エレクトロニクス工作室
No.19 FRMS-AF
1.はじめに
第6回~8回で紹介しましたFRMSは、20MHzまでの周波数レスポンスを測るのに便利な測定器でした。更に第12回では、測定できる周波数を150~200MHzまでに広げる、FREXを紹介しました。しかし、無線関係の自作といっても、人間が話したり聞いたりする部分はオーディオ周波数(以下AF)です。この部分を測りたい場合がありますが、FRMSではちょっと問題があります。
そこで、改造するなら専用器にしてしまえ、という事で写真1のようなAF専用のFRMS、つまりFRMS-AFを作ってみました。
写真1 入力出力にはターミナルを使い、シールド線のクリップで接続しています。
2.AFでの問題点
普通のFRMSの入出力を直結し、ソフトでAF帯の1~5000Hzを指定すると、測定結果1のようにノイジーになってしまいます。これでは数kHzのAFフィルターの測定をする事はできません。
そこで、FRMSを改造してAFから20MHzまでをと考えるのですが、ここで別の問題が出てきます。AFの測定は一般的に600Ωのインピーダンスで行われます。クリスタルフィルターの測定ではそれでも良いというか、逆に都合が良いのですが、他に支障をきたしそうです。ここが悩むところで、RF/AF兼用の600Ωバージョンとする方法もありますし、完全にAFだけとする方法もあります。応用を考えた場合に、出力インピーダンスは低く50Ωに、入力インピーダンスは高く600Ωか更に高くするという考えもあります。また、VRを使って可変するという方法まであります。
とても悩んだのですが、なかなか結論は出ませんでした。えいやっ、という部分が大きいのですが、完全AF専用機で、入出力は600Ωとしました。
3.回路と製作
基本的には普通のFRMSと変わりありません(当然ですが)。発振出力のアンプとLOGアンプ周辺を600Ωとして、更にパスコン等の値を大きくしてAFでも対応できるようにしています。
まず第一歩として、600Ωの入出力のFRMSとして作成しました。その後で少しずつ改造を加えて行きましたので、基板上には不要と思われる部品も残っています。FRMSの説明書の中に、林さんの行ったAFバージョンへの改造図面がありますので、その追試を基本に改造を行っています。このように改造したFRMS-AFの回路図を図1に示します。出力LPFはオリジナルでは20MHzですが、100kHzとしました。LPFの部分は、写真2のようにマイクロインダクターとマイラーコンデンサで作っています。このLPFを20MHzとしておけば、クリスタルフィルターも測れる事となります。DDSキットの出力部分も600Ωにしてしまいましたが、ここはオリジナルのままとしRF OUT(実際にはAF OUT)の抵抗だけ交換すれば十分であったと、後から気が付きました。なお、D-SUBコネクタには25ピンではなく9ピンを使っています。
図1 FRMS-AFの回路図AF用としては0.01μFは不要かもしれない。
内部の様子を写真3,4に示します。容量の大きいコンデンサを使っていますので、一部は基板の上から見えてしまいます。1μFはチップコンデンサを使っていますが、10μFは普通のリード線タイプです。
写真3 内部の様子です。
写真4 内部の様子です。
ケースはRF用のFRMSやFREXと同じ、タカチのYM-180を使用しました。普段は写真5のように並べています。
写真5 このようにFRMSシリーズを並べています。
4.使用感
改造前の特性が測定結果1でしたが、改造後は測定結果2のように曲線がずっときれいで、ギザギザが無くなっている事が解ります。更に、1~500Hzを見た場合、改造前は測定結果3のように測定できる状態ではなかったのですが、測定結果4のように一応何とかなりそうな状態になりました。
測定結果1 ノーマルのFRMSで1~5000Hzに設定し入力出力をショートした状態ですが、低い周波数ほどノイズが大きくレベルも下がってしまいます。
測定結果2 同じ設定でFRMS-AFバージョンの様子ですが、ほぼ良好な様子が解ります。
測定結果3 ノーマルバージョンで1~500Hzで入力出力をショートした状態ですが、全く測定は不可能という事が解ります。
測定結果4 バージョンでは、何とか100Hz程度までは測定可能でしょう。
試しにLCで作った3kHzの自作LPFを測定したのが、測定結果5です。次に600Ω:600Ωのトランスを測ってみたところ、測定結果6のようになりました。このようなトランスのf特は、いままではカタログ上でしか見る事ができなかったのですが、思ったよりもロスが少ない事が解りました。今まで見えなかったものが見えるという事は、それだけで楽しくなります。測定結果7は1k:1kのトランジスター用トランスを、600Ωで測ったものです。測定結果8はジャンクの3.4kHzのLPFを測ったものです。
測定結果5 LCで作った3kHzのLPF(600Ω)を測定してみました。
測定結果6 600Ω:600Ωのトランスの特性です。
測定結果7 1kΩ:1kΩのトランジスター用トランスの特性ですが、100kHz近くなると下降傾向となるのが読み取れます。
測定結果8 ジャンクですが、3.4kHzのLCを使ったLPFです。
5.おわりに
普段は無線関係の自作を楽しんでいますが、今まであまりAFの部分については力を入れていませんでした。無線機には必ず入っている部分なのですが、適当に作って「良し」としていました。しかし、周波数特性が見えると、ちょっとした問題点も見えて来ます。少しずつレベルアップするために、このようなAFバージョンも一助になると思います。
AF用とRF用の2台のFRMSを使用すると、パソコンは1台ですからRS232Cの接続替えをする手間があります。しかも裏側になりますので、これは不便です。この問題には全く気が付きませんでした。そこで、USB⇔シリアル変換ケーブルを2本使い、AF用とRF用とを分けてパソコンに接続しました。それぞれ別のアイコンからソフトを立ち上げる事で、COMポートの指定を変えています。このようにする事で、1台のパソコンで2台のFRMSを同時に使っています。