1.はじめに

自作の送信機やトランシーバーを作ったりしていると、時々マイクコンプレッサが欲しくなる事があります。自作の送信機では、このような付加的なものを内蔵する事は、ほとんど無いようです。回路を複雑にしたくない事が第一と思いますが、マイクアンプを兼用できるICがあるとするとどうでしょう。一度試したくなった事から始まりました。

テープレコーダには、録音する時にレベルが一定になるようなALCが付いています。この専用ICのTA2011Sを、千石電商で180円で購入しました。写真1のような、リミッタとはちょっと違ったアクティブなマイクコンプレッサです。今後の応用を考えると、このようなALC用ICも面白そうです。

写真1 このようなマイクコンプレッサです。ジャノメ基板をアルミ板に固定しただけで、「実験用」という雰囲気が漂っています。

2.実験

テープレコーダは、話し声と音楽ではALCの使い方が異なると思います。音楽はピアニッシモからフォルテまでを、ダイナミックレンジを圧縮して録音する必要があります。音声とすれば、常に100%近いレベルで、しかし100%を超えず、しかも自然に、録音する必要があります。これはマイクコンプレッサと似ているというより、ほとんど同じといっても良いでしょう。

データシードとほぼ同じ図1の回路で、試しました。ICのデータシートでは、出力を0.6V一定に保つようになっています。試しに入力対出力の特性を1kHzで測定すると、図2のようになりました。データシートと単位が違いますし、誤差も大きそうな測定ですが、曲線の形としてはほぼ同じです。これを見ると、全て-4dBmで出力するように見えてしまいますが、そうではありません。最大出力を出力すると、次にレベルが下がった時にはその分出力も下がります。この場合は、先ほど最大出力を出した入力レベルを基準に、リニアに下がります。ただ、一定時間が経過すると、最大出力まで上昇しようとします。つまり音声を一定レベルにする事になります。レベルが上昇するタイミングを調整する事で、状況に合わせた最適で自然なコンプレッサとなる訳です。このタイミングは、CとRの時定数によって調整可能です。しかし、Cを連続的に可変する事は不可能です。いろいろと試したところ、50kΩVRと47μFのシリースを入れる事で、連続的にタイミングを変える事ができました。1μFは、タイミングが短くなった時に正しく動作するように入れています。入出力特性は一般的には2次元で十分なのですが、この場合は時間の概念が入ってきますので、3次元で表す必要があります。ところが、これが難しく、上手な表現が見つかりません。

図1 ICのデータシートを参考にテスト回路を作成しました。

図2 入出力特性です。データシートとは測定の単位が違いますし、誤差もあるでしょうが、同じような曲線になっています。

写真2はブレッドボードを用いて実験している様子です。これでは不安定ですし、正確な特性を取るような状態ではありませんが、実験のスタートとしては十分です。

写真2 最初はこのようにブレッドボードで実験を行いました。

このようなALC用ICを用いて、変調度を深く一定に保つ事ができます。しかしマイクを叩いたりした場合は、アタックタイムが50msある関係で、過変調を100%完全に抑える事はできません。意図的な事をしなければ問題ないと思います。最終的な回路図を図3に示します。

図3 最終的な回路図です。

3.製作

写真3,4のようにジャノメ基板の配線側に、100均で購入した銅テープをアースとして貼っています。手回しのミニドリルで必要なところには穴を開け、基板面積が効率良く使えるようにします。その後で、写真5のように部品を取り付けています。この銅テープも最近では入手が難しいようですが、何本か購入した最初の一本を数年後の今でも使っていますので、相当遊べる事になります。専用のテープか、ホームセンターで屋根の補修用を購入すれば良いと思います。

写真3 100均で買った銅テープをカッターで細く切り、ジャノメ基板に貼り付けます。

写真4 概ねアース部分を貼った状態で、手回しのミニドリルで部品を通す穴を開けます。

写真5 配線終了した様子です。貼り付けた銅テープ間もハンダ付けします。

今回は、ケースに入れてコネクタも取り付けるという工作はせず、実験用に近い作り方としました。もちろん、このままでもトランシーバーに接続できますが、実験と調整に主眼と置いています。電源もボタン型ニッカドとしましたし、入出力も基板上の端子のままです。コンデンサマイクを使うのであれば、図4のように電源を追加する必要があります。

図4 コンデンサマイクには、このような電源を用意しておきます。

4.調整

マイクコンプレッサとして使用するのであれば、オシロスコープで変調状態を確認したいところです。バックノイズの浮き沈みはありますが、きちんとしたレベルに調整さえすれば、マイクコンプレッサ使用とはほとんど気が付かないと思います。このようなコンプレッサは、変調度は上がるのですが、あくまで過変調にならないように調整します。従って、オシロスコープを使って、変調波形を観測しながら調整しましょう。このようなICは、過変調になるように調整してしまうと、常に過変調になってしまいますので注意が必要です。

5.おわりに

送信機やトランシーバーを自作していますと、多少は音質も気になってきます。とは言っても、まだまだ全体をどうやって安定に動かすかに苦労している段階ですので、「高度な音質」を論ずるレベルには到底届いていません。ただ、基本的な事ですが過変調を見逃す訳には行きません。自作とはいえ、聞こえれば良い、解れば良い、という事では通用しません。現状では「音質」といっても、その程度のレベルですが、地道にレベルアップができれば良いと思っています。