エレクトロニクス工作室
No.18 短波ラジオ
1.はじめに
はじめにIC有りなのですが、東芝のTA7792PというAM/FMラジオ用のICを入手しました。AMラジオ用としてはLA1600が良く使われていますが、違ったICを試すのも面白いと考えて遊び始めました。
これで何か作れないかと実験したところ、ラジオ用のICなのですから始めはラジオから作ってみる事としました。そこでできたのが、写真1の短波ラジオです。短波AMといえば国際放送ですが、この周波数は6MHzから21MHz代までバンドが決められています。このうち、7~9MHz付近を受信するようにしました。もちろん中波で作る事も、周波数を変更する事も可能です。
写真1 完成した短波ラジオです。
なお、TA7792Pは千石電商(2階)で230円で購入しました。今のところ、通販でも入手可能なようです。
2.実験
TA7792PはAM/FM用ですが、最初から共用のものは大変です。まずはAMから試す事としIFアンプの実験を始めました。ICのデータシートには、IFアンプの周波数特性が載っていません。455kHzが中心としても、もし10MHzでも使えれば大変ラッキーという事になります。ざっと測定しただけなので、あまり正確ではないのですが、IFアンプの周波数特性は図1のようなものとなりました。出力にAFミリバルを付け、中間周波数にSGを入力しました。SGの周波数を変えた時に、音声出力が一定となるようにSGのレベルを調整したものです。つまり、低い位置にある程感度が良いという事になりますが、あくまで相対的なものです。絶対値ではありませんので、もっと低いレベルでも受信可能です。中波のラジオがメインとすると、IF周波数は455kHzです。想像される範囲ですが、IFアンプとして使用できるのはせいぜい数MHzまでで、1MHz以下で使うべきと思われます。残念ですが、10MHzでは全く使えないという事はないとしても、ゲインが低下し過ぎです。
図1 IFアンプの周波数特性、15MHz以上では感度の低下が止まるのではなく、歪みが増加してしまい使えません。
局発の方法ですが、最初は外部DDSからの信号を使っていました。この場合でも4,5番ピンの電源は必要です。図2の回路で、写真2のようなバラック状態で短波ラジオを組み立てました。これで受信すると、思わず驚くほど良く入ります。「ほーこんなに良く聞こえるんだ」という久々の感覚でしたので、このまま短波ラジオの実験をしました。
図2 TA7792Pの実験回路です。
写真2 図2の回路でTA7792Pの基礎実験をしました。
次に簡単なラジオにDDSでは大げさですので、LC発振を試しました。ところが、発振する時としない時があるのです。手巻きのコイルでは発振しましたが、FCZ14(10S)では発振しませんでした。巻き数はほぼ同じですが、微妙な違いがあるようです。個人的には手巻きでも良いのですが、それでは再現性に問題が出てしまいます。そこでFCZ7を使うようにしたところ、問題なく発振するようになりました。発振する周波数も問題ありません。データシートには、短波(20MHz)でも使用できるように書いてありますが、コイルについての説明がありません。掘下げて実験をしたのではありませんが、Lに対してCが比較的大きくなると発振が停止するようです。つまり、発振させたい周波数よりも低めのコイルを使用した方が、確実に発振できそうです。
アンテナ入力には14MHzのコイルを使っていますが、イメージが910kHzしか離れていませんので、どちら側を聞いているのか良く解りません。強力な電波ですので、どちらもガンガンと入ってしまいます。一応アンテナコイル側にもポリバリコンを用い、チューニングを取るようにしました。上手にトラッキングが取れるように作れば良いのですが、簡単に作るにはこれが一番です。但し、イメージとの関係を理解しないと、どこを聞いているのか解らなくなります。
AFアンプといえば定番はLM386ですが、電源電圧に差があり過ぎて使い難くなってしまいます。そこでTA7368Pを試しました。電源に3Vを使うと120mW出力なので、ちょうど良い程度です。このICも386ほどではありませんが、相当古い部類のICになります。TA7792Pと同じく千石電商で入手しましたが、もし入手できないとしても同類のICはいくらでもあると思います。最近ではTA7368APとなっているようです。
