エレクトロニクス工作室
No.113 QRPリニアアンプの実験
1.はじめに
リニアなどの実験をする場合、100mW程度のQRPqのリニアを用意しておくと便利です。3rd IMDも十分な性能を持ち、レベルの可変ができれば数W程度のリニアアンプの入力にはちょうど良くなります。もちろん、このままQRPqのトランシーバに使っても良いのですが、とりあえず実験用のツールとして作ってみました。
最近トランジスタを使ったリニアに限界を感じており、FETを使った例を探していました。そこで見つけたのが、JA2NKD松浦さんのブログ(http://ja2nkd.blog.so-net.ne.jp/)です。こんな感じのリニアを試したかった・・。という事で回路を試し、次に実験用のツールとして写真1のようにまとめてみましたので紹介します。松浦さん、ご協力ありがとうございます。
写真1 このようにまとめた、実験用の100mWのリニアアンプです。
2.バラックでの実験
後で少し変更しますが、先ず図1の回路を使って動きを確認しました。基本的には松浦さんの回路と全く同じです。写真2のように生基板上に組み立てただけのもので、実験がやりやすいようにしました。一応電源電圧としては、他のトランシーバに合わせて12Vで動かすように調整しています。バイアス調整用の2kΩ半固VRは、左に回し切った状態で0Vになるようにハンダ付けしておきます。電源ONと同時にバイアスが流れ過ぎると危険ですので、最初は電圧が0Vになるようにします。ダミーを接続し入力信号を入れずに12Vを加えた時に、50mAの電流が流れるようにVRを調整します。こんな注意を書いておきながら、実は最初に間違えてしまい500mAも流してしまいました。基板が「やけに暖かい?」と思って気が付いたのですが、それでもFETは全く壊れませんでした。この状態で様々なテストを行いましたが、思ったよりもタフです。というより、テスターを読み間違えたら注意も何にもなりません。
図1 このように、松浦さんの回路で実験を始めました。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真2 最初に空中配線で作った基板になります。
No.112で作成した1:2ハイブリッドとNo.107のツインDDSテストボードを用いて、7MHzと7.1MHzの信号を入力して実験しました。レベルを可変しながら、スペアナで状況を測定しました。3rdIMDの増加する様子が良く解ります。
このような測定をしていて気がついたのですが、アンテナカップラーを入れて調整しIMDを見ていると、出力は下がるのですがIMDの良くなる方向がありました。このまま負荷としてのインピーダンスを測ると25Ω+j0Ωで、抵抗分としてはこれ以上下げられない位置でした。出力のピークとIMDの良くなる値は異なるようです。つまり、出力のピークは別として、50Ωの負荷よりも抵抗値が小さい方がIMDは良くなるようです。それまで出力のコイルはノイズフィルタをバイファイラ巻きとして使っていたのですが、これを止めてFT50-61に20回巻きをし、良さそうなタップ位置を探す事にしました。もちろん出力がUPし、IMDがそれなりに良くなるポイントが目標です。すると微妙な位置ですが、20回巻きしたコールド側から11回付近がベストとなりました。
次に調子に乗って、入力にもマッチング用のコイルFT37-43の20回巻きを入れてみました。すると、入力のタップ位置がアース側から4回付近で出力がピークとなりました。この位置はレベルだけに影響し、IMDには関係ありません。
3.回路
このように実験を行った結果、図2のように回路を修正しました。あくまで7MHzと7.1MHzを入力したときの結果ですので、周波数が異なるとタップ位置も異なるはずです。インピーダンス比を考えてみると、バイアスを流す1kΩにマッチングさせているようなものです。バイアスは入力のコイルを通してみる方法もあるかと思いますが、試してはいません。
図2 7MHzで実験した結果、このように回路を決めました。(※クリックすると画像が拡大します。)
実験用としてまとめましたので、間違って負荷をオープンとしても差し支えの無い様に、3dBのアッテネータを入れています。3dB出力が減りますので出力200mWが100mWになってしまいます。しかし、これによって出力をオープンやショートにしてしまっても、反射波としてFETに戻るのは半分の半分となります。つまりFETから見たリターンロスは6dBで、SWRは3です。広帯域のアンプでも、安定に動作させる事ができます。実験中に間違いをしても、全く問題になりません。薦めるものではありませんが、電源を入れたまま出力の接続替えも、このアッテネータが入っていれば大丈夫です。何を接続したとしても、FETから見たSWRは3以下になります。もちろん、QRPだからという事もあります。
動作の安定ならば入力にアッテネータを入れたほうが良いのですが、入力にはレベルの調整用として1,2,4,8,10dBのステップアッテネータを入れました。最後は16dBではなく10dBにしています。効率的には16dBですが、高周波的に簡単にできるように10dBとしています。もちろん16dBでも可能です。ロータリー式のアッテネータを利用しても良いのですが、今回はトグルスイッチを使ったステップアッテネータにしています。使いやすさは今一つですが、安価にできます。
レベルメータは、大体の出力が読めるようにしました。ダイオードの直線性の良い場所が使えるように、3dBアッテネータの入り口でピックアップしています。もちろん目盛は出力に合わせて作りました。いちいちパワー計を接続する必要がないので便利です。電圧を測って電力の目盛を振る事になるので、負荷に50Ωを接続しないと正しい表示はしません。
4.作成
実験は生基板で作った空中配線だったのですが、これを作り直しました。まずは生基板上でFETの端子が接触する部分を削りました。写真3のようにドリルの先に100均で買ってきた軸付の砥石を付けて、写真4のように少しだけ銅箔部分を削りました。カッターで削っても良いと思います。最初にバラックで作った時はこれをせず、ラジペンで足を曲げただけの手抜きでヒヤヒヤでした。多少の手間は惜しまない方が安心です。写真5がFETをハンダ付けしたところです。FCZ基板を写真6のようにカットし、部品を乗せてハンダ付けしました。写真7が完成した基板になります。これで多少はまとまります。
