性が良くなっています。ただ、全体的にまだまだの感じですし、もっと細かく調整できると思います。
測定結果1 入力1→出力の通過特性です。入力2からも全く同じになります。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果2 補償用のコンデンサを外した時の入力1→出力の通過特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果3 入力1→入力2のアイソレーションです。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果4 補償用コンデンサを外した時のアイソレーションです。(※クリックすると画像が拡大します。)
No.107に入れたソフトは7MHzと7.1MHzを発振させるソフトです。周波数の可変はできません。さっと作ったものなので、使っていないラベルの定義等がたくさん残っていると思います。このソフトを入れて合成した出力を測ってみると、測定結果5のようになりました。これはAPB-3のスペアナモードで測りましたが、3rd IMDは-80dB程度です。アッテネータを7dBほど入れないと、APB-3の内部で歪を作ってしまいました。アドバンデストの古いスペアナでも測ったのですが、レベルを調整しても-65dBでした。スペアナ内部で歪が作られているようです。これを測るのが目的でしたので、-80dBであれば十分でしょう。
測定結果5 合成した出力です。この信号を作るのが目的です。(※クリックすると画像が拡大します。)
5.使用感
合成、分配には図3のように、抵抗を使った簡単な方法もあります。簡単で周波数特性が良いと言うメリットがありますが、欠点は6dBのロスを生ずる事と、入力間のアイソレーションも6dBなので筒抜けと同じです。この回路でも良かったのですが、DDSの出力レベルがそれ程高くないため、少しでもロスを少なくしようとコイルを巻いています。入力間のアイソレーションがとれる事と、ロスが3dBで済むのが特長です。まあ、同じようなものといえばそうかもしれません。
図3 このように抵抗で合成する方法もあります。
これでさっとリニアの3rd IMDが実験できるようになりました。実験するのが楽になると、何回試しても苦にならなくなります。このような実験の積み重ねが改良を進め、少しずつ良くなって行くのだと思います。これだけでは何もできませんが、塵も積もれば山です。リニアアンプの実験に役立つ事でしょう。
今までSG、バーストSGと作りました。次は2信号SGなのかもしれません。リニアアンプだけでなく、受信機のRFアンプの2信号特性を測る事も可能です。考えてみましょう。