エレクトロニクス工作室
No.124 ダイオードのテスト冶具
1.はじめに
ダイオードは整流、検波に始まり、スイッチ、アッテネータ、定電圧、定電流、発振等の様々な用途があります。我々が自作をしていて、一番使うのは検波と思います。ところが素性の解らないダイオードを使った場合、この検波でさえ思うようにならない事があります。No.119ではQRP用のリニアアンプを作りましたが、パワー計の周波数特性が良くないトラブルがありました。この時はダイオードをゲルマに交換して良好となりましたが、ダイオードは難しい事を痛感しました。
そこで、ダイオードの検波出力を確認する写真1のような冶具を作り、ジャンクでも何でも簡単に確認できるようにしました。ダイオードは周波数が高くなると検波出力が下がります。希望の周波数で使えるかを確めるものだったのですが、回路のまずさも解ってしまいました。
写真1 このように、ユニバーサル基板にラジケータを載せて作ったテスト用冶具です。
2.実験
高い周波数で検波出力が少なくなる原因は、ダイオードの逆回復時間や端子間の容量によって起こるようです。逆回復時間は、ダイオードの順方向に電流を流しておき、極性を反転させた瞬間に逆方向なのに電流が流れる時間です。周波数が高くなると影響が大きくなり、検波出力が少なくなってしまいます。その結果、検波器として働かないようになります。静特性では解らないダイオードの不思議です。
さて、ダイオードのテストですが、検波出力としての周波数特性を測るのが手っ取り早いと考えました。そこで周波数を可変しながら検波し、メータを振らせる回路を実験しました。まず図1のように直流をカットし、抵抗で受けてからダイオードに通す回路を試しました。私が良く使う回路ですが、ダイオードの後にコンデンサを入れておらず、後からまずい事に気が付きました。ただ、周波数特性の良し悪しは良く解ります。図2のようにダイオードの後にコンデンサを入れると、メータの振れが良くなり、しかも周波数特性が良くなります。No.119ではこのコンデンサを付けるべきだったと気が付きました。
図1 最初に試した回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)
図2 このようにダイオード後にコンデンサを入れると感度も周波数特性も良くなります。(※クリックすると画像が拡大します。)
その動作をLTspiceで確認してみました。コンデンサが無い場合は、ダイオードに流れる直流電流が少なくなってしまいます。確かにコンデンサが無いと、感度も周波数特性も悪化するようです。ただ、理由などは良く解りませんでしたので、もう少し追及してみたいと思います。
3.回路
このような結果から図3の回路で作る事としました。コンデンサの切換えスイッチは後から追加したのですが、条件を変えた時の検波出力の周波数特性が見られるかと思ったからです。
図3 この回路で作る事としました。(※クリックすると画像が拡大します。)
発振器には1kHz~30MHzを発振する秋月電子のユニットを使いました。出力はC-MOSレベルですので、出力インピーダンスと電圧が比較的高いものです。周波数もそれ程正確な必要はありませんし、ジッタなども関係ありません。このようなテストにピッタリです。50MHzまで発振できないのが唯一の難点ですが、カーブを描いてみると使えるかどうかの判断はできそうです。この発振器の出力は矩形波ですが、周波数によってレベルがほとんど変化しないのも都合が良い点です。周波数のレンジを設定するスイッチは、センター付きのトグルスイッチを使っています。これで×1、×10、×100を切換えます。
内部には比較用のダイオードを入れておき、これと測定するダイオードとを比べるようにしました。比較用の標準ダイオードでフルスケールに設定し、測りたいダイオードに切換えて振れ具合をチェックします。周波数を変化させて試し、検波器としての周波数特性を測定します。標準とするダイオードは難しいところですが、ゲルマの1N60を使えば良いかと思います。また、実験の結果で一番性能の良いものにする方法もあります。私は写真2のようなジャンクのダイオードを使っています。実験中に見つけた「お宝」で、一番良い特性でしたので基準としました。
写真2 ジャンクのダイオードですが、特性が良かったため基準用としました。