写真3 このような軸付の砥石を使って、基板を少しだけ削ります。
写真4 2箇所を削ったところです。
写真5 FETのソースをハンダ付けしたところです。
写真6 FCZ基板はこのようにカットしておきます。
写真7 完成した基板になります。
ケースはリードのPS-2を用いました。ユニットとしては小型ですが、アッテネータとレベルメータがありますので、ある程度のパネル面積は必要です。写真8はパネル面の設計をしているところです。メンディングテープを貼って、その上からエンピツで穴あけ位置を描いています。写真9が穴あけ完了したところです。組み立てた様子が写真10となります。
写真8 パネル面の設計をします。
写真9 穴あけをしたところです。
写真10 完成した内部の様子になります。
作成した目盛を図3に示します。パソコンを使って作ったものですが、ラジケータが違うと目盛も異なりますので、参考程度として下さい。
図3 パソコンで作った目盛です。
5.測定
まずは作成途中に写真11のようにして、アッテネータ単体の特性を測っておきました。測定結果1〜5が各々のアッテネータです。測定結果6はトータル25dBでの特性です。0〜100MHzではこのように概ねフラットになりました。50MHz以下で使うと思っていますので、これで十分です。但し、125MHz付近でディップするような特性が出ましたので、この構造では100MHz程度が限度と思います。もっと高い周波数までを考えるのなら、No.24で作ったアッテネータの構造の方が有利でしょう。
写真11 作成途中に戻りますが、このようにしてアッテネータの特性を測っておきました。
測定結果1 アッテネータ1dBの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果2 アッテネータ2dBの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果3 アッテネータ4dBの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果4 アッテネータ8dBの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果5 アッテネータ10dBの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果6 合計したアッテネータ25dBの特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
これで入力が飽和しない程度のレベルを設定し、TGとスペアナ周波数特性を測ったのが測定結果7となります。入力レベルは-32dBmとしました。測定結果7は図1での周波数特性ですが、図2にすると測定結果8のように低い周波数でのゲインが上がりました。高い周波数では逆に下がりますので、使う周波数によっては逆効果です。このようにHF帯で21〜28dBのゲインとなりました。これは出力に3dBのアッテネータを入れての状態ですので、基本的にはもう3dBゲインがある事になります。フラットな特性を望むのであれば、図1が良い事になります。
測定結果7 図1での周波数特性になります。フラットです。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果8 図2での周波数特性になります。低い方でゲインが上がっていますが、高い方は全くダメです。(※クリックすると画像が拡大します。)
入出力の周波数特性を7MHzと14MHzで測ってみたのが測定結果9と10になります。200mW程度の出力がある事が解ります。つまり出力のアッテネータを外せば400mWは出せる事になります。
測定結果9 7MHzでの入出力特性です。これ以上のレベルが測れないのですが、飽和する直前です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果10 14MHzでの入出力特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
7MHzと7MHzを入力したときのIMDの様子を測定結果11〜16に示します。3rdIMDを30dBまでとするなら、100mW程度までは十分に使える事となります。つまりアッテネータなしであれば200mWです。但し次段にリニアを接続し、3rdIMDの実験をする場合には、レベルを下げて使う必要があります。どちらで作られた歪なのか解らなくなります。
測定結果11 出力5mW時のIMDの様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果12 出力12.5mW時のIMDの様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果13 出力25mW時のIMDの様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果14 出力50mW時のIMDの様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果15 出力100mW時のIMDの様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果16 出力200mW時のIMDの様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)
6.使用感
このようなアンプは、200mW位のQRP送信機のファイナルにする事が可能です。もちろんアッテネータは外します。また、次段にもう一段のアンプを付けて数Wのリニアにする方法もあります。
また、測定器の一部として使う事も考えられます。例えば2信号SGの出力アンプには良いかと思います。この場合はなるべく低いレベルに押さえておくべきでしょうし、アッテネータを入れておくと安心です。
使用する目的によって、入出力の最適レベルも変わります。よく検討する必要があります。