1.はじめに

No.126で紹介した校正用の周波数カウンタですが、これはこれで良いと思います。しかし普通のカウンタとは少し異なり、使いにくいところがあるのも確かです。そこで写真1のような、極めて普通の周波数カウンタを作ってみました。周波数は50MHz帯までとしていますので、私の自作には十分です。

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写真1 このように掌サイズの周波数カウンタです。

2.周波数カウンタについて

今回紹介するカウンタには全く関係ないのですが、思わず最初に書きたくなったカウンタキットのミニヒストリーです。CPUを使ったカウンタが一般的になったのは、ここ15年くらい前からでしょうか。それまではカウンタ専用のICを使ったキットが売られており、ずい分と作りました。また、当時は魅力的なキットが沢山あったという状況があります。

ずい分とお世話になった秋月電子のキットですが、最初は1980年頃のμPD851を使ったものです。これは当時の私には難し過ぎ、全く作る事ができませんでした。さすがにICや基板は残っていませんでしたが、写真2の取説がありました。

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写真2 完成しなかったμPD851キットの取説です。

その次が1982年頃のMSM5502をユニバーサル基板で組むキットです。クセが強く、回路図どおりではどうしても動きませんでした。CRの値を変更し、何とか完成した記憶があります。当時は良くある事でした。これも取説だけですが、写真3のようなものです。

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写真3 MSM5502を使った4桁カウンタキットです。

1986年頃はTC5032Pのキットで、専用基板が付いていました。これは上手く動きましたし、自由度が高くて使いやすいキットでした。写真4のような基板が残っていました。同じような回路で、周波数変換を追加した基板をエッチングして作り、トランシーバに内蔵したりしました。

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写真4 TC5032P使用のキットです。

ICM7216が専用ICの末期のキットでしたが、自分で表示の細工などがやり難くトランシーバには内蔵しませんでした。測定器用というようなキットでしたので、測定器として作りました。ユニバーサル基板のような専用基板と、写真5のような基板の2種類がありました。ユニバーサル基板タイプでは表示部をカッターで切り離すようにできていました。という事は2台以上を作っている事になります。このICを使い、水晶をムラタの簡易水晶オーブンで暖めるようにした写真6のカウンタも作り、モービルハム誌94年1号に記事を書いています。

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写真5 ICM7216使用のキットです。

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写真6 ICM7216を使った完全自作の周波数カウンタです。

影が少し薄いのですが、1989年頃にICM72241を使ったLCD表示のキットがありました。写真7の取説があるので作ったはずなのですが、どのように作ったのかは全く記憶にありません。

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写真7 ICM72241を使ったキットの取説です。本体が・・

ICの調達でお世話になった亜土電子には、M54821Pを使ったキットFC355Dというロングセラーがありました。IFの455kHzなどを加減算できるもので、トランシーバに内蔵するにはゲートタイムが長過ぎ、ダイヤルの回転に表示が追いつけないのです。少々使い難かったのですが、ラジオ用のICで仕方ないのでしょう。写真8と写真9の2台が見つかり、どちらかがDXタイプになります。

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写真8 M54821P使用の亜土電子のキットです。LEDの付け方が下手で汚くなってしまっています。

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写真9 同じくM54821P使用のキットです。たぶんDXタイプと思います。

カウンタ用ICが消えた後は、PICなどのCPUを使って作る時代になりました。秋月電子のPIC16C71使用の「PIC周波数カウンタ」キットは写真10のように仕上げて、モービルハム誌99年3月号に記事を書いています。IUSのFCP-21もPICを使ったキットで、どうしても見つかりませんでした。モービルハム誌99年3月号に記事があります。サイテックのRF-mateはレベル計付きで、写真11でNo.79に記事があります。これは今も入手可能な現行のキットです。色々と工夫されていて感心する事も良くあります。このようなCPUを使った場合、最終的には細かい仕様は自分で決めて、自分でソフトを修正するのが一番ニーズに合う事となります。

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写真10 PIC16C71使用のキットです。

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写真11 サイテックのはレベル計付きのキットRF-mateです。

最近では中国製の安いカウンタが入手できることもあるのでしょうか。それとも作ろうという人が減ってしまったのでしょうか。PICなどを使ったキットも減ったように感じます。しかし資料を探してみたところ、何と言う数のカウンタキットに手を出していたのかと驚き、呆れ果ててしまいました。35年間の周波数カウンタキットの作成と頓挫のヒストリーでした。

最近は自作でもデジタル表示というと、ロータリーエンコーダの回転をCPUで数えて演算し、DDSの制御をするというパターンが多く、周波数カウンタをトランシーバに内蔵する事はあまり無いと思います。しかし測定器としてのカウンタは必要ですので、今回は測定器という側面でカウンタを作ってみました。

3.回路

極めて長い前書きになってしまいましたが、今回紹介する周波数カウンタは基本的にはNo.126の回路とほぼ同じになっています。元々はJA9TTT加藤さんがブログで発表された回路をアレンジしたものです。基準には12.8MHzのTCXOを使っています。何とか10MHzのOCXOを使おうとしたのですが、AVRのタイマーを使った場合の処理が上手くできず、元の回路どおりの12.8MHzとなりました。

