(序)

私事で恐縮ですが、モービルハム誌の2000年3月号まで「100万人の手づくりコーナー」の連載を書いていました。しかし、急に休刊となってしまったため、4月号に掲載予定だった原稿が完成したまま宙に浮いていました。この記事が、今回紹介する「DDSホワイトVFO」です。コンテンツとしては既に古く、キットの入手にも難があります。そのため、出す事を控えていましたが、「見たい」という方が居られる事と、実は出したい理由がありました。

当時の原稿そのままでは意味不明となる部分は修正しましたが、それ以外の加筆、修正は控えています。

1.はじめに

モービルハム誌98年10月号に、DDS VFOを使った、「プラグイン方式オールバンドトランシーバ」を紹介しました。大変多くの方から、ROMの焼き付け依頼や問い合わせがありました。このVFOはオールバンド用に作ったものですが、周波数構成が固定されており、他に応用するには不便な点もありました。そこで新たにユニバーサルに使える、写真1のようなVFOを作りましたので紹介します。

写真1 DDS VFOの外観です。ケースにはタカチのCU-14を使用しています

このVFOはCPUでコントロールするDDS VFOです。バンドやモードは自分で設定し、メモリーに入れておく事ができます。オールバンドにもシングルバンドにも、またラジオやSGにも変身してしまいます。設定前は「真っ白」という事で、ホワイトVFOとしましたが、実際にはデフォルトの設定で動作します。

2.DDS VFO

ハードは、前回のVFOと大きく変わりません。光学式のロータリーエンコーダの他に、メカニカル式のロータリーエンコーダも設け、補助的に使うようにしました。これで、周波数を大きく動かす事が楽になります。

モードとしては、トランシーバ、SG、ラジオ、コリンズとしました。タクトスイッチで、バンドを変えて行くと、バンドに応じたモードに切り替わります。同一周波数であっても、異なるバンドとしての設定も可能です。例えば、50MHzのSSBとFMを違うバンドとして設定する事ができます。デフォルトの設定としては、表1のように1.9~28MHzのバンドがIF周波数11.272MHzで設定しています。50MHzは2逓倍用出力となります。51MHzのFMでは2逓倍用でIFが10.7MHzとなり、メカニカル式ロータリーエンコーダの10kHzステップのみとなります。他にSG、RADIO、コリンズと、計16バンドを0~Fとして設定しています。ソフト的にはテーブルを増やす事でいくらでも増やせますが、多過ぎても使い難くなる事から16バンドまでとしました。

表1 各テーブルの初期設定値です。変更が「ぐちゃぐちゃ」になった時には、「10Hz」を押下しながらPOWER ONする事で、この設定値に戻す事ができます。

トランシーバモードは表示する周波数からIF周波数を加減算します。SGモードはDDSを目一杯に、0~20MHzの表示した周波数をそのまま出力させるものです。レベルは高い周波数で低下しますが、16MHz付近までであれば、ほとんど一定のレベルを取り出す事ができます。もちろん周波数は安定そのものです。51MHzのFMモードでは、IFを10.7MHzとして2逓倍用の出力をします。従って、20MHzを少しオーバーするところまで出力できるようにしています。

ラジオモードは、DDSの応用を考えた時に出てきたものです。最初は0~30MHzのゼネカバ受信機を考えたのですが、受信機本体側を作る時に、入力のフィルターが面倒となる事から、0~10MHzの簡易型としました。これで入力は10MHzのLPFだけで済ませる事ができます。10MHzまでとはいえ、結構面白いラジオです。このラジオはオプション(?)ですので、別に紹介する事としましょう。本格的に0~30MHzとするのであれば、40~70MHzのDDSを作るとか、入力のフィルターをバンド毎に作って切り換えるという、簡易ラジオではないレベルになってしまいます。

コリンズモードは約10年前にDDSを手がけ始めた頃ですが、コリンズマニアであるJA9WMC中村真一さんの依頼で、コリンズ専用のソフトを作った事から始まります。100~199.9kcを表示して2.7MHzから引くという独特のソフトでした。中村さんはこれをKWM-2,KWM-2A,75S-1に使い、立派に動作する事を試してくれました。但し、レベルが少し低いので、アンプを入れる必要があるようです。また、当時はシールドを2重にしていなかったため、ケースに手を乗せるとピロピロとノイズが出たそうです。今はかなり軽減されているはずです。なお表示はkHzではなくkcを使っているのも、中村さんのこだわりからです。

中村さんはモービルハム誌のVS欄でも度々登場していましたが、1999年9月にサイレントキーになってしまいました。そこでメモリアルとして、このホワイトVFOの中にコリンズモードとして復活させています。なお、私には使い道がありませんので、細かい事は良く解りません。このコリンズモードであっても、周波数や加減算を変えてしまう事は可能で、コリンズ表示とkcのみが固定されます。

写真2 内部には、もう一つのケース(タカチ YM-150)がある2重構造になっています。

写真3 内側のケースの中にCPUとDDSの基板を入れる事で、ノイズが外に漏れ難いようにしています。

写真4 ロータリーエンコーダの上側にあるのが電源に入る抵抗とコンデンサです。

3.回路

図1に回路を示します。主な機能は、ほとんどソフトでまかなっています。基本的な回路はプラグイン方式オールバンドトランシーバのDDS部分と、ほとんど変わりません。各設定を外部から変えてメモリーするソフトとなっていますので、RAMを使う必要があります。そこで、バックアップ用の電池が必要になります。また、クリックの付いたメカニカル式ロータリーエンコーダも併用し、10kHzのUP/DOWNをしています。これで大きく周波数を動かしたい時の操作性が、ずっと良くなりました。なお、広いバンドやSGモードに対応するため、バンドによって100kHzのUP/DOWNも選ぶ事ができます。メカニカル方式のロータリーエンコーダでも、100kHzステップで設定すると10MHz位はすぐに動かせます。

