1.はじめに

AF用の発振器やアンプなどを製作していると、入出力インピーダンスが気になります。実際にはそれ程気にする必要はないとしても、なるべくインピーダンスは600Ωに合わせておきたいと考えています。特に測定器系ではなおさらです。

そこで、あまり精度は気にせずザックリと解れば十分と考えて、写真1のようなAF用のインピーダンスブリッジを作ってみました。正確には抵抗値しか測れないのでインピーダンスではないのですが、一般的に「入力インピーダンス」と呼ぶのでインピーダンスブリッジとしています。どちらかと言うと「測る」というよりも、600Ωである事を確認する、というイメージと思います。

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写真1 このようなAF用のインピーダンスブリッジです。

2.原理

図1のようなホイートストンブリッジが基本です。R1/R2=R3/R4の時に電流計には電流が流れない、という回路です。昔々に電話級を受験した45年前に勉強したのが最初でした。当事は「はぁ」でスルーしており、こんな記事を書くなどとは夢にも思っていませんでした。高周波でも低周波でも、ブリッジの基本はここにあります。使っているCADでは斜めの抵抗が描けないので、ブリッジの雰囲気が出せません。それでも紛れもないブリッジ回路です。

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図1 ホイートストンブリッジの回路です。 (※クリックすると画像が拡大します。)

これをAF信号に置き換えると図2のようになります。AF帯ですので、AFの発振器を信号源とします。ここでR4に値が不明のものを接続したとします。R3の値を可変できるとすると、音の聞こえなくなった時のR4の値は、R1/R2=R3/R4の式から計算できます。R1とR2を同じ値にしておくと、R3=R4となりますので計算が簡単です。

検出は交流の電流計で良いのですが、AFであれば音を直接聞く方法もあります。これが一番簡単確実で、安くできる方法です。直流ではないので正しくはCとかLの成分も考えるべきですが、そこまで考慮しない事としました。簡単に作って、簡単に測る事が第一です。

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図2 交流にしても基本的には同じです。 (※クリックすると画像が拡大します。)

3.回路

図3のような、1kHzの発振器と600Ωのブリッジです。R4の代わりに測りたいもの、つまり被測定物DUTをクリップで接続します。R3の代わりにVRと半固VRを入れ、ブリッジがバランスするようにします。この時のVRと半固VRの合計の値が、被測定物のインピーダンス値となるわけです。正確には抵抗値です。

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図3 このように作る事としました。(※クリックすると画像が拡大します。)

確認のため昔々に作った、秋月電子のトーンジェネレータを探し出してみました。そして写真2のように600ΩとVRを仮付けして、試験を行いました。思ったようにブリッジがバランスし、測定できました。このような時はうれしいものです。

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写真2 以前作ったユニットで、動作確認の実験をしました。

発振器は聞こえる周波数であれば良いので、1kHzである必要はありません。様々な発振器があると思いますが、写真3のような未組立てのトーンジェネレータキットが机の中から発掘されてきましたので、これを使う事にしました。今では入手困難ですので、1kHz〜30MHzの発振器が同様に使えると思います。周波数にふらつきがあろうと、全く問題のない使い方ですので、何でも試してみて下さい。

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写真3 発掘された秋月電子の未組み立てキットです。

ブリッジの入力インピーダンスは600Ωとなります。発振器の出力インピーダンスも600Ωが理想ですが、あまり気にする必要はありません。トランジスタの発振器でも良いのですが、600Ωが負荷の時に発振が止まるのでは支障があります。この場合は抵抗をシリーズに入れる事で負荷が軽くなるようにして下さい。もちろんトランスを入れる方法もあります。また周波数が適当に可変できると便利です。それは発振器の出力インピーダンスを測る場合、色々な周波数が出せると測定しやすいからです。もっとも発振器側の音に遮られると、ほとんど不可能になります。これはもう一工夫が必要でしょう。

ブリッジが平衡したヌル点の探索は、イヤホンで聞きながら行います。このイヤホンにはクリスタルイヤホンを使用しました。感度が良くインピーダンスも高いのですが、実は昔の製品と違って最近はセラミックを使っていると聞きました。インピーダンスは周波数によって異なるのですが、それ程高いものではなく数10kΩ程度だと思います。従って、「クリスタル型イヤホン」なのでしょう。

