1.はじめに

自作をしていると、クリスタルの発振周波数をチェックしたい時があります。作ったトランシーバのVXOが思ったように可変しないなど、最後になって気が付くとショックが大です。そのために、予めチェックしておく写真1のようなクリスタルチェッカがあると便利です。周波数を測るのにカウンタが必要となりますので、別に用意して下さい。

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写真1 このようなユニバーサル基板に組んだクリスタルチェッカです。

実は、モービルハム誌の「100万人の・・」に掲載しようとして作成し、その前に終刊となったため残った作品がありました。写真2のようなもので、今では貴重なエアバリコンなどの部品を使っていましたが、VXO用コイルの交換ができないのが欠点でした。今回はこれを大幅にリニューアルしたものです。

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写真2 アルミ板上にFCZ基板で作った事もあります。

2.例えば

VXOに良くあるテスト項目でしょう。どこまで周波数が伸ばせるのか、その時のコイルの設定など、知りたい事はたくさんあります。コイルについては再現性の問題が大きいので、ソケット式としてコイルの交換ができるようにしました。目安としては、十分な確認ができると思います。

また、キャリア発振器の回路ですが、クリスタルフィルタにキャリア周波数が合わなかった、という事がないように予めチェックします。このような周波数合わせは、回路を作ってからでは遅く、2度手間になってしまいます。予め回路が合っていれば微調整だけで済みます。

このようなテストをするのが目的です。もちろん微妙な引き回しの違いもあり、ピタリと合わせる事は不可能です。テスト回路としては限界がありますが、残りは微調整という段階まで詰められます。基板の修正などという事態が無くなれば、十分に目的は達成でしょう。そのためのテスト回路ですので、ギリギリで合わせられたとしても、実機ではNGの場合があるかもしれません。

3.回路

図1は無調整発振回路を使ったもので、全回路図になります。ジャンパーピンで接続を変えて、いろいろなパターンについて試せるという回路です。基本的には何の変哲も無い発振回路で、大体のクリスタルは発振させられると思います。10MHz程度のクリスタルを考えてコンデンサの値を選んでいますが、3.5MHzでも20MHzでも発振しました。但し、3.5MHzではクリスタルによっては発振しない場合もありました。220pFと100pFを調整すれば良いと思いますが、測りたいクリスタルは大体10MHz前後ですので、これで十分でしょう。

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図1 回路図になります。 (※クリックすると画像が拡大します。)

また、基本波での発振が目的であって、3倍オーバートーン発振ではありません。50MHzと表示していても、3分の1の16MHz台で発振します。オーバートーン発振とピアースBEのテストは出来ません。テストする場合は別に試験回路を作る必要がありますが、オーバートーンはちょっと作り難いと思います。

トリマーを一個にして共用にする方法もありますが、元々浮遊容量が多いところで更に引き回しが長くなるような作り方をしたくありませんでした。試してはいませんが、それで十分なのかもしれません。

4.作成

ここで一番困るのはトリマーの選択です。近頃のカラフルなトリマーでは回し難い上に、容量の大小が読み取れません。しかしポリバリコンでは大袈裟ですし、工作が面倒になります。フィリップスのトリマーなら良いのですが入手できません。という事で、丈夫そうな旧式の3端子トリマーを使う事としました。もちろん他のトリマーでも使用可能です。ここは丈夫で回しやすいものが一番です。

図2のような実装図を作成し、普通のユニバーサル基板上に作りました。入力はDCジャックを用い、秋月電子の変換基板でユニバーサル基板に合わせています。出力のBNC基板も同様の変換基板を使っています。写真3の基板で、組み立てると写真4のようになります。トリマーの穴は細長いので、糸ノコを使ってユニバーサル基板の穴と穴の間をつないでいます。ところで、今までの記事ではジャノメ基板としていましたが、ユニバーサル基板と呼ぶのが主流のようですので、以後はユニバーサル基板で統一する事にします。

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図2 実装図です。 (※クリックすると画像が拡大します。)

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写真3 秋月電子のDIP化基板を使って、BNCコネクタとDCジャックを変換しています。

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写真4 組み立てたところです。

回路の設定には前述のようにジャンパーピンを用いました。確実な上に見て解りやすいと思います。小型のスライドスイッチでも良いのですが、接続状態が解り難いので止めました。操作性はスライドスイッチの方が良いので、どちらでも良いと思います。