図1 DDSホワイトVFOの全回路図になります。

4.部品

ほとんど秋月電子のキットを組み合わせています。DDSキット、スーパーAKI80と2桁16文字のLCDです。

100kHzや10kHzステップのアップダウンは、秋月電子で購入した1回転25パルスのメカニカル式ロータリーエンコーダです。光学式ロータリーエンコーダは一回転50パルスのコパル製で、秋葉原の鈴商で購入しましたが、既に品切れです。一回転250パルス程度の場合は4倍モードではなく、ノーマルモードの方が使いやすいと思います。

メインのツマミは、ロータリーエンコーダの回転のフィーリングに合わせて選びます。ソフトとの相性もありますので、実装してからソフトのチューニングをすると良いのですが、取りあえず4倍かノーマルかで合わせて下さい。軽く回り過ぎるロータリーエンコーダは、読み飛ばしが出て使い難くなります。

5.ソフト

図2のように、タクトスイッチによって周波数と共にモードも切り替わって行きます。基本設定の変更を行う場合には、タクトスイッチを押しながらPOWER ONします。BANDスイッチをONしながらPOWER ONしますと、各バンドの最低周波数、最高周波数、中間周波数を切り換えるモードに入ります。また、これらの加減算パターンや、トランシーバ、ラジオ、コリンズ、SGなどのモードも設定します。最初は最低周波数の設定で始まり、FLOCKを押下する事で、次の最高周波数などの設定に移行します。このようすを図3に示します。モード設定テーブルは、図4のようになっています。この図を参考に変更して下さい。

図2 タクトスイッチの操作方法を表しています。

図3 バンド設定の変更方法で、このようにLCDを見ながら簡単に変更する事ができます

図4 バンド毎のモード設定テーブルの構成です。変更方法は図3の一番下になります

なお、FLOCK中に設定の変更をしようとすると、TUNEのツマミが効きません。これはサブルーチンを共用しているためで、10Hzステップも同様になります。この場合は、解除してから変更をして下さい。

BAND DOWNを押下しながらPOWERをONしますと、使用可能なバンド数を設定できます。図5にこの様子を示します。例えば「5」と設定すると、0~5の6バンドを使用する事ができます。「0」はなしではなく、0番のみ使用できるシングルバンドとなります。設定がおかしくなった時や、デフォルトに戻したい時は、10Hzを押下しながらPOWER ONします。CPU基板を作って最初に電源を入れた時は、RAMがクリアーされていませんので正しく動作しません。一度10Hzを押しながら電源を入れる事で、デフォルトの値に設定されます

図5 バンド数の設定方法です。これも簡単に変更可能です。

例えば50MHzのシングルバンドで使う場合は、デフォルトのバンド0を1.9MHzから50MHzに書き換えます。また、使用可能なバンド数を0としますと、電源ONした時にはいつも50MHzシングルバンドとなります。

光学式ロータリーエンコーダは50パルス/回転を使っていますが、今回は250パルス/回転程度も使えるようにしました。このため4倍モードを使うと一回転で1000ステップとなり、読みこぼしがひどく使いにくいものとなります。そこで、4倍モードとノーマルモードの切り換えが、モード設定テーブルでバンド毎にできるようにしました。

ソフト自体は上手なものではありません。アセンブラで書いた、3000行を越えるものです。長いソフト→下手で、上手にループを使えば、ずっと短くできるのでしょうが、作った本人が混乱しないような作りになっています。またLCDの周波数表示で、ゼロに斜め棒が入る事を嫌って、O(オー)で表示しています。

「WHITE」ではソフトの開発時に面倒なので、「白」の「SIRO」でパソコンと格闘していました。犬の名前のようですが、ナンバー48まで進んだ「SIRO」です。

6.おわりに

DDSを使った、何にでも使えるVFOを目指して作りましたが、まだまだ考えの不足している部分があると思います。周波数出力と表示方法の組み合わせだけなのですが、まだアイデアはあるはずです。

DDSを始めた頃は、「○○MHz用」「コリンズ用」「オールバンド用」とROMを何個も作っていました。先の中村さんと「一つにできると良いね」と話した事があります。何年もかかって、ここまで来た感もあり、中村さんも電離層の彼方で喜んでくれている事でしょう。もしかすると、「まだまだ、甘い!」と怒っているかもしれませんが・・。

(序)

ここまで読んで頂いてありがとうどざいます。どうしても日の目を見たかった理由が、最後の数行に凝縮されています。JA9WMC中村さんは会社の同僚でした。私がモービルハム誌の連載を書いていますと、編集部に「ヨイショ」のレポートを沢山書いてくれました(ナイショですが)。その関係でVS欄に登場したり、ボールペンなどを当てていました。

 

なお、パソコンの環境が変わってしまった関係で、既にソフトの修正はできません。もし、ROMを希望される方が居られれば、コピー程度は可能ですのでメールをお願いします。