1.はじめに

普通のTXやRXの実験をしているのであれば、9~14V程度で1~3A程度の電源があれば大体事足ります。しかし、OPアンプの実験などを始めると、マイナス側の電源も欲しくなってきます。このような場合は、プラス側とマイナス側の電圧を同時に制御するトラッキング電源が良く使われます。しかし、別々に制御しても個々に電圧計を付ければ十分ですし、特にトラッキングしなくても使えない事はありません。実験の場合にはその方が便利な場合もあります。

そこでトラッキングしない、写真1のような+-の電源を作ってみました。もちろんトラッキングする電源を否定するものではありません。今までトラッキング電源を作った事もありますし、トラッキングした方が便利な場面が多い事も確かです。

写真1 赤が+側、黄が-側の電源です。

2.回路

電圧を可変しますので、可変電圧の3端子レギュレータLM317T(+側)とLM337(-側)を使いました。図1に回路を示しますが、ほぼデータシートどおりに作っていますので、何も目新しいものはありません。120Ωは5%の普通の1/6W抵抗を用いました。VRはあまり見かけませんが、2kΩを使っています。IC周りのダイオードは、ICの入力側ショート時にICを保護するものです。

図1 全回路図になります。

電流は100~200mAもあれば十分なのですが、手元にあったのが1.5Aタイプで、0.2Aタイプ(LM317H)ではありませんでした。あくまで1.5A用のICですので、1.5Aで保護回路が働く事となりますと、そのときには既に遅くトランスが発熱し・・という事態になってしまいます。AC100V側には500mAのヒューズは入っていますが、2次側に100mA程度が流れてもこのヒューズは切れません。そこで、レギュレータICの入力には、100mAのポリスイッチを入れています。

ポリスイッチは流れる電流によるジュール熱を使い、電流が流れ過ぎた場合に自ら高インピーダンスとなって回路を遮断するものです。熱が下がると低インピーダンスに戻るという、便利な交換不要のヒューズで、ここではPTC社の100mAのRLD60P010X(写真2)を使用しています。各社から各種類出ていますし、電流値としては細かく揃っていますので、使い道もいろいろ考えられます。100mA程度だと100円以下で入手できますので、ヒューズホルダー等も考えるとガラス管ヒューズよりも安く、非常に小型ですので、基板に載せる場合も簡単です。初めは出力に使用するつもりだったのですが、僅かに抵抗がありますので、電圧の変動を起こしてしまいます。そこでICの入力側に入れましたが、どちら側が良いのかあまり検討はしていません。プラスとマイナスでショートした場合に、片方のポリスイッチがOFFしますので、ONしている側の電圧がOFFした方に回り込んで、電解コンデンサに逆電圧を加えてしまいます。従って、このような使い方をしては保護回路がうまく働きませんので注意して下さい。ICの出力側にポリスイッチを入れた方が良かったのかもしれません。

写真2 これが100mAのポリスイッチです。

ポリスイッチの図面表記で迷ったのですが、抵抗が温度と共に高くなるような表記を使いました。図面によってはヒューズを使ったり、<>が重なったような表記もあるようですが、これから決まって行くのでしょう。

3.製作

ケースはタカチのCU-14を用いました。何しろメータ、VR、出力端子が2組ありますので、この程度のパネル面の大きさは必要になってしまいます。使いやすさを考えると、GNDになる黒の端子は共通とせず、2個設けた方が使いやすかったと思います。内部の基板上はガラガラです。電源ヒューズは、写真3のようなサンハヤトのヒューズホルダー変換基板(CK-24)を使って基板上に載せています。切れた時にケースを開けるのも面倒ですが、ここは仕方なしと諦めました。

写真3 このような、ヒューズをジャノメ基板で使えるように変換する基板を使いました。


電圧計は20Vのものを購入しても良いのですが、何しろジャンクのラジケータやメータがゴロゴロしています。買ってしまうのももったいないので、2個揃っているメータを選んで使う事としました。そして、回路作成後に分圧器の抵抗を調整してフルスケールが20Vになるようにしました。次に、デジタルテスターで出力電圧を確認しながらメータに振った目盛の位置を確認します。目盛は他の0~20V計の目盛を外して、スキャナーで読み込みました。不要な部分は消して、大きさを調整して印刷するという「パクリ目盛」です。もちろん最初からパソコンでオリジナル目盛を作る事も可能です。

写真4のようにジャノメ基板を用いて配線しています。電流の通り道にはなるべく広く銅テープを貼るようにしていますが、100mAですので、それ程気を使う必要はありません。あまり考えずに作り始めたため、とても理想的な配置とは思えません。写真5のように銅テープを貼って基板を作っています。ICは正負でピンが異なりますので十分に注意して配線します。プラス側は慣れているためか、何となく違和感なく配線できるのですが、マイナス側はケミコンなどの極性に十分注意していても間違いやすいと思います。

写真4 一応基板には入りましたが、とても理想的とはいえません。

写真5 このように銅のテープをベタベタと貼っています。

出力が固定の電源であれば、ICの入力電圧を調整する事で消費電力を抑える事ができます。しかし、このような可変電源とする場合には、ICの入力電圧がある程度高く設定される上に、出力を下げて使う場合もありますので、電流は少なくても熱を出します。そこで写真6のようにアルミ板で放熱器を作り、ケースの裏側に固定しています。これで100mA流してみますと、ほんのり温まる程度ですので十分かと思います。ただ取付けを考えると、もう少し背を高くすべきだったと思います。なおこのICは、フィンが電源の入力や出力となっていますので、必ず絶縁タイプのシートが必要になります。このアルミ板を取り付けた内部の様子を写真7に示します。

写真6 アルミで作ったヒートシンクです。

写真7 内部はこのようになっていて、裏側のパネルもヒートシンクの一部です。

4.調整

電圧計の目盛が合うように調整するだけですので、20Vの電圧計を購入した場合には調整の必要もありません。電圧が正常に出力される事を確認するだけです。目盛を作った場合には、テスターで測った電圧と表示電圧が一致するように、半固定VRを調整します。もちろん+側と-側は別々に行います。

安全対策の確認として、出力端子に小さめの抵抗を付けて100mA~の電流を流し、ポリスイッチの動作を確認しておきましょう。もちろん復帰の確認もです。これで安心して実験をする事が可能となります。抵抗のW数には余裕のあるものを使用して下さい。

5.おわりに

思った以上に便利な電源となりました。規模にもよりますが、QRPトランシーバーの実験にも使用可能です。大きい負荷を接続すると、すぐにポリスイッチが切れてしまいますので、安心して使う事ができます。初めて使ったポリスイッチですが、とても便利です。電圧計で、切れたらしい様子と復活する様子が解りますので、これがまた面白く何回も切って遊んでしまいました

これからは、ポリスイッチをたくさん使ってみたいと考えています。いろいろと応用がありそうなデバイスです。