エレクトロニクス工作室
No.146 コンバータ付きRTL-SDR
1.はじめに
No.144ではUSBドングルを用いたRTL-SDRを紹介しました。しかし、30MHz以下は受信できないという大きな欠点があります。そこで0~30MHzを聞くために、100~130MHzにアップコンバージョンしてから、USBドングルに入力するという方法が浮かんできます。つまりコンバータの付加となります。
No.144でも紹介しましたが、ドングル3兄弟のひとつで写真1のようにまとめてみました。USBドングルとコンバータを一体化してケースに入れたものです。前回と同じ写真2のUSBドングルが中に入っています。
写真1 このようなRTL-SDRです。
写真2 内部で使っているのは、このようなUSBドングルです。
2.回路
0~30MHzの周波数変換をしますので、同調回路を使ったコンバータは使えません。そこで、DBM(ダブルバランスドミキサ)を使ったコンバータ基板にUSBドングルを接続するという、図1のような回路としました。USBドングルは分解して基板だけを使用し、USB-Bコネクタでパソコンに出力します。
図1 回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
0~30MHzを100~130MHzに変換するには100MHzを使用します。100MHzをクリスタルで発振させるのは結構大変ですので、ここはXO、つまり写真3のような水晶発振器を使って簡単に済ませます。一般的にXOの出力には、インピーダンスの低い負荷は接続できません。最近では50Ω負荷が接続できるものもあるようですが、規格不明のXOは高めのインピーダンスで受けるのが無難です。そこでDBMをドライブできるパワーを確保しつつ、バイファイラトランスと抵抗を使ってXOから見たインピーダンスをなるべく高くできるようにしてみました。これでもXOから見ると350Ωのインピーダンスにしかなりません。一応手持ちのXOで試してみましたが、問題が出たものはありませんでした。このように作ってみましたが、XOの出力と5Vとの間にコイルを入れて出力を取り出すほうが効率的と思います。この実験も別途始めてみましたが、まだまだ途上です。
写真3 このようなXOを使っています。どれも100MHzと125MHzのXOです。
DBMにはR&KのM-4を用いています。手持ちを使っただけですが、中波の周波数などにも対応できるように、IFポートは0MHzから使えるものが良いと思います。もちろん自作DBMで十分です。入力の0~30MHzはIFポートに入力し、RFポートに100~130MHzを出力します。
入力のLPFはイメージが遥か遠くになるため、30MHzで計算した1段としています。例えば7MHzを受信する時のイメージは、207MHzになります。この位の周波数になるとLPFは作り方が重要で、段数を増やしても減衰量は足し算になりません。といっても気楽にチップLを並べただけですが、この程度で十分と思います。
出力のHPFは、7MHzを受信しようとすると、出力は107MHzとなりイメージは93MHzとなります。このイメージは目的の信号に近く、100MHzのHPFではほとんどカットできません。もちろん、3.5MHzや1.9MHzでは更にカットし難くなります。2段でも3段でも、あまり効果に期待はできないでしょう。無くても良いくらいですが、気持ち程度の1段としています。
後述しますが、XOのLPFは125MHzに対応できるようにしています。100MHzだけという事であれば100MHzにすべきでしょう。
XOは電源が必要になります。この部分のために外部電源を利用する方法もありますが、ここは面倒を避けて全てUSBからの5Vを使う事にしました。USBドングルもXOも電流を消費しますが、500mA以内には十分に入ります。XOは5V用だけではなく、3.3V用もありますので注意して下さい。
3.作成
コンバータ基板は高周波を扱いますので、シールドの付いたユニバーサル基板で作りました。まず図2のような実装図を作りました。次にハンダ付けですが、XOにはICソケットを用いています。この理由は簡単で、100MHz以外のXOを試すためです。正方形でも長方形でも対応できるようにしています。また前述の理由によって、XOが破損した場合の交換も容易です。更に、No.100などで使っている中華製DDS(ダイレクトデジタルシンセサイザ)のクロックには125MHzが使われています。DDSはAF用に改造して使ったものなどがあり、外した125MHzが手持ちに何個かあります。もちろん、周波数の直読という点では少し難点となるのですが、125MHzの「用途」が確保される事にもなり、これは好都合です。このような都合のない場合、ソケットなしの直付けでよいと思います。細かく言えば出力のHPFは125MHzで設計すべきですが、大差ないでしょう。少々乱暴ですが、誤差が大きくなった程度です。そのためXO出力のLPFは125MHzとして、100MHzと共用にしています。
