エレクトロニクス工作室
No.116 0〜8V電源
1.はじめに
電源は無線機を動かすためにも、実験のためにも必要なものです。電源というのは、一般的には「大は小を兼ねる」という事になります。もちろん小で大は兼ねられませんし、余裕は必要です。しかし大型電源なら、それで良いというものではありません。特に実験などには、それなりの小型電源を用意した方が安全という側面があります。高電圧はもちろん危険ですが大電流にも注意が必要で、ショートして基板を焦がすとか、部品を飛ばす程度ならまだ良いとして、間違っても火傷や火災を起こしてはなりません。電源はトラブルのタネになる事もあります。もちろん電流制限付きであれば良いのですが、それでも設定を誤ると何の役にも立ちません。電源に余裕は必要ですが、大き過ぎると危険な場合もあるのです。
長い実験歴、製作歴の中で、間違いをする事はあります。間違いをしても、大きなトラブルにならない様にしておく事が重要です。実験において、程よい程度の電源というのは扱いやすいものです。そこで危ない事、怪しい事をする回路の実験では、少なくとも最初だけは小型電源を使うようにしています。12V仕様であっても作った最初の電源ONは、このような電源で動く事を確認しておくと安心です。確認後に12V1Aなどを使うようにすれば、「ほぼ」安全です。もちろんリニアアンプの実験など、電流が必要なものに対しては最初から無理です。
そこで、写真1のような0〜8Vまでを可変する、小型の電源キットを紹介します。元々の主旨は「バリキャップの実験のため」だそうですが、回路実験に使用可能な電源です。12Vとか13.8V仕様であっても、実験のスタートだけはこのような電源が良いと思います。
写真1 このようにまとめた8Vのミニ電源です。
2.電源キットについて
サイテック(http://www.cytec-kit.com/)から出ている基板キットです。トランスも付いているので、ケースとターミナル、ヒューズホルダーと線材等を自分で揃えれば良いというものです。どう見ても地味過ぎるキットですので、想像どおり売れ行きは芳しくないそうです。
写真2がこのキットの部品で、図1が回路図になります。写真3が基板となります。トランスを交換する事で12Vまでにする事も可能ですが、このまま作りました。もちろん12Vにすれば更に使用範囲は広がります。しかし、逆に言えば危険度も上がる事になります。小型電源と割り切るならば、小型は小型が良いのです。
写真2 キットの部品になります。
図1 オリジナルの回路図です。4.7Ωのパラは止めていますので2.35Ωではなく4.7Ωになります。 (※クリックすると画像が拡大します。)
写真3 キットの基板です。
3.作成
まずは基板を作成しました。ハンダ付けは簡単に済むと思います。写真4が基板の完成した様子です。テストを行うと、無負荷では0〜9Vまで変化させられました。
写真4 基板が完成した様子です。
ケースに入れる前に、メータをどうするかを考えておきます。ツマミの周囲に出力電圧を表示する方法と、メータで表示する方法があります。もちろん電流も表示できる事に越した事はありません。どこまで簡易にするか、便利さを追求するのかという、両立しないところで答えを出さなくてはなりません。電流を流しすぎて電圧が下がった事に気が付かないのでは困ります。そこで電圧計だけは取り付ける事にしました。
写真5のようなジャンクの電流計がありましたので、分圧器を写真6のように内部に入れて、8Vの電圧計に改造しました。分圧器といっても2.2kΩの抵抗と2kΩの半固抵抗をシリースに入れただけです。計算どおりにピッタリ合わせられるものではありません。目盛は専用のソフトで写真7のように作成しました。貼り付けると写真8のように、それらしくなります。8Vフルスケールの電圧計など普通ではありませんので、ほとんど「専用」になります。入手できないものは使うなと怒られそうですが、これは自作ならではの特権です。一般的には10Vの電圧計で良いと思います。
写真5 ジャンクの電流計を利用しました。
写真6 内部に抵抗とVRの分圧器を入れて電圧計にしました。
写真7 目盛は専用のソフトで作りました。右がオリジナルで左が作った目盛です。
写真8 貼り付けるとこのようになりました。
ケースはリードのPS-2を用いました。電圧計を付けますので、この程度の高さは必要です。大型の電圧計の場合は更に背の高いケースが必要です。写真9が穴あけの終わったところです。これに基板を入れて、写真10のように基板や部品を取り付けます。写真11がハンダ付けが終わって完成した内部です。
写真9 ケースのPS-2に穴あけを下様子です。
写真10 部品を取り付けた内部の様子です。
写真11 ワイヤー類をハンダ付けして完成した内部です。
4.測定
No.28で作った電源用のダミーロードを用いて、写真12のように特性を測ってみました。ミニ電源なので抵抗を組み合わせてもできそうですが、連続で測れるという利点があります。電圧と電流はデジタルテスターで測りました。その結果、少々電流が流れ過ぎ、トランスに負担がかかっているようなので、電流制限用の抵抗を4.7Ωの2パラから一本にしました。これで特性が測定結果1のようになりました。最大9Vですが、電流を流すとすぐに電圧が下がり、グラフになりません。ここは使用できる領域ではないので仕方ありません。8Vでは60mAまで、6Vで150mA流せるようになりました。3.9Ω位でも良いのかもしれません。このような特性を頭に入れておく必要があります。やはり電圧計は必需品でしょう。8Vが最初に下がり始めるのは、トランスの電圧低下でしょう。右肩の下がりは電流制限のためです。
写真12 このようにして特性を測定しました。
測定結果1 出力はこのように電流と共に下がります。 (※クリックすると画像が拡大します。)
出力が2VになるとNo.28では電流が流せなくなってしまいました。電圧が低過ぎるので仕方ありません。そこで抵抗を持ち出して測ろうとしましたが、連続的に測れないので止めてしまいました。最低電圧は0.0Vです。
5.終わりに
トランシーバの実験用としては小型過ぎです。しかし、回路の実験にはちょうど良いくらいです。もちろん、12Vや13.5Vが必要な場合もありますので、その時には別の電源を用意します。実験にはこのようなミニ電源が一番と、改めて納得しました。この上には15Vで1A位を用意し、さらに3Aくらいを用意すれば良いのでしょう。
ところで、トランスを使った電源は、最近世間から減っているようです。ACアダプタもスイッチングが主流になっています。今後トランスなどの部品が入手難にならないか、ちょっと心配しています。トランスが貴重部品になってしまう時代が来るのかもしれません。