AVRカウンタの上限は12.8/2.5=5.12MHzとなります。実際にはもう少し高くまでカウントしますが、これだけでは低すぎて使い難い事となります。そこで、74HC390を使った1/10のプリスケーラを、プリアンプの後に常時入れる事としました。これで51MHzまでカウントできます。

12.8MHzのTCXOは今では入手が困難で、クリスタルしかないと思っていました。ところが最近は新しいTCXOが売られているようで、試したのではありませんが同じように使えるかと思います。

プリアンプはNo.126とほぼ同じです。No.126は校正用として特化していましたので、10MHz程度を測定対象としていました。今度は低い周波数も計れるように、結合用のコンデンサにはパラに1μを入れています。CPU部分は写真12のように、No.2の「PIC/AVR開発用ボード」を使って動作を確認しながら、変更や開発をしています。このようにして図1の回路にまとめました。

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写真12 実験中の様子です。

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図1 全回路になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

4.作成

ロジックでカウンタを組んでいた時代と違い、自分でソフトを作るので数値の加減算やゲートタイムの設定などのアレンジが自由です。それだけ作り方も多様化し、作った本人の感性が現れてきます。

入力アンプの回路は、図2のような実装図を作ってから作製しました。シールド付きのユニバーサル基板を用い、入力のBNCコネクタと一体化するように作りました。この出力は入力信号を1/10した5.1MHz以下のロジックレベルとなります。この部分を先に作成し、全体のレイアウトをイメージしているのが写真13です。コネクタと基板が多少離れてしまったのは、ケースに入れる時にLCDを避けるためです。一体化という割に離れているのですが、あまり気にしない事としました。

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図2 入力アンプの実装図になります。部品面にシールドが付いたユニバーサル基板を使っています。緑の丸点は直にアースするポイントです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真13 ケースの中に部品を入れて、レイアウトをイメージしているところです。

メイン基板はCPUとLCDのみですので、ユニバーサル基板上に図3のように実装図を作製して作りました。写真14が部品を付け終わって動作テストをしている様子です。ケースはタカチのYM-130を用い、写真15のように穴あけを行いました。なおLCDは写真16の下側を使いました。上側のでは少々ケースの高さが厳しかったためです。

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図3 メイン基板の実装図です。普通のユニバーサル基板です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真14 動作チェックをしているところです。

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写真15 YM-130に穴あけをしたところです。

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写真16 レイアウトでいろいろと試し、下側のLCDを使う事にしました。

完成後の内部の様子が写真17です。このように、入力アンプはBNCコネクタと一体化しています。測定中の様子が写真18になります。

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写真17 完成した内部の様子です。

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写真18 このようにカウントします。

5.ソフト

ソフトに関しては、加藤さんのソフトとほぼ同じです。今では閲覧ができないので、ブレッドボードラジオのAVRのページを御覧下さい。No.126に続いての引用になります。加藤さん、橋本さん、いつもお世話になります。

追加した機能としては、カウントした値によって10Hzの位置が動かないような表示をしています。つまり左寄せではなく、右寄せの表示です。なお、1/10した入力を1秒で測るという設定を固定していますので、分解能としては10Hz固定になります。ゲートタイムを10秒や100秒に切り替える方法もありますが、それ程の高精度を目指してはいません。このカウントにはこれで十分と思います。IF分の加減算は簡単ですが、一応測定器として作っていますので、機能としては付けていません。このソフトを以下に置いておきますので、参考にして下さい。

ソフトダウンロード

なお、PCの環境はWINDOWS XPで、BASCOM AVRの製品版 VER.1.11.9.8を使ってコンパイルしています。書き込みはAVR ISPmkII ですが、基板のISP端子との接続には自作の変換ケーブルを使っています。これ以外の環境についての確認はしていません。

6.調整

基準の周波数は無調整ですが、TCXOのシールを剥がすと微調整ができます。他の精度の良いカウントに合わせて調整して下さい。確かな基準のない場合は、触れない方が無難です。これができないTCXOもあるかと思います。

入力アンプの半固VRは、アナログとデジタルの橋渡しです。基本的には感度の良い位置にセットします。50MHzを入力し、レベルを下げながら一番感度の良い位置にします。あるいは一番高い周波数をカウントできる位置にします。使う周波数が決まっているのであれば、その周波数で調整する方法も良いでしょう。どれも大きな相違はないはずです。調整方法は自分の使い方を考え、工夫をしてみて下さい。

7.使用感

小型でなかなか良く動作するベーシックなカウンタです。測定器というイメージで作っていますが、ソフトを修正すればIF分の加減算も簡単ですので、トランシーバへの応用も可能です。私が使うのはほぼ50MHzまでですので、分周を増やしてゲートタイムを長くするよりも、スピーディにカウントできるようにしています。高い周波数をターゲットにするならば、更にプリスケーラを置くようにして下さい。

昔々に苦労して作ったキットに比べて簡単なうえ、応用範囲の広いカウンタができました。しかも写真を見比べると、ハード的には簡単になっています。これでまたカウンタのヒストリーが増えてしまいました。