広範囲のインピーダンスを測ろうとすると、目盛が作り難くなってしまいます。そこでターゲットを600Ωに絞り、600Ωからのずれの測定を目標にしました。VRにはBカーブの500Ωを用い、センターの位置で600Ωになるようにします。つまりシリースに350Ωを入れ、センターを600Ωとして350〜850Ωを測る事にします。350Ωには半固定VRの1kΩを使いました。最初の実験では390Ωに3.3kΩをパラにして350Ωにしていました。計算上はほぼ350Ωになるのですが、結果的にはVRのセンターが600Ωに合わず、誤差が出てしまいました。VRにも誤差もありますので、半固VRで合わせた方が良さそうです。

4.作成

まずは発振器のキットを出し、写真4のようにアルミ板の上で作り方を考えました。写真5のような秋月電子のキットで、DIPスイッチで周波数が変えられるものです。古いキットですので、ジャノメ基板にパターンの付いた基板です。このタイプの基板は、評判が良かったとは思えません。しかし、フリーに使えるジャノメ基板のスペースがありますので、このような追加工作をするにはもってこいです。おそらく入手は不可能ですので、8ピンのICタイプの1kHz〜30MHzまでの発振器ユニットなどを使って下さい。

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写真4 アルミ板の上に作る事とし、レイアウトを考えているところです。

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写真5 キットの部品はこんな感じです。

キットを作ったところが写真6です。キットの基板の空いている部分に500ΩのVRを取り付け、裏側にブリッジ回路を作りました。クリスタルイヤホンや測定用のクリップなどは、ハンダ部分に負担が加わらないように、基板に穴を開けてワイヤーで固定します。写真7がこのハンダ面の様子です。

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写真6 キットを作ったところです。ジャノメ基板の部分が空きスペースとなっています。

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写真7 基板裏の様子です。

校正としては600Ωの標準抵抗を測った時に、VRの中央(つまり目盛50度)で平衡するように半固VRを調整します。これで中央の目盛50が600Ωとなります。目盛が10変わると50Ω変化するのが理想ですが、Bカーブといえども正確に等分には変化しません。特に0〜5度と95〜100度近辺は、変化しない領域になります。つまり目盛の5〜95度で500Ωを変化させますので、傾斜が多少きつくなります。従って、目盛10度で50Ωではなく、55〜60Ωの変化をします。この程度ならば、十分に頭の中で補正可能です。中央が600Ωと決めてしまえば、増減を読む事は簡単です。もちろん、正確な抵抗を探してきて、自分で目盛版を作ってしまう方法もあります。最も簡単なのは、1kのVRを使って0〜1kΩを目盛板でそのまま読む事でしょう。但し600Ωの位置は若干ずれるし、正確ではなくなります。0Ω付近が測れても意味がないと思います。

5.使用感

とても簡単なものですが、音がスッと消えるポイントがあります。消えずに残る場合には、リアクタンス分があるのです。つまりR+jXのXの部分です。慣れてくると、音の大小によってXの値がある程度想像できそうです。もちろん+側か-側かは全く解りません。

測定には誤差が付きものです。ザックリ測るならこれで十分でしょう。実際には50Ω程度のズレなら明らかな差として測定できます。600Ωに対して50Ωの差は、SWRにして1.1以下です。マッチングは良好な状態ですが、そのずれは測定可能です。完璧という事はありませんが、工夫次第で更に精度は上げられるでしょう。これを使って測定してみると、No.19のFRMS-AFで、入力インピーダンスのズレが見えてしまいました。先に本機を作っていれば調整していたところです。

最近のオーディオ製品では600Ωは使われない事もあり、ローインピーダンスで出力して、ハイインピーダンスで受けるような機器も多くあります。これでも良いのですが、オーディオマニアの方には音質が劣化するという話もあります。つまりハイインピーダンスで受けていると、コネクタで接触抵抗の影響を受けやすく、音質が劣化しやすいそうです。音感も耳も良くない私には解りません。