エレクトロニクス工作室
No.120 HAYABUSA6
1.はじめに
昨年ですが、50MHzのDSBトランシーバのキットが、サイテック (http://www.cytec-kit.com/)から出されました。このようなキットは、ほぼ条件反射的に作ってみたくなります。早速入手して写真1のようにまとめてみました。
写真1 このようにまとめた。50MHzのDSBトランシーバです。
DSBはUSBとLSBの両方の側波帯を出力するモードです。SSBに比べて効率は悪くなりますが、送信機が簡単な構成で作れるというメリットがあります。受信機側もそれに伴って簡単なダイレクトコンバージョンで作れますので、正に自作向きのモードと言えるのでしょう。もちろん、SSB局とは普通に交信できますので、「めずらしいモード」と気にする事はありません。欠点は両方の側波帯があるため、帯域幅がSSBの2倍になります。従って混んでいるバンドでは、送信は迷惑をかけるし、受信は混信を受けやすくなるしで使い難い事となります。そのため、昔からHF帯でトランシーバの製作例は少なく、ほとんどが50MHzとなるようです。
2.回路
図1のような回路です。受信側はダイレクトコンバージョンで、50.3MHzのクリスタルをVXO発振させて3逓倍した50.18〜50.28MHzを用いて、受信した信号を直接AFに検波します。送信側もVXOを共通として用い、直接変調をかけてDSBにします。このようなトランシーバでは一般的な作り方ですが、回路全体は2SC1815を14個も使った構成で、サイテックの内田さんらしさが満ち溢れでています。
図1 サイテックで作られた回路図です。 (※クリックすると画像が拡大します。)
コイルはFCZコイルが無くなった事からトロイダルコアに手巻きするようになっています。8個と少々多くなっていますが、コイルを巻くのが苦手という方もおられます。コストもかかるので作る側としては少ないほうが良いのですが、性能はコイルの数に比例するというOMもおられます。8個程度はきちっと巻きましょう。
3.作成
写真2はこのキットに入っている全部品になります。基板キットですので、ケースやVR等については自分で用意する必要があります。写真3の基板を眺めて、どのようなケースに入れるのかを考えて、イメージを膨らませます。ケースを購入するのは基板の完成後でも良いのですが、まあ自作の一番楽しい瞬間でもあります。いろいろと妄想するのも良いでしょう。QRPですので電池内蔵にする方法もありますし、ハンディタイプでも周波数カウンタ内蔵でも何でも可能です。
写真2 キットの全部品です。
写真3 このような基板です。
先ず基板を作成する前に、トロイダルコアにコイルを巻きます。手巻きのコイルがある場合には、先に巻いておくのが製作の第一歩です。写真4が巻いたところです。巻き終わった後は、もちろん間違えないように整理しておきます。トロイダルコアに一次側と二次側を重ねて巻くには多少のコツがいるようです。特に二次側は巻数は少ないのですが2重になるため巻き難く、どうしてもクセの悪い感じになってしまいます。私はマジックハンダで巻き始めと終わりを固定しています。
写真4 巻き終わった8個のコイルです。
ところでFB801に巻くトリファイラコイルですが、写真5のように3色を使ってしまいました。マジックで色を付けるのをサボっただけです。
写真5 FB801トリファイラ(T6)ですが、このような3色のワイヤーを使って巻きました。
基板を作成したところが写真6です。写真7のように仮配線をして、受信と送信の動作を確かめておきます。トラブルがあれば、この状態で対処しておきます。ケースに入れない方が調べやすいからです。もちろん、場合によってはケースに入れないと解らないトラブルもあるでしょうけど、これは仕方ありません。
写真6 基板を作成したところです。
写真7 このように仮配線をして動作確認をしました。
まずはVXOの出力をピークにするのが第一歩です。実はここで時間がかかってしまいました。同調が急峻なため、いくらトリマーを回しても出力が出ませんでした。そこでスペアナを持ち出すという禁じ手を使い、50MHzがピークとなるようにしました。結構シビアな調整で最初は出力が全く出ず、ハンダ付けをシクジッタかと思った位です。スペアナが無くても50MHzの受信機で受信し、一番強力になるように合わして行けば良いと思います。トリマーは回しにくく、ピークを取るのが大変です。何回も繰り返す必要がありますが、逆にずらして戻らなくなる事も度々あります。
送信側は出力が最大になるようにトリマーを調整します。基本的には発振側から出力側に向かって出力をピークになるように調整をします。受信側もトリマーで最大感度になるように調整します。いずれのトリマーも回しにくいです。
写真8のようにタカチのYM-180に穴あけを行い基板を入れました。ケースも配置も好み次第ですが、もちろん問題のないような配置にしなければなりません。基板をネジ止めしたところが写真9で、内部の配線を行ったところが写真10になります。一例に過ぎませんので、このようにする必要はありません。
写真8 タカチのYM-180に穴あけをしたところです。
写真9 基板などをネジ止めしたところです。
写真10 配線を行ったところです。
ケースに入れたところで、改めて動作確認と調整を行います。ざっと調整ができていれば、大きくずれる事はないでしょう。最終的な調整を何回か繰り返し、納得できるまで行います。
4.特性
出力のスプリアスは測定結果1のようになりました。マイク入力に1kHzのトーンを入れて100mWになるようにした時の測定です。16MHz代を3逓倍しますので、どうしても16MHzの倍数のスプリアスが現れてしまいますが、この位であれば大丈夫でしょう。
測定結果1 100mW出力したときのスプリアスです。 (※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果2はマイクの入力レベルを横軸に、送信の出力レベルを縦軸にしてみたものです。マイク入力が1.8mV時に100mWになりました。1.8mV=-53dBm(600Ωです)入力で100mW(+20dBm)出力です。マイクの感度にもよりますが小さな声で十分という感じになると思います。ダイナミックマイクではレベルが不足するでしょう。1.8mV以上では歪が増えて来るので注意が必要です。つまり出力は200mW位は出るとしても、横に広がって歪が増えるだけです。このような特性を知って、1.8mV以下に抑えるマイクコンプレッサを入れるのも良いかと思います。No.109のようなマイクも良いでしょう。
測定結果2 マイクの入力レベルと出力レベルをプロットしてみました。100mW以上は直線性が無くなります。 (※クリックすると画像が拡大します。)
感度は特に良いとは思いませんが、この位あれば十分でしょう。AGCがなく、音の大小が目立ちますので、VRで調整しながら聞きます。これは方式上仕方ありません。DCですのでノイズは少ない印象ですが、クリスタルフィルタがないので高音が伸びています。スピーカが小型のためもあると思います。
5.使用感
私の住む那須塩原市付近では、ほぼ50MHzは聞こえません。DSBどころかSSBもAMも聞こえないのはさびしいです。このようなミニのトランシーバで賑やかになれば、楽しさ倍増と思います。