1.はじめに

回路の実験などをしていると、発振器やアンプの出力インピーダンスを測りたくなる事があります。入力インピーダンスであれば、ブリッジやネットワークアナライザなど、測る手段はいくつか思い浮かびます。ところが発振器やアンプの出力インピーダンスなどを測る場合、同じ方法で測れるはずですが、どうも私的にはすっきりしません。そこで写真1のような簡易式ですが、出力インピーダンスメータを作ってみました。超が付くほどのアナログ方式です。

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写真1 VRを回して測る出力インピーダンスメータです。

数mW程度の発振器程度の測定が目的ですので、一般的なリニアアンプ等の測定はQRPであっても無理です。

2.測定方法

初めは方向性結合器を応用した回路で実験をしてみました。一般的に方向性結合器はインピーダンスが決まっていて、それ以外のインピーダンスは測れません。そこで、方向性結合器の回路を検討し、0~1kΩ用を作ってみました。マッチングする条件のインピーダンスを探しますので、メータのディップ点を探してVRの目盛を読むというものです。図1のような回路でディップ点はとれるのですが、1kΩの3連VRが入手できず2連+1連で試しました。写真2は1連3個で試した時です。結果はクリチカルなもので、どこが本当のディップ点なのか良く解りませんでした。

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図1 失敗した方結を使った回路です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真2 VRで方結を作ってみたのですが・・

そこで方向性結合器を使うのは諦め、VRを負荷として調整したときにレベルが6dB下がる点を探す方法に変えました。図2のように、内部抵抗がrの発振器の出力電圧は高インピーダンスの電圧計で測るとrに係らずV(V)です。下側のように、R=rの負荷抵抗を接続すると電圧が半分になります。つまり6dB下がった時の、抵抗Rの値は出力インピーダンスrと同じになります。抵抗Rを1kΩのVRに置き換え試しているところが写真3です。レベル測定には外部測定器としてスペアナとかRFミリバルを使います。

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図2 このような原理です。(※クリックすると画像が拡大します。)

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写真3 FETアンプとVRで試作しているところです。

実は最初3dB下がるものと勘違いしていました。いくら実験をしても思ったよりも高いインピーダンスが出てしまい、しばらく悩んでいました。この場合は電圧を読んでいますので、電圧が半分というのは6dBダウンになると気が付きました。6dB下がる点を読むようにすると、予想していた値になりました。何となく3dBと思い込んでいたのですが、とんでもない間違いでした。

3.回路

このような回路を実験するには、入力インピーダンスの高いアンプが必要となります。1kΩのVRだけが、負荷になるようにしなくてはなりません。このアンプを通して50Ωのレベル計に接続します。アンプというよりハイからローへのインピーダンス変換器ですが、周波数特性にバラツキがあっても問題になりません。ゲインはマイナスでも、レベル計の感度でカバーできます。割と気軽に作る事ができると考えました。

このようにして図3の回路としました。スイッチによって負荷のVRをON/OFFし、出力が6dB下がる点を探します。FETアンプの出力インピーダンスとしては50Ωより高くなりそうですが、SWR2には入ると思います。コンデンサには0.1μFを使っています。0.0022μFをパラにして周波数特性を改善しようとしたのですが、結果的に逆効果でしたので止めました。

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図3 回路図です。(※クリックすると画像が拡大します。)

4.作成

実験後にどのようにまとめるのかをイメージし、ケースを決めて部品の配置を決めます。ケースはタカチ電機工業のYM-65を使う事として、穴あけを写真4のように行いました。内部は写真5のように数cmの生基板を使い回路を組みました。少しの回路ですので、完全に空中配線で済ませています。電源の中継には写真6のように貫通コンデンサを用い、入力のワイヤーを固定しています。これでケースを開けてもFETは動きません。つまり部品にストレスがかかりません。コンデンサとしての意味はあっても、貫通の意味はありません。固定するだけですので、電気的には普通のセラミックコンデンサと同じです。

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写真4 YM-65に穴あけをしたところです。

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写真5 内部の様子です。

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写真6 貫通コンデンサは赤いワイヤーの固定用に使っています。

入力側はBNC-Pを、出力側はBNC-Rを用いました。測るインピーダンスがスミスチャート上を回転すると意味がありませんので、発振器に直結できる位のイメージにしています。出力側はそれほど気にしていません。

5.測定

SGの出力と直列に写真7のような固定抵抗を入れ、見かけのインピーダンスを高くしました。この時の出力インピーダンスを本機で測り、動作確認をしました。つまり470Ωの抵抗を使うとSGの50Ωと合成され、520Ωの出力インピーダンスになります。その結果表1のように、インピーダンスと周波数が高くなるに連れて誤差が大きくなりました。この誤差の様子を理解していれば、十分に使用できそうです。まあ、ギリギリHF用という事になるのでしょう。

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写真7 固定抵抗をBNCコネクタ間に入れて、テスト用に冶具を作りました。

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表1 50MHzまでの測定結果になります。(※クリックすると画像が拡大します。)

最初はこの1kΩバージョンの他、10kΩバージョンも作ろうとしていました。ところが、レベルが下がり過ぎる上に、誤差が大きくなる事が解りました。この方式では1kΩ程度が限度なのでしょう。逆に100Ωバージョンは作れそうです。50Ω以下のインピーダンスも1:4等の変換器で作れると思います。

なお、VRには目盛板を付けてこれを直読していますが、Bカーブとはいえ抵抗値はピッタリと目盛には合いません。中央の50付近は比較的合いますが、最小と最大付近は誤差が大きくなります。50Ωは目盛板の10付近になりますので、表1で100Ωとなるのは仕方ない事です。この付近が50Ωと知るべきでしょう。精度についてはこの位のもので、VR目盛のクセを知っていれば十分と思います。

5.終わりに

単純な回路ですが、使い道は結構ありそうです。100Ωバージョンも作りたくなってしまいましたので、また紹介するかもしれません。

ザックリとしたツールですので仕方ない事ですが、スイッチの接触抵抗が大きく影響してしまいます。なるべく高品質のものが必要になります。