図2 コンバータ基板の実装図です。(※クリックすると画像が拡大します。)
USBドングルは、前回と同様にコネクタの付け替えを行いました。コンバータがあるため多少ケースが大きく高さがあります。そのため今回は、写真4のようなaitendoのUSB-Bメスのコネクタキットを使いました。どうしてか「USB関連」では見つからず、「VBUS」で検索すると出てきます。USBコネクタの電源をVbusと呼ぶのですが、USBから入ると見つかりません。写真5がキットの内容で、回路的には+5Vとグランド間にコンデンサがあるだけです。
写真4 USB-Bメスのコネクタキットです。
写真5 キットに入っている部品です。
USBドングルは写真6のようにグランド部分にスズメッキ線をハンダ付けし、生基板にハンダ付けして固定しています。コンバータ基板も同様に固定しています。ネジで固定する大きさでもないでしょう。USB-Bのコネクタキットだけは、3mmネジのカラーを生基板にハンダ付けして固定しています。次に写真7のように基板間の配線をおこない、動作チェックをしておきます。
写真6 グランド部分にスズメッキ線をハンダ付けしています。赤いワイヤーは極細の同軸で、アンテナのコネクタにハンダ付けしています。
写真7 生基板上で基板間を配線して動作チェックをしています。
ケースはタカチのYM-100を用い、特に小型化するような作り方はしていません。前回より少しだけ大き目のケースになります。内部の様子を写真8に示します。
写真8 YM-100に内蔵した様子です。
このUSBドングルは使い方によってICが熱を持つといわれていますので、放熱対策をしておくと安心です。ICの上にヒートシンクを置く方法もあります。私は写真9のようなクールスタッフ(放熱フィルム)を細く切り、ケースに熱を伝えるようにしました。これでケースも暖かくなりますので、それなりの効果はあるのでしょう。前回と違って巻き付けてあるのは、ドングルのままでの実験をしていた「なごり」があるからです。
写真9 これは取り付け前ですが、クールスタッフを貼って放熱をします。
4.動作チェック
まずはXOが発振している事を確認します。言い換えれば受信できればOKです。これだけで他は何もありません。7MHzを入力した場合の出力をスペアナで測ってみたのが測定結果1です。このように107MHzと、イメージの93MHzが出力されます。100MHzのHPFはあるのですが、ほとんど同じレベルです。前述のとおりですが、この程度の周波数差だとHPFは無力です。
測定結果1 7MHz入力時の出力です。このように93MHzと107MHzが出力され、HPFはほぼ無力です。(※クリックすると画像が拡大します。)
USBドングルを使って、7MHzを107MHzにして聞いた(見た?)様子が測定結果2です。試しに入力に写真10のようなBPFを入れてみたところ、測定結果3のようになりました。これはBPF以外は全く同じ条件です。BPFがないと入力レベルが高くなり過ぎ、抑圧されるようです。
測定結果2 7MHzを受信した様子です。(※クリックすると画像が拡大します。)
写真10 使った7MHzのBPFです。
測定結果3 同じ条件でBPFを入れたところです。(※クリックすると画像が拡大します。)
5.使用感
使った性能としては、XOは100MHzでも125MHzでも大差ありません。但し、132MHzを7MHzと読み替えるのは確かに違和感があります。慣れ次第なのでしょうけど、どこを受信しているのか分からなくなる事も度々でした。周波数の表示だけで他は全く同じですが、25MHzのズレが気になるのであれば100MHzを使うしかありません。
もちろん、30~100MHzのXOでもフィルタを変更すれば使う事ができます。30MHzを使い7MHzを入力すると、37MHzの出力に対してイメージが23MHzになりますので、HPFの効果が出てくるメリットもありそうです。これも試したいところです。
コンバータとRTL-SDRを分けて作る方法もあります。つまり、No.144にコンバータを外付という手法です。本機はコンバータと一体化するのが使いやすいだろうと考えたものですが、使い方次第と思います。
この次にはダイレクトサンプリングを紹介したいと考えています。