ボリュームを上げて行くとAF段が発振してしまう問題がありました。TA7368Pの消費電流にTA7792Pの電圧が揺さぶられるようです。TA7792Pは1.5Vでも動作しますので、CRを追加してデカップリングを強化する事で対処しました。最終的な回路は図3のようになりました。
図3 短波ラジオの全回路です。
3.製作
小型のジャノメ基板上に組む事とし、部品の配置を検討します。写真3のように、部品面には100均で入手した銅テープをカッターで切って貼り付けてアースにしています。いろいろな方法を試しましたが、安上がりで開発のやりやすい方法です。ハンダ面に電源や信号ラインのテープを貼った様子が写真4です。
写真3 ジャノメ基板の部品側にコイルを取付け後、アースラインを100均の銅テープで貼ったところです。
写真4 ハンダ面側も電源ライン等を銅テープで貼りました。
一般的な部品を使うとすると、455kHzのIFフィルターはセラミックとなります。そこで、帯域幅が20kHzの製品を使ってみました。メーカ不明のジャンク品ですが、同じようなフィルターを入手容易です。帯域はもっと狭くても良いのですが、簡単な受信機という事を考えた場合に、広い方が作りやすくなります。どうもこの手のICを使うと、IFフィルターを入れる間隔がICのピン間よりも広くなり、思ったような配置ができません。ピタリと収まった感じではありません。
コイルは10Sタイプを斜めにジャノメ基板に入れました。斜めにするしかないのですが、裏と表の感覚が狂ってしまい頭を痛めました。ジャノメ基板を使ってコイルを差し込む場合には、この組み合わせしかありません。部品を取り付けた様子が写真5になります。
写真5 その後完成してみると、予定外のコンデンサがいくつか・・。
簡単な短波ラジオですので、おおげさなケースは止める事としました。選局がしやすいように、大きめのダイヤルは使いたいところです。ケースはリードのPS-1を使ってみました。内部の様子が写真6です。ポリバリコンは3mmネジのカラーを用いて、写真7のような軸のアダプタにしています。そのままネジを強く締めますと、ポリバリコンを壊してしまいます。私は写真8のような特殊なモンキーを用いて軸を固定して、ネジを締めています。
写真6 完成後のシャーシ内の様子です。
写真7 ポリバリコンの延長シャフトは、2.6×12mm 皿ネジ、3×10mmカラー(ネジ付き)、2.6mmスプリングワッシャーを用意します。
写真8 このような特殊モンキーを使って締め付けるとシャフト固定し、ツマミを付けて回してもガタがきません。
4.調整
調整は、受信したい周波数の455kHz上か下の周波数を、OSCで発振させるようにします。OSC側のポリバリコンを回した時に、計算した幅で発振するようにコイルのコアとポリバリコンのトリマーを調整します。上側を使うか下側を使うかは、発振させやすい方にすれば良いと思います。といっても、発振部分はICの内部になってしまいますので、直接測る事ができません。受信しながら確認します。SGを使う事が可能であれば、確実で早く調整する事ができます。
アンテナコイルは受信したい周波数の幅がカバーできるように、コイルのコアとポリバリコンのトリマーを調整します。OSC側とアンテナ側が完全に合えば良いのですが、合わない場合には周波数の設定を多少狭くするか、ポリバリコンとパラに小容量のコンデンサを入れて補正する等で調整します。私の場合には、7.2~9.5MHzを発振させ、7.7~10MHzを受信できるようにしました。
5.おわりに
結果的にLA1600を使ったラジオと大差なく、ICは高いしFM部が遊んでいるというあまりメリットのない短波ラジオとなりました。改めてLA1600に戻ってみるのも良いかと思う最近です。
初めて使うICを使った事もあり、簡単な構成の割にはトラブルが多く苦労しました。それでもトラブル退治が楽しく、何かにまとめた時はうれしいものです。今後はAM受信回路を元に、AMトランシーバーに発展させる事もできますし、CWやSSBの実験も考えられると思います。