4.作成
さて実験では上手く動いたのですが、まとめる方法で考え込んでしまいました。始めは出力をメータで正しく読みたいと考えていたため、100μAの電流計を使おうとしていました。しかし、それ程の精度も不要と割り切って、ラジケータを使う事とし、0~5の当分目盛を作りました。ラジケータは振れが直線的ではない問題がありますが、「下がる周波数」を見るのですから十分です。「下がり方」はそれ程重要ではないと割り切りました。これで大型のメータを使わなくて済みます。
工作としては、ケースに入れるほどではありませんが、ラジケータもあるので簡単ではありません。そこでユニバーサル基板を使い、配線用の基板とターミナルやラジケータの固定ではパネルの役目としました。写真3が穴あけをしたところです。生基板側に006Pの電池ホルダーと、メインの基板を固定しました。写真4が完成したところです。ダイオードの接続にはターミナルを使っています。今まではクリップを使っていましたが、ここは高周波の影響があると考えガッチリと固定できるようにしました。写真5がとりあえず完成したところです。
写真3 ユニバーサル基板に穴あけをしたところです。
写真4 配線側です。銅のテープを貼ってアースとしています。
写真5 とりあえず完成したところです。
配置が今ひとつで、ダイオードの切換えスイッチとメータまでに距離ができてしまいました。いろいろ考えたのですが、どうもフィットしません。高い周波数まで対応できるような代物ではありませんが、まあ30MHzまでなら大丈夫でしょう。100MHzバージョンを考えるのであれば、作り方から考え直す必要がありそうです。
5.測定結果
手持ちのダイオードを片っ端から測ってみました。測定と言えるレベルではありませんが、これは測りながら面白かったです。実際には手持ちにあるダイオード全種類測りましたので、もっと多くのデータがあります。グラフにすると見難くなりますので、代表的なところでまとめたのが測定結果1,2です。縦軸の目盛は基準用のダイオードに比べた振れ具合、つまり下がり具合を示しています。
測定結果1はダイオード後のコンデンサを入れない状態です。予想したとおり、ショットキーの1N60Pはすぐに低下してしまいました。この使い方では中波までしか使えない事が解ります。1588は立ち上がり電圧が0.6Vなので不利と解ります。ゲルマはどれも同様でしたので、OA90を代表としています。
測定結果1 ダイオード後にコンデンサを入れない特性です。(※クリックすると画像が拡大します。)
測定結果2はダイオード後にコンデンサを入れた状態です。測定結果1に比べて周波数特性がずっと良くなっている事が解ります。これならショットキーの1N60Pでも十分に使えます。電源用のダイオードでも、そこそこの成績になります。
測定結果2 ダイオード後にコンデンサを入れた特性です。周波数特性が良くなっています。(※クリックすると画像が拡大します。)
参考ですが、測ったダイオードと静特性を写真6~12に示します。この静特性はNo.83で作ったもので測っています。静特性と周波数特性は全く別のものである事が良く解ります。
写真6 測ってみた赤色LEDの静特性です。右上にデバイスを置いています。
写真7 同様に馴染みの深い1588です。
写真8 同様に1N60Pです。ゲルマではなくショットキーのものです。
写真9 同様にゲルマのOA90です。ゲルマらしい静特性です。
写真10 同様に高速スイッチング用の1SS85です。
写真11 同様に電源用の10D-1です。
写真12 同様に電源用のRG2Zです。
6.使用感
これでどんなダイオードでも、自信を持って検波に使えるようになりました。ダイオードは一度袋から出したり、混ざってしまうと品番不明になってしまいます。このような素性不明になったジャンクのダイオードも、何の心配もありません。ダイオードとしての本来の目的は不明でも、検波作用はあります。その周波数特性さえ解れば、利用価値が見つけられる可能性があります。お宝の発掘ができれば儲けものですし、私のような失敗を防ぐ事もできます。
「まあ話のタネにでも・・」と作り始めたのですが、こんな面白い結果になるとは思ってもいませんでした。試験用冶具のつもりで作ったのですが、ダイオードの「お勉強道具」になったように思います。