1.はじめに

アナログテスターに比べ、デジタルテスターはとても安価に入手できるようになりました。性能が良いのですから、デジタルが主流になるのは時代の流れです。しかし、どんなデジタルテスターでも誤差がないという事ではありません。もちろんアナログのテスターと比べれば桁違いに精度は高いのですが、誤差を知って使う必要があります。

そこで、簡単で安価にチェックを行う事のできる、写真1のような標準電圧発生器を作ってみました。もちろん、更に精度の良い測定器があれば、それで校正することもできるでしょう。

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写真1 このようなユニバーサル基板上で標準電圧の4.096Vを作るものです。

2.ICについて

このような基準電圧を作るICが用意されています。秋月電子で入手した、写真2のようなLM4040AIM3-4.1 です。写真3のように静電気防止用の袋にシリカゲル入りで、2個で100円です。長い名称ですが、LM4040までがICの名称です。次のAは誤差0.1%を表します。つまり、簡単に0.1%誤差の電圧を作れる事になります。他にも同様のシャントレギュレータが何種類か入手できますが、誤差1%がほとんどで0.1%はこれしかありませんでした。基準電圧とするならば、なるべく誤差が少ないほうが良いでしょう。最後の4.1が電圧を表し、正確には4.096Vとなります。12ビットのA/Dコンバータの基準電圧にした場合、入力した電圧を1/4096しますので、0.001Vつまり1mVステップとなります。そのような使い方ができるような値になっているのでしょう。決して中途半端な値ではありません。AVRの10ビットのA/Dコンバータでは4mVステップとなりますので、中途半端になります。

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写真2 このようなICです。

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写真3 このように袋入りで売られていました。

3.回路

図1のような回路としました。ICの使い方としてはツェナーのように適当な電流を流し、安定した4.096Vを取り出します。この電流に変化があっても出力電圧は変化せず安定し、±0.1%の誤差となります。もちろん誤差はゼロではありません。しかし0.1%という誤差は以前なら簡単に入手できない精度で、ツェナーとは比べ物にならないものです。

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図1 回路図になります。ツェナーのような動きですのでICですがツェナーのシンボルを使っています。 (※クリックすると画像が拡大します。)

さて、流す電流は68μA〜15mAと大変広い幅で4.096Vを維持する事のできるICです。しかし標準的に流す電流は1mAのようです。安定して1mA流すため、8Vのレギュレータを使って4.096Vとの差で1mA流してみました。つまり8-4.096=3.904Vを使って1mAですので3.9kΩを使います。E6系列の抵抗値が使えるように8Vにしたものです。もちろん3.9kΩや8Vにも誤差があり、1mAにも誤差が生じます。しかし、この誤差を吸収し、±0.1%にするのがこのICの役目になります。このようなICですので、8Vに安定化する必要も本来はありません。適当な電流を流しておけば十分という考えもありますが、常に同じ条件を作ると言う事で1mA流すようにしました。写真4は実験をしているときのバラックです。

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写真4 実験をしている様子です。

なお、8Vのレギュレータには1A用の7808を使っています。ここは1mA流せば良いので、78L08で十分です。これを手持ちで探したのですが切らしていたため1Aタイプとなってしまいました。最近では100mAタイプの78Lタイプのレギュレータがあまり見当たらず、市場から消え始めたように思います。表面実装のレギュレータの方がバランス的に良かったのかもしれません。

4.作成

簡単な回路ですので作成はすぐにできます。このICは表面実装部品ですので、ハンダ付けには多少のテクニックが必要です。写真5は電源コネクタをブレッドボードに変換する基板で、もちろんユニバーサル基板にも使用できます。ICは表面実装部品なので、銅箔面に付けてしまいました。従って写真1では見えません。

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写真5 電源コネクタを変換してユニバーサル基板に使っています。

出力は普通の端子ではなく、クリップなどが使いやすいようにチェック用の端子を用いました。写真6のようなものです。最後に動作確認後に写真7のようにゴムシートを貼り付けます。これこそユニバーサル基板で作るのがピッタリでしょう。

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写真6 クリップが使いやすいような端子を使ってみました。

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写真7 最後にゴムシートを貼って、ハンダ面が出ないようにします。

5.使用感

ICが規格どおりの性能を出せば、少なくとも私の実験室ではスペック的に一番正確な電圧です。これを検証するものはありません。電圧計を作る時には、これを基準として合わせれば良い事になります。インピーダンスが低いアナログのテスターなどでは電流が流れ過ぎてしまい、ICに規定の電流が流せなくなります。すると出力電圧が下がり、当然正確な値ではなくなります。例えば、抵抗値を3.9kΩから減らして電流を増やし、最大の15mA近くまで流しておけば十分に対応は可能でしょう。

私の持っているデジタルテスターの誤差は0.5%なので、4.10Vに対して±0.02Vの誤差があります。更にカウント誤差が±2ありますので、4.06〜4.14を表示すれば良い事になります。それが4.10Vを表示しますので、少なくとも1%以内に収まっていると思われます。十分に精度は確保されている事が確認できました。他の電圧の場合はテスターの直線性が不明ですので、1%以内を補償するものではありません。

ところで、アナログの電圧計ではフルスケールの値に対して0.5%などの誤差の値を計算し、それがゼロからフルスケールまで同じようにかかります。従ってメータの振れが少ない場所では誤差が大きくなります。デジタルテスターの場合は、表示した値に対して誤差のパーセントを掛け算し、更にカウント誤差を足し算するのが一般的です。