1.はじめに

オーディオ用600Ωのアッテネータについて、写真1のようなジャンク品を何個か入手し、今まで使っていました。このBEACONでも何件か製作記事にしています。平衡と不平衡の両方があったのですが、使うのは不平衡ばかりです。アッテネータとしては平衡の方が高価と思いますが、無線関係の自作で使おうとすると不平衡のほうが使いやすいのです。従って、手元に残るのは平衡ばかりとなりました。そこで平衡を不平衡に改造してしまおうという、とんでもない事を試してみました。

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写真1 オーディオ用アッテネータの数々です。

2.アッテネータについて

まず、アッテネータを知らなければ改造もできません。アッテネータは高周波用とオーディオ用があります。高周波用では50Ωか75Ω、オーディオ用では600Ωが使われます。更に平衡と不平衡があり、回路によって選ばなくてはなりません。どちらにも値が固定されたものと、可変できるものがあります。

50Ωや75Ωの高周波用では、不平衡のπ型かT型が使われます。平衡が使われる事はほとんど無いようです。ロータリースイッチで可変する場合は、図1のように、両側にスイッチを置いてアッテネータ全体を切り替えます。リレーやスイッチを使う場合には、図2のようにシリースにし、個々をON/OFFします。1,2,4,8と少ない回路で効率的に合成できますが、CPUでも使わないと操作が面倒になります。これらの方法は高い周波数まで使えるようにするためですが、切換える瞬間の連続性が取り難いという欠点があります。

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図1 ロータリースイッチを使った高周波用のアッテネータです。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図2 リレーやスイッチを使った高周波用のアッテネータです。(※クリックすると画像が拡大します。)

オーディオ用では600Ωが使われ、平衡と不平衡があります。高周波用と異なるのは、T型やπ型のアッテネータ全体を切り替えず、図3のように各抵抗をロータリースイッチで切り替えます。ロータリースイッチの接点は、次の接点に接触してからその前の接点を離します。このようにする事で音が途切れる事なく、ボリュームのようにスムースに可変する事ができます。また、21接点や41接点など、アッテネータ全体の切換えでは考えられないような数の接点が可能となります。

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図3 オーディオ用では、このように各抵抗をロータリースイッチで切り替えます。(※クリックすると画像が拡大します。)

しかし、T型では図3のように3箇所を同時に切り替えなくてはなりません。もちろんπ型でも同じです。これを2箇所にしたのが図4で、橋絡T型とかブリッジT型と呼ばれます。可変VRのように描いていますが、図3と同じでロータリースイッチです。これでコストを減らせる上に小型化する事ができます。また、平衡型の場合は図5の橋絡H型(ブリッジH型)とすることで、3箇所の切換えで済みます。そのため、一般的には橋絡H型と橋絡T型が使われるようです。今回はこの橋絡H型を改造し、不平衡の橋絡T型にしてしまおうというものです。

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図4 ロータリースイッチは省略しますが、橋絡T型です。可変が2箇所になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図5 平衡の橋絡H型です。(※クリックすると画像が拡大します。)

3.改造

図6は橋絡T型の各素子の計算です。図7は橋絡H型です。良く眺めると気が付くと思いますが、抵抗の各素子の合計値は同じになります。従って、内部で配線を変更する事で不平衡にできると考えました。つまり、橋絡H型は図8のように接続変更すれば図9のようになり、これは橋絡T型図6と全く等価になります。

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図6 橋絡T型の各素子の計算です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図7 橋絡H型の各素子の計算です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図8 このように接続変更します。(※クリックすると画像が拡大します。)

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図9 整理するとこのようになります。橋絡T型と等価です。(※クリックすると画像が拡大します。)

さて、実際の平衡アッテネータの内部は製品によって異なります。そこで、同じような細工が全てに可能かは解りません。私が試したのは、写真2のユタカ製8dB(0.2dBステップ)です。これには「音量減衰器H8CS 600Ω」と表示があり、600Ωの橋絡H型のアッテネータになります。

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写真2 ユタカ製8dB(0.2dBステップ)アッテネータです。

内部を見ると、写真3のようにロータリースイッチが3段あります。中央が線間に入る接点になります。両端が入出力間の接点になります。そして固定抵抗の300Ωは、写真4のように一番目立つところに2本、見えない部分に2本あります。この300Ωを探す事が第一歩で、全体の回路と配線方法を理解する手がかりです。これをノートにメモしたのが写真5です。このようにしておかないと、混乱して整理が付かないと思います。

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写真3 アッテネータの内部です。接点の付いた円盤が3枚見えます。

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写真4 300Ωの抵抗2本がこれです。もう2本は陰で見えません。

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写真5 配線方法のメモです。現状と改造箇所を書いています。

写真6が配線替えをしたところです。300Ωを直列にして600Ωとなるようにしているのですが、陰になって見えません。手作り感のあるアッテネータですが、構造が解れば改造も簡単です。といっても最初は配線を間違えてしまい、やり直しをする羽目になりました。インピーダンスが全く合わないので気が付きました。なお端子は不平衡と解るように、写真7のようにしました。これなら平衡には見えません。

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写真6 接続変更をしたところです。

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写真7 端子は不平衡と解るようにしました。

アッテネータが異なると内部も違いますので、具体的にどこを切って接続する、という表現はできません。内部の配線をじっくり観察して理解すると、切る位置と接続する位置が見えてくると思います。場合によっては密封されて開けられないアッテネータもありますので、その場合は改造不可能です。

このような作業をした時には、内部の清掃もしっかりと行っておきます。接点は清掃し、専用の潤滑油を塗っておきましょう。また、メカ部に問題があれば、分解してグリスアップ等の対策をしておきます。

間違える事はないと思いますが、改造の有無は写真8のようにテプラでシールを作って貼り、明らかにしておきました。なお、改造したアッテネータはメーカ修理の対象になりません。十分に注意して自己責任で遊んで下さい。

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写真8 テプラで改造済シールを作って貼っています。

4.使用感

ガリもなく、減衰量も問題なく改造できました。回しながらインピーダンスを確認すると、切換える瞬間だけ僅かにインピーダンスがずれる事に気が付きました。瞬間的にずれるのは当然の事ですが、僅かなものですし音の途切れもノイズもありません。なお、インピーダンスはNo.114の「AF用インピーダンスブリッジ」で測っています。工夫を重ねて作られた技術の結晶なのでしょう。回路的には難しくないのですが、このようなメカニズムは簡単ではありません。なお、東京光音のHP(http://www.ko-on.co.jp/)はアッテネータの種類や計算方法等、技術的な宝庫ですので参考にしてみて下さい。

ユタカ製を2個改造し、また東京光音製も2個改造しました。いずれも全く問題なく使えています。さて、このような改造アッテネータが使えると、作れる物の幅が広がりそうです。次の自作が楽しみです。