クリスタルのソケットは少々古いHC-25U用ソケットを1個使っています。これは端子間が広いので斜めに取り付けています。また、丸ピンのソケットを分解したピンで、HC-18/U用のソケットを2個作りました。計3個のソケット全てをパラにしています。つまりクリスタル1個の発振と、2個をパラにするスーパーVXOを試す事ができます。クリスタルのソケットとしては、わざわざ樹脂からピンを抜き出して使う必要はありません。

VXO用のコイルもこの丸ピンを使って入れるようにしました。7Sタイプと10Sタイプが使えるようになっています。ユニバーサル基板の間隔に合わせていますので、7Sのコイルはうまく収まるのですが、10Sは斜めに入れるようになります。特に支障もないので、みっともなく斜めに入れています。ここは樹脂が付いていると斜め入れができませんので、ピンを外して使っています。シールドケースの接地は簡単ではありませんので、浮いたままです。これが影響するのがVXOですので、そこまで確認する場合には別にハンダ付けして下さい。

なお、ソケットを分解した丸ピンは、ユニバーサル基板の穴を少しだけドリルで広げ、押し込むように固定しています。ハンダだけでは銅箔部分が剥がれやすそうです。多少テンションがかかった程度ではビクともしないようにしています。ハンダ面は写真5のようになっています。

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写真5 ハンダ面の様子です。

動作確認した後でテプラで回路の表示をしましたが、少々ですが極細のマジックで線を追加しています。テプラのテープに手描きの線を入れたのは初めてです。この時だけはPC接続のテプラにしたくなりました。これでどのような回路になっているのかが、ひと目で解ります。間違いもなくなる事でしょう。また、写真6のように裏側にゴムのシートを貼っています。

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写真6 ハンダ面にはゴムのシートを貼って、手で触れないようにします。

5.テスト

まずは写真7のようにジャンパーピンを(1)にセットし、9.0015MHzのクリスタルを1個入れました。これで8.9998MHzを発振しました。

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写真7 (1)にジャンパーピンをセットした様子です。

キャリア発振回路などのテストとして、写真8のように(2)にジャンパーピンをセットすると、9.0015MHzは9.0009〜9.0077MHzで発振しました。これで、キャリアの周波数が合うのか確認できます。トリマーの容量を大きくしても、(1)での周波数よりは下げられません。(1)はその目安を見るために付けています。

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写真8 (2)にジャンパーピンをセットした様子です。

VXOのテストは、写真9のようにジャンパーピンを(3)にセットし、13MHzのクリスタルを入れました。VXO用のコイルはVXO2を斜めに入れています。これで12.9697〜13.0011MHzを発振させられました。もちろんコイルを回すと大幅に変化しますので、この周波数は全く意味を持ちません。このくらいのクリスタルでは、表示の周波数より下のほうに30kHz位は簡単に変化します。

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写真9 (3)にジャンパーピンをセットした様子です。

写真10は7.2MHzのクリスタルです。この位の周波数ではVXOがやり難くなりますが、AMの周波数7.195MHzを目指してみます。(1)では7.1993MHzで発振しました。(2)では7.1995〜7.2015MHzで、(1)の周波数より下がる事はありません。(3)でVXO2のインダクタを最大の位置として7.1990〜7.2015MHzです。多少は下がったものの、(2)の周波数とほとんど変わりません。このLの値では動き出さない、という頑固な感じです。次に、コイルを1.9MHz用とすると7.1946〜7.2006MHzでした。やっと動き出して、7MHzのAMがギリギリです。この状態でクリスタルを2個パラにすると7.1863〜7.2011MHzに広がりました。これで7MHzのAMが十分にカバーできました。7MHz付近のクリスタルでは、VXOに必要なLの値が急激に増えるようです。写真11のようにクリスタルを2個パラとして30μHのインダクタを使うと、7.1919〜7.2020MHzでした。Lをもう少し増やすとクリスタル1個でも何とかなると思います。このように、特にVXOの実験では威力を発揮します。

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写真10 7.2MHzのクリスタルです。7.195MHzを目指してみました。

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写真11 スーパーVXOとしてLには30μHを使ってみました。

6.使用感

「アナログの塊」のような作品になってしまいましたが、便利に使えるマニアックなツールです。トランシーバなどを作ろうと部品集めをした時に、まずはクリスタルの周波数チェックに、次に回路の確認にと何回かの出番があるでしょう。心配なのはトリマーの耐久性です。あまりガンガンと回すような構造とは思えません。今のところ何回も回していますが問題は出ていませんので、トラブルが出た時に考える事にします。ここにはジャンパーピンを使ってセラミックコンデンサの5,10,22,47pF,ショート,を切り替える方法でも良かったかと